騒動の中で 1
太子がアウナに言及する少し前のことだが、ロトの隣にサウォークの姿はなかった。
外に出て大きく伸びをするとストレッチする。
「ああいうのどうも慣れねえなんだよな~」
すれ違う兵士たちに気軽に声をかけながら、周囲に目を配った。長年の兵役の癖だった。
「飲むならアギーレたちと酒場でいっぱい飲みてぇや」
茂みがガサガサと動く。
上から覗き込んだサウォークは声をひそめて気安げにささやいた。
「よう、双子さんたち。どっちがどっちか知らんけど久しぶりだな。元気か?」
茂みの動きは止まり、静かになった。
それから低い子供の声が聞えてきた。
「でかいおっちゃん」
「なんでこんなとこにいんの?」
「そらーあれよ。夜風が気持ちいいからよ」
サウォークはパイプを取り出して火を付けながら軸でちょっと壁際の端を指し示した。
「あそこから外に出るんだろ?いたちかねこでも出入りしてそうな穴があるな~って思ってたんだ」
「いいから黙っててくれない?」
いらいらしたような声が聞える。
「今ウヌワもてんてこ舞いだし、チャンスなんだよね。見てみぬふりしてくれたっていいだろ!」
「いいけど、こんな夜中に町に繰り出してどうすんだお前たち。まさか一杯やるわけでもあるまいしよ。いい子はねんねの時間だよ」
いらいらした声よりは比較的落ち着いた声が聞えてきた。こちらがニマウのようだ。
「黙っててくれたら面白いこと教えたげる」
「ちょっと!ニマウ!」
「いいから、一緒においでよ」
サウォークはちらっと輝かしく灯りのともる城の窓と中のざわめきを見て、茂みを見て、壁の穴を見た。
こっちのが面白そうだな。
それにこんな宴会の時にこそ警戒は怠りなくってもんだ。
おおー!
歓声のような驚きのようなざわめきが中から上がっていた。
「盛り上がってるねえ」
一人くらい抜けたってどうということはあるまい。
サウォークはパイプをひっくり返して中の灰をすて、踏み潰した。
「よしお前らの護衛してやろう、姫さんたちよ。山猿でもお前らも姫さんには変わりねえや」




