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65:五月二十七日その③

「おい露木……お前こいつに俺のこと言いやがったろ」

「……えへ」


 駅前で待ち合わせて合流した相手、富岡。

 その富岡はそれはもうランランと輝く瞳で俺たちを待ち受けていた。


「要くんが会いたいって言ってくれるなんて、夢みたい」

「……お前、マジでどんな誘い文句使いやがった?」

「こ、これから放課後デートだから、富岡も誘ってくれ、って要くんが言ってました、と」

「え、違うの?」


 何でお前はそんな残念そうな顔してんだよ。

 これからもっと残念な結果になるかもしれないんだから、その顔はもう少し後までとっとけよ。


「全部が全部違うわけじゃねぇんだけど、お前に聞きたいことがあってだな」

「え? 何でも聞いて?」

「…………」


 こう目を輝かせて言われると、どうして聞く気が失せるんだろ。


「美理亜ちゃん、聞かれた?」

「え? あ、うん……でも理由は話してくんないのよね。それどころかこいつ、学校でまた乱闘騒ぎ起こすところで……」

「危うく巻き込まれるところでしたよね」

「え、じゃあ琴音先輩がいないのって……」

「もういいだろ、その話は。悪かったよ。それより俺は、とっとと用事済ませて帰りてぇんだ」


 めんどくさい、本当……なんて思っていたのが思わず顔に出ていたのか、女子三人が俺を見る目は非常に冷ややかだった。

 いやだって、めんどくさいじゃん。

 ここ最近、俺の自由時間なんてないに等しいし正直そろそろ俺にも休みをだな……。


「亜沙美ちゃんの気持ちを、少しは考えてあげなさいよねあんた」

「はぁ? いや、別に会おうと思えばいつでも会えるんだし、会いたくないって言ったってお前らうちに押しかけてくるだろ」

「何か今日の要くん、変ですよ。どうかしたんですか?」

「いや、マジで何もねぇよ。言い方悪かったなら謝るけど、用事は済ませたい。ダメか?」

「いい加減訳を話しなさいっての。それが納得できる理由なら別に私たちだって、何も言わないわよ」


 もっともな言い分だというのは理解できる。

 出来るんだが……もし富岡がスカだった場合のことを考えると、前もって立川に漏れて警戒されるのだけは避けたい。

 どんな能力かもわからず、しかも本人が自覚を持っていないということなら危険なのか安全なのかもわからない。


 ならば最悪の事態は想定しておくに越したことはないはずだ。


「全員に確認出来たら、教えてやるよ。お前らを信用しないとかそういう話じゃなくて、先に確認する必要性があるからこうしてる。理解できないなら仕方ないとは思うけどな」


 何でそこでみんな黙るんだよ。

 能力の正体がわからないとは言っても、何となく富岡は先日のあの様子から考えて、開眼とかしてても何の不思議もなさそうなんだよなぁ。


「で、みんなは何を聞かれたの? 生理周期とか?」

「アホか、そんなの聞いてどうすんだよ。そういうんじゃなくて……お前、最近変わったことあった?」

「……把握しておいて、損はしないと思いますけど」

「ていうかそういうの無頓着なのもさすがにどうかと思うけどね」

「…………」


 だから今はそういう話をしてるんじゃないんだっつーのに……。


「ああ、そういう……ちなみに私なら、薬飲んでるから大丈夫だよ? こないだも言ったけど」

「え? 薬?」

「どういうことですか?」

「お、おい富岡お前……」

「あれ? 内緒だった? もしかしてそういうことじゃなかった?」


 何をすっとぼけた顔して、この女……。

 見ろ、この女どもの冷ややか通り越して、もはやブリザードの中に放り込まれたみたいな空気。


「あとでしっかり聞かせてくださいね、要くん」

「そうね、じっくり聞かせてもらう必要があるわよね」

「マジかよ……」


 二つの意味でがっかりだ。

 富岡に関しては質問と同時に目を見てみたが、それらしい記憶が引き出されることもなかった。

 そうなると、立川だけ……。


 よりにもよって、能力とか宿ったら一番展開が読めないやつに……。


「何か怖がってる感じがするけど……池野さんに何か言われたの?」

「まぁ、そうだな。池野さんが言ってたことではある。けど、まだ話せない。というか富岡がビンゴだったらそこで明かすのはアリだと思ってたんだよ、寧ろ」

「そんな大変なお話なんですか?」

「まぁな。何も意地悪して言わないわけじゃないんだ。頼むから、あいつに聞くまでは静かにしててくれ」


 こればっかりは本心から言ったつもりだが、何故か女子連中は浮かない顔をしている。

 まぁここまできて立川だけが仲間外れの様な感じになるのは……というのは俺としてもないわけじゃない。

 

「何で沙紀ちゃんの家行かないの?」

「いや……先に帰ったってことは何か用事でもあんのかなって」

「まぁ、確かに用事があるとは言ってたけど……もう少し気にしてあげても良くない?」

「いや、気にならないとは言ってねぇだろ。ただ俺は個人の意思を尊重してるだけで……」

「それはある意味で放置とか放任とも言いませんか、要くん」

「お前、割と辛辣だよな」


 個人の意思を尊重しても、関わり過ぎても何か言われそうな気がするし、俺がどうすればこいつらは満足するんだ?

 じゃあこれから立川を探しに行くぞ、って言っても文句が出る気がして、正直もう帰りたい気分になってきている。


「とにかく沙紀に何かある、っていうのは確実なのよね?」

「まぁ……絶対、とは言えねぇけどそうだな。お前らがハズ……白だったからな」

「…………」

「…………」

「言い方が悪かったのは認めるし謝るから、その顔やめようぜ……」


 根に持たれている。

 いや、俺が悪かったんだということは漸く自覚したんだけど……ここで逃げたらこいつら、地の果てまで追ってきそうだよな。


「じゃあ今日はどうするの? 用事これだけ?」

「ああ、まぁそうだな。遠路はるばるご苦労さん。もう帰っていいぞ、俺も帰るから」

「……は?」


 富岡、その目やめようぜ。

 元々お前結構でかい目してんのに、更に見開かれて宇宙人のモデルみたいになってるから。


「わかったわかった。飯だよな、そうだよな。腹減ったもんな。何食いたい?」

「晩御飯ですか……そういえば、いい時間ですよね。これから要くんの家に行ってもいいですか?」

「……ダメっつったってお前ら勝手に来るじゃん」


 だったら何か買って帰るか、と提案すると露木が意外なことを言い出した。

 

「それなんですけど……食材を買って行きませんか? あと調理器具も少し。私も少しお金出しますし」

「は? あの生米事件を忘れたのかよ、お前。お前の女子力で料理とか……」

「ちゃんと料理できる人間がいるし、これでも望ちゃん努力してるんだから。見てあげなさいよ」

 

 ジロリと戸越に睨まれて俺は言葉を失う。

 ここでタコ殴りにされるのと、料理で死ぬかもしれないのとどっちがいいか。

 割と究極の二択なのが恐ろしい。


「わかったよ、その代わりお前ら絶対目離すなよ? 信頼ってのは実績を積んで初めて形成されていくもんだ、そうだろ?」


 料理ができる人間って、そういえば……戸越のことか?

 こいつそういえば割と女子力高いんだっけか。

 前に俺にクッキー焼いて渡そうとして、結局諦めた、なんてエピソードがあったなぁ……。


 つまらんことを思い出してしまった。

 どうせ今度のバレンタインだかはまた同じ様にして、最悪こいつのことだから投げつけてくるに違いない。

 とまぁ料理の腕は一応信用できそうだし、ひとまずスーパーに寄って帰ることになった。

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