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蟹、ピジョーの最後を背負う

 浜の蟹は、息絶えたピジョーの体をひとりで背負い、彼の故郷である北野の谷に向った。

 故郷といってもピジョーの家がある分けではない。かつて村人に燃やされて、いまは灰の山が残っているに過ぎない。しかし蟹はピジョーと約束したのだ。いいことひとつなかった故郷だが、ピジョーが埋めた凍えるような寂しさと、ひとりで流し続けた涙が眠る、あの北野の谷に必ず埋めてやると。自分がピジョーにしてやれることは、最早それしかないのだと。「俺がお前の最後を背負う」と。


 多摩の浦から北野の谷へ行くには、柿太郎たちの村を通らなければならない。谷に通じる道はそれしかない。蟹はひとりでピジョーを背負い村の道を歩いていった。

 多くの村人たちが道に出て、そのおかしな姿に驚きながら蟹を眺めていた。浜の蟹が、羽根が燃え尽き、ただの汚れたかたまりとなったドバトのピジョーを背負い歩く姿を見ていた。

「臭い。あんな汚いものをどこへ持っていく気だ」

 村人の声が聞こえる。蟹は黙って下を向きピジョーを背負い歩いて行く。疲れからか蟹の足がふらつく。道に出て眺める村人に寄りかかりそうになる。

「汚い。こっちに来るな、蟹!」

「そんなゴミをどこに持っていく気だ!」

 村人は棒切れでふらつく蟹を叩く。蟹はなにも言わずピジョーの塊を守るように歩く。村人は棒切れで蟹を押しやり、家の戸を強く閉めた。


「ピジョーだ。昔、北野の谷にいたピジョーだ。蟹がピジョーを背負って谷に向かっているぞ」

 また村人が呟いた。それを聞いた他のものたちはみな、目を伏せた。

「またあの汚い、キチガイ・ピジョーが戻ってきたのか。死んで帰ってきたのか!」と村人が言う。

「ピジョーはなにもしていない。なにもしていないがすべてをやり切ったんだ。俺が運んでやるんだ・・・」

 蟹は静かに、しかし自信に満ちた声でつぶやいた。

「ピジョー、なぜ死んだんだ。どうしてそんな姿になったんだ」

 他の村人が蟹に言う。蟹は答える。

「俺たちが、やったんだ。ピジョーをこんな姿にしたんだ」と。

「俺は赦されなくていい」と。


 村人のなかには蟹の後に従う者もいた。柿太郎もそのなかにいた。



(つづく)


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