11:四月十二日その⑤
「お前の弱点は大体わかっているからな。お前は考え事をするとき、相手の目を見なくなる。思考が混ざってごちゃごちゃになるから」
「…………」
露木からプレゼント、と言われた段階で俺は先輩の言う通り、露木の目を見なくなっていた。
ここに俺の敗因はあった。
もし俺が露木の目をちゃんと見ていたら、展開はかなり違うものになっていたであろうことが予想出来る。
「で、ちなみに上と中は何だと思っていたんだ?」
「そ、それは……」
「それは?」
さすがに膝枕とか恥ずかしすぎて、とっとと終わらせたいと思いながらも、割と感触が心地よくて何となく躊躇われる。
そしてキスとかそういうことを考えた、なんてことも何となく言いにくい。
「ず、頭突きと腹パンかなって」
「…………」
「…………」
あれれ、おかしいな。
先輩のこんな残念そうな顔、初めて見た気がする。
「はぁ~……お前は本気で言ってるのか。そんな狂ったことを露木さんが要求するとでも?」
「お、思ってません」
「別に……そうしたいならしたらいいですけど……私、痛いのあんまり好きじゃないです」
「で、ですよね」
俺だって女に暴力振るって痛がってるの見て喜ぶ趣味なんか持ち合わせてない。
「上は……わかってるんじゃないですか? だから意識的に避けたんじゃないかなって」
「…………」
「中は多分わかってなかったんじゃないか?」
「……ええ、まぁ」
「多分お前にとっては一番おいしい展開だったに違いないのに、お前は本当に無欲なやつだな。何と、乳もみだ」
「な……」
乳もみって……ていうか華の女子高生の口から乳もみなんて言葉が出てくることに俺は驚いてしまった。
それってあれだよな、おっぱい触ってよかったっていう……。
のああああああああ!! 俺は何て愚かな選択を!!
なんてのたうち回ったりするほど、俺飢えてない。
いや、触りたくないって意味じゃもちろんないが、あ、そうだったの……そっかぁ、くらいの残念感でしかない。
「そ、そんないい加減なことで触らなくて良かったよ、うん」
「本当かぁ? お前くらい歳の男子だったらそれこそ、腹にイチモツって感じだと思うんだが」
「先輩、使い方間違ってます。言いたいことはわかるんで、補足は結構ですけど」
カチンコチンになったら腹にビターン! ってイメージを伝えたかったんだろうが、日本語は正しく使われるべきだ。
「あの、イチモツって何ですか?」
「……は?」
「おお? 知らないのか、露木さん」
「あの、ていうか俺もう起きていい?」
「も、もう少しだけ……」
これじゃどっちがプレゼントしてんだかわからないと思うが……。
寝ちゃいそうなんだよ、このままだと心地よすぎて。
「イチモツっていうのは……」
「先輩、ストップ。ほっとけばそのうち理解するんだし、女の子がそんなことを説明するもんじゃないと思いますよ」
「お前くらいだぞ、私を女の子、なんて言うのは」
「そんなことないと思いますけど」
確かに身長高めではあるし、ある程度鍛えているが故の圧迫感みたいなものはあるにせよ、内面が女であることからそう言った雰囲気は普段の所作からもにじみ出ている。
おそらくは育ちがいいのだろうと思うが、決して下品な人間ではないことが窺い知れる。
「まぁ、そんな風に扱ってくれるお前だから、私は好きなんだけどな」
「……え?」
「え?」
「ん? あれ、言ってなかったか? 私は……」
「ま、待ってください。い、いいですやっぱり。聞かなかったことに……」
「優木くん! それはさすがにダメだと思います!」
「ぐ……」
何? 何なの?
何さらっと爆弾落としてんのこの人。
ていうか何で?
可愛がられてるっていうのはわかってたけど、俺この人からそんな感情が読み取れたこと、ないんだけど。
「あ、あの……あれですよね、弟みたいで可愛いからっていう、家族愛的な」
「いいや?」
「え、じゃあ……優木くんを、男の子として、っていう?」
「そうだが? 何か問題あるか?」
「…………」
「…………」
オーケイ、落ち着こうじゃないか。
俺は男だし、渕上先輩は女だ。
うん、だから問題はない。
ないんだけど……えええええ!?
久々に頭の中がパニックだ。
「私は割と脳内でお前を犯しまくっているぞ、優木。所謂オカズってやつだな」
「や、やめてください! ちょっと、ぶっちゃけすぎですよそれは!!」
「別にいいじゃないか、事実なんだし。お前だって見て知っているんじゃないのか?」
「…………」
見たこと……ないはずだ。
いや、あるのか?
どうなんだっけ……。
この人目立つから、一瞬目が合っても他の生徒がすぐ目に入ってすぐに上書きされちゃうんだよな。
「ちなみに直近だと……」
「ま、マジでやめてください。見る目変わっちゃう!」
「まぁこんなことを言ってはいるが、私の体にはまだ誰も指一本入れたことはないからな」
「…………」
「…………」
「ツッコんでもらえないだろうか。触れたことはないだろ、とか」
「ツッコみづらいですよ、そのボケは……」
俺の人生史上最大と言っても過言ではない爆弾が落とされ、先ほどまでの和気藹々と……はしてなかったかもしれないが、少なくとも平和な雰囲気ではなくなってきた気がする。
「ちょ、痛っ。お前、何だよ」
「ゆ、優木くんは渡しませんよ」
そして露木が触発されたのか、俺の頭を膝枕のまま力いっぱい抱え、先輩から遠ざけようとする。
首折れたらどうしてくれるんだこいつ……。
「ほう、渡さないとは? 君の所有権は今既に優木にあっても、優木の所有権は未だ誰のものでもないはずだが?」
「しょ、所有権って人を物みたいに言うのはやめません?」
「わ、私だって、優木くんが……」
「ん? どうした、続きを」
何でこんな煽る様な言い方するかな、この人。
収拾つかなくなりそうだから、その辺で勘弁してもらいたいんだが。
「私だって……」
「おい、もういいからその辺で……」
「わ、私だって! 優木くんが好きなんですから!!」
「…………」
あーあ、言っちまいやがったこいつ。
わかってはいたことだが、こうも正面から来られるとさすがに気まずい。
どうにもこいつの顔も先輩の顔も、まともに見られない。
大体何だよこいつら。
俺なんか好きとか、趣味悪すぎ。
男見る目皆無だろ。
是非ともドッキリでした、みたいな展開を望むが……目の前の二人は本気だ。
本気で狩りにきてやがる。




