参✿ 能 ある馬鹿は無知を隠す《のうあるばかはむちをかくす》
左右に続く木板の壁は、終わりがないのではと錯覚するほど先まで伸びていた。
路端に植えられた木々は緑々としており、陽光を柔らかく石畳へと落としている。
閑静な住居地域は、雑多な裏長屋と違い空気が清楚な感じがする。
例えると、裏長屋が祭りで、ここは神社の空気とでも言えばいいのか。
予期せず出来た連れを見る。
左どなりで謳歌の腰帯を握り、片手で猫じゃらしをふり回し歩く悪たれのまめ粒。
謳歌の垂れた後ろ髪をにぎり、引きずられている小さくて丸いぼて太。
右を歩く邪羅の首にしがみついた赤ふくは、ずっと頬ずりしてご満悦だ。
反面、邪羅はずっと喉を低くうならせて、機嫌が悪い。
馴れ馴れしいを通り越したガキ三人組だ。
適当にあだ名をつけて呼んでいたら、まさかこうも懐かれてしまうとは。べつに嫌いでもないが、子供は少し苦手だ。元気すぎるし、すぐ大きくなってしまうから。
「そういえばあんちゃんさぁ、全く見てなかったけど、五日前に帰ってからもしかしてずっと寝てたの?」
ほげぇっと考えにふけっていると、豆粒がいきなりそんなことを訊いてきた。
「ああ? えー、色々忙しくしていたな」
誤魔化すように答えると、
「でもぉ」
ずるずると髪を掴んだぼて太に言われる。
「なんでオウカは帰ってすぐにウチにこなかったのぉ? みんなで待ってたのにぃ」
「のにー」
邪羅の上でへばりつく赤ふくも続けた。
そりゃあ行きづらい理由があるんだよ、とも言えない。
「あー、仕事が色々なぁ、売れっ子だからなぁ」
適当な理由を付けていると、邪羅がすごい目つきでこちらを見てきた。
余計な事は言うなと視線をやると、獣の癖に器用に呆れ顔をした。
まめ粒は「ふーん」と猫じゃらしを振り回す。子どもらしいというか、もう興味が逸れていた。
林道を抜け、長い石の階段をえっちらおっちら登りきる。
頂上の古びた木の門の上部には『札祝屋』と書かれた看板。
門を通り抜けると、白砂利がしかれた敷地が広がっており、奥には廃寺を改装した木造の建物があった。
飛び石のように埋まった丸い石畳を歩いていると、建物から一人の女が出てきた。足軽の鎧を着込んだ彼女は、すれ違いざまに謳歌へぺこりとお辞儀をした。
日焼けした肌。少し短い黒髪。右目を縦に裂くような傷跡がある。
特に見覚えはない。反射で頭を下げ、言葉を交わすでもなく正面の小上がりから家屋に入った。
チビたちの「ただいまー」の声と一緒に、艶めいた古い木の廊下を抜け、中央の部屋の敷居をまたぐ。
畳と御香の匂い。
高い天井に、立派な梁。部屋の最奥には、厳めしい顔の老人を象った木製の大きな像が置かれている。
その御前、畳に置かれた筆や墨、幾多の札に囲まれて、白い法衣を着込んだ女性が座していた。歳は四十半ば、身体の線は相変わらず細い。
後ろで括った長い黒髪には白髪が一筋混ざっている。色白で少しツリ目で、ほっそりとした顔つきだがどこか清廉さがある。
しかし彼女の最たる特徴は、其の両腕の部分だろう。
右も左も、肩から先がない。白い法衣の腕部分はだらりと垂れ下がり、その中身がないことを示している。その昔、仕事でなくなったのだ。
一見すれば痛々しいはずなのに、その顔つきには悲壮感など毛ほどもない。
彼女は芹千冬謳歌が非常にお世話になっている女性の一人である。
「謳歌さん」
凛とした声で名が呼ばれる。
「へいっ」
すぐに返事をし、背筋を伸ばし正座した。千冬の強い眼差しに射すくめられる。
「貴方の口から直接仕事の報告を訊くため、私は五日間待ち続けました」
「へいっ」
千冬の腰帯に刺した金の刀飾りが、まるで怒りの温度を表すように陽光で煌めく。
邪羅は離れた位置で知らぬふりをし、後ろにいたチビ達は、雰囲気を察してとたとた部屋から出ていった。
なんて、薄情なやつらだ。
首元に刃を突きつけられているような気持ちで、謳歌は口を開く。
「いやさ、それがね……ちょいと手違いがあってよ。現地で予想外の妖鬼が出てさ。ああもちろん倒したよ。村人も守ったさ、この俺がね」
ペラペラと口を回していると、千冬が「はて」と首を傾げる。
睨めつける視線。
「わたしが知る情報では確か、“村の家屋の半数が全壊”」
千冬の眉間に寄る深いシワ。謳歌は反射で目をそらす。
邪羅は丸まり寝たふりを続行。
「樹林は消失し、近くの川が吹き飛び氾濫した、と」
謳歌の口が真一文字にぎゅっと結ばれた。
「なぜ謳歌さんはいつも――」
こんな良い天気のはずだったのに、
「加減ができないのです!」
雷鳴の如き叱責が落ちるなんて。
「うひぃっ」
思わず肩がすくむ。しかし身構えていた追撃は、こなかった。
代わりに冷たく静かな、重たい空気が流れる。
「貴方のことです。救うべきを救ったことに疑いなどありません」
千冬の深いため息が聞こえた。
「ですが、磨道連からの評価もあるのですよ。どうせ報酬の一部は使ってしまい、残りは賠償で置いてきたのでしょうね」
すごい、大当たり。何故わかるのか。だって仕方ないじゃないか、そうでなければ収まりがつかなかったわけだし――とは言えない。
「反省、してますぅ」
「足りていないッ」
ダン、と片膝をついた千冬が右足を畳に叩きつけた。
衝撃で置かれていた筆が浮き、跳ね上げられた蹴り足で撃ち出される。そしてそれは、真っ直ぐ謳歌のおでこにぶち当たる。
「痛ッたあああ」
金属だこの筆。馬鹿みたいに重い。ばか筆だ。
邪羅が後ろで笑っていた。ぶっ殺すぞ。
やってやんぞと腕まくりした瞬間、ダンと音が聞こえてすぐ座り直した。
喧嘩は忌むべき文化ですよ、ええ。
背筋を伸ばして謳歌が座りなおすと、千冬が「とはいえ」と話を切り替えた。
「実際に想定外があったと報告は聞いています。被害に関しては褒められたものではありませんが……それでもよく、村人を守りきりました。私は嬉しく思います」
嵐が過ぎ去った後のように、千冬の気配が穏やかに変わる。
どうやら早めに終わったらしい。
良かった人を助けておいて。歓迎して酒飲ませてくれるから、調子にのってはりきっただけなんだけれどもね。
「美味しかったなぁ……」
「なんですか?」
「いや、気遣いが足りなかったなぁ、なーんて!」
朗らかに云う謳歌の後ろで、邪羅がぼそっと呟いた。
【そういえばまんぢゅうは、米でできているらしいなぁ】
へへ、ひとつですね。わかってますよ、そりゃあね。へへ。
今だけは退く、分が悪い。
怪訝そうな顔をする千冬、謳歌は満面の笑みをみせて誤魔化した。
彼女は気を取り直すように肩を下げた。
「それにしても、今日自ら訪ねてくるなど、謳歌さんも少しはやる気がでたようですね。事前に情報を仕入れていたなんて、驚きました」
「え、ああ、え?」
はて、それはどういう。脳内に疑問符の群れが踊っていたが、そこはそのまま言うほど馬鹿ではない。
「まあ、そりゃあ多少はね。いつも苦労ばかりかけていられないしな」
「謳歌さん……」
双眸を見開き、感動するように口元を緩ませ、千冬は自分の背後を見やる。
片目をつぶり、鼻で笑うような腹立つ顔をした爺の像が在った。
磨師界でぶっちぎりの仙人爺、四界驚天である。まるで遺像のように祀られているが、それはもう元気で存命だ。あの爺に寿命という概念があるのかすら怪しいと思っている。
それにしてもだ――
まさかこんな反応されるとは、正直気まずいどころではない。
ここ一ヶ月で最も頭を使い、謳歌は言い回しを考え慎重に吐く。
「ただ、俺も小耳に挟んだ程度だから、詳しくは頼ろうと思って来たわけよ。だからそんな大した事でも、ねえ」
優しく瞑目し、千冬は静かに首を振る。
「良いのですよ。事前にそう判断をしたこと自体が私は嬉しいのです」
痛い痛いよ、心が。
がさがさと後で邪羅が動く気配。後ろ手に指を二本立てる。静かになった。
くそ。いらん出費だ。出る銭もねぇけど。
「しかし謳歌さん、集まりまでもう一刻半もないですよ。木ノ宮城まで半時はかかるのですから、せめてもう少し早く来ないと。緊急雇用の試験なのですよ。御膳には観えないとはいえ、失礼の無いように気を付けなくてはいけない」
ほうほう、なるほど。
まあ大よそわかった。先ほど邪羅と話していたやつかな。
「仕方ねぇさ、だいぶ町中にも“増えている”みたいだしなぁ」
「ええそうですね。四桜結界のほころびなど、何十年ぶりなのか。現当主の芍薬様のお体の具合が、大きく関係しているのでしょう。調べるにしても、さすがにお抱えだけでは範囲が広すぎますから」
ほらきた正鵠、射抜いたり。
増えた妖鬼に手が回らずお鉢が回ってきたらしい。これは銭の臭いがする。
他の磨師達と会うことにはなるが背に腹はかえられない。
「安心してくれよ。いち木ノ宮の磨師として、俺も参加するってもんさ。あー、そうそう、所で城の試験ってのは許可証とか参加費とかぁ、いるんだっけ?」
ぼやぁっと訊くと、一瞬千冬の眉間にシワが寄った。
「なにを今更、普段の獲物と、金飾りとだけで良いと磨道連からお触れがあったでしょうに」
「あああ、そうだったそうだった! ど忘れ!」
危ない危ない。
パンと手を打ってごまかし、
「そうそう、それでちょこっとお願いがあったんだ。流石に準備万端にと思って、ほらいつもの札を三枚ほど、頼むっ!」
揉み手をみせながら伺う。
「また簡単に……ただではないのですよ。いつもツケにして」
盛大に呆れられるも「仕方ない、せめて手伝ってください」とお答えをいただく。
いつもそうだが、言ってみるものだ。
そそくさと、千冬の周りにある白紙の札を三枚と、硯と筆を揃え並べる。
焼き物の水注を手に取り、硯に清水を注ぐ。のの字を書くように静かに優しく墨を磨る。
金属製の重い筆先を少し浸し、千冬の口元へと持ち手を差し向けた。
静寂。
紅も引いていない唇が開かれる。その白い歯で筆をくわえ、千冬は祈るように、白紙の札へと頭を落とした。
空気が、凍るように停滞している。
筆先が躍った。紙を擦る音がし、瞬く間に白札へ【縛】という字が入る。
(手などなくても、相変わらず淀みなんぞないなぁ)
筆跡だけでなく、其の心もそうだ。
両腕と大事な人たちを亡くしても強く在り、札祝屋――として人々を支え、孤児達三人を手伝いとして雇い育てている。
謳歌には無理だ。
心の綺麗さで言えば、自分が沼だとすれば、彼女はさながら渓谷の湧き水くらいに違いがある。
二枚、三枚。
何度も頭を落とし文字を入れる千冬は、震えるほどに気高く、清らかな姿だった。
静かに、頭が上がる。
すべてを書き終え、出来上がった札を手に取った。
そこに込められた命力を、肌が痺れるほどに感じた。これ一枚で、恐らく三ヶ月は豪華な飯を食える価値がある。
そもそも手伝ったくらいで、書いてもらえるものではない。さすがの謳歌といえど、これを売ろうなんてとてもとても、ほんのたまにしか思わないくらいだ。
慎重に、腰帯に吊るした長方形の革の札入れにしまう。
感謝のために頭を下げると、千冬は少し意地悪そうに笑った。
「城でしっかり稼いで、代金を払ってくださいな。謳歌さんもそうでしょうが、私もあの子達を育てるのに、何かと入り用なのですから」
振り返ると、部屋の外からこちらを伺うチビたちの暇そうな姿が見えた。
座した姿勢から立ち上がる。
大傘を背負い直した謳歌を見て、豆粒がつまらなそうな顔をした。
「もう行くのかよ。まだあんちゃんと遊んでないんだけど」
「どー」
ぼて太もふくれっ面だ。
赤ふくなんて、すでに目にいっぱい涙をためてうちの獣を見ている。邪羅は心底嫌そうに、鼻面をしわくちゃにしていた。
大泣きされるとかなり面倒だし、仕方ない。
謳歌は、すぐ隣にいた邪羅の尻尾の先を掴み、勢いよく引っ張った。
もさぁっと毛の玉が手に入る。
【ぐぁッ! なにをする、トチ狂いおったか】
どうせ梳いたら無限に毛が出るじゃんお前。
牙をむき出す邪羅を放置、謳歌は手に握った一杯の黒と白の毛玉を、赤ふくに渡した。
「ほーらふさふさだ! これあげるからちょっくら我慢しててなぁ。いい子にしてたらその倍の毛玉をあげるぞー。な、お兄さんと毛玉との約束だ!」
ぎゅっと毛を握りしめ、赤ふくが「ほんと?」と上目に訊く。
謳歌は、うんうんと頷いて、邪羅の方を見て顎で促した。
【童が泣くな、甲高い声は耳に触る。オレは知らぬ】
「ほら、良かったな。邪羅が良いってさ」
その頭に手をやって、謳歌は無理やり頷かせた。はいはい、と。
【ぬぅぐううううう】
すごい、破裂しそうなくらい目が血走ってる。
しかし否定もしない。
それを見て、赤ふくが駆け寄って恐れも知らずに口もとへ抱きついた。
「ジャ、ありあと」
爆発寸前の邪羅が、まるで諦めたようにふんすと鼻息を漏らす。
(ふふふ、そうするしかあるまい。大泣きれるのは勘弁だろうからな)
先ほどの意趣返しだ。
後ろでは、にこにこと千冬が笑っている。
謳歌はしてやったりの顔で、豆粒とぼて太の頭をバシバシと軽く叩き「また来るからよ!」と札祝屋を後にした。
さあ、いざ城を目指さん。
意気揚々と門をくぐり、石階段を降りた。
背後で殺気。謳歌はそっと傘に手をかける。
【腐れがぁ、遺言を唱えながら死ねぇッ】
ああ、毛玉君、奇遇だな。ちょうどいま、同じことを考えていたところだ。
〓◇〓
淡桃色の漆喰壁が映える城を、透き通った水を湛えた堀が四方を囲んでいる。
堀に架かった大きな木橋は、切り出された一枚板を連ね作られており、謳歌が歩を進めても小揺るぎもしない。
橋を渡る途中、磨師達からの怪訝そうな視線が向けられ癇に障ったが、無視して門兵の元へと歩み寄った。
「どもども、この国の危機を耳にして、傾楽木謳歌ここに参上しましたよ」
邪羅を横に引き連れた謳歌がへらへらと近づくと、桜紋が刻まれた足軽甲冑を着込んだ女兵士が、石づきを地面にこつりと落とした。
「あれ、さっきぶりだな。珍しいね君がこういう場に来るのは」
「ん? ああ、さっきの足軽の姉ちゃんか」
千冬に会いに行った際にすれ違った女だった。どうやら向こうは一方的にこちらを知っているようだ。磨師をしていると、こういう事も珍しくはない。
「それにしても君さ」
やあやあと手を挙げる謳歌を見て、女は驚いたように目を見開いた。
「なんだいその格好は、お偉い様も来るんだよ。少しは汚れを落としておきなよ」
言われて、自分の姿を顧みる。朱色の着流しには穴もほころびもありはしないが、泥と砂で随分と汚れている。
ちらりと覗く自らの腕には、何かを突き立てたような痣もある。苦々しくも背後の邪羅を見ると、なぜかやつの毛並みは艶めいていた。
なぜだ、あんなにも一緒になって揉みくちゃになっていたのに。
軽く衣服をはたき、髪を手でなでつけ整える。
「いやさ、ちょっと邪悪なあやかしと死闘を広げてきたばかりでな。安心してくれ、火ノ元の平和は守られたから」
「はあ、邪悪なあやかしねぇ。まあなんでも良いけど」
胡乱げな目をした兵士は、槍を肩にかけ腕を組む。
「頼むから“今回”は、そこらのものを壊してくれるなよ」
謳歌は自身の髪を結ぶ紐に付けた金飾りを示しながら、心外だなと片眉をあげる。
「しねぇって。たまたま、二度ほど屋根と壁が欠けただけだろう。細けぇなあ」
「そうだね、君は今のところ、たまたま二回来て、たまたま二回ほど城の一部を破壊しているだけだよ。なあ、こっちも怒られるんだからな」
冷たくはないが、責めるような視線が痛い。
「いやぁ、け、喧嘩売られた側だぜ俺はさ」
謳歌からすれば、大多数の野良磨師はやたらと鼻っ柱が長く、いちいち嫌味ったらしい奴が多い。そんな奴から売られたら、そりゃあ笑顔で買うしかない。
だが、お上からしたら関係のない話だ。門兵は口をへの字に曲げてみせてくる。
「知らないよ、城の決まりは両成敗だ。普通だったら出入り禁止だぞ、なんで二度も免れててまだ入れるのか、逆に教えて欲しいくらいだよ。世間じゃ千冬先生のお口利きって話じゃないか」
「ぐっ」
世話になっているのは事実。正論で殴られ、旗色は悪し。
これ以上深堀りされてもたまらんと、謳歌は「わーかーりーまーしーたー」と言いながら、許可をもらって敷地内へと退散することにした。
木ノ宮城の、三の丸へと足を踏み入れる。
この城の縄張は輪郭式だ。外側から順番に三、二、本丸と丸く水堀で囲い、三区画に分かれている。
今回の集合場所三の丸の広場だ。
道端で一服吸い終わった灰を木箱にしまい少し歩くと、人がひしめき合う広場へとたどり着いた。
二の丸に続く木橋への門前、木製の台座の上に長机が置かれている。そこには城のお偉いさんである男と、付き添いが数名座っており、周囲を兵士達が守護していた。
男の言葉を待つように、色彩と特徴豊かな磨師達、そして式神どもがすでに百名ほど集まっている。
(さてさて、どこで聞いたものかな)
仲の悪い磨師達の顔もちらほら見える。辺りを見渡しふと一角で視線がとまる。
肩ぐらいの長さの紫暗の髪の女がいる。
黒い女袴に髪と同じ紫暗の羽織、首元を襟高き肌着が覆っていた。
朱色の檄のような武器を背に、肩に白銀の鷹を乗せている。
確か町中で見かけたが、それ以外で覚えがない。恐らくこのあたりに居を構える者ではないのだろう。しかしよくよく見れば、背は低く華奢な体だが、涼し気な目元に整った顔立ちと、鋭さを感じる目も覚めるような美人であった。
掃き溜めの鶴とはこのことか。
むさ苦しい野良磨師どもの中で、その彼女だけは研ぎ澄まされた抜身の刀のような冷たい流麗さを放っていた。
どうせならむかつく男の近くより、美人の横がいい。髪を括り直し、もう一度衣服の汚れを払う。邪羅に「男前か」と聞くと「ああ、びっくりして、食うた物を戻しそうなくらいだ」と褒めてくれる。
笑顔で「ありがとう」と言ってやると、獣にあるまじき心底つまらなそうな顔をしていた。ざまあみろ。
謳歌は邪羅を放置して、うっきうっきで女磨師の元へと歩み寄る。右肩にでっかい鷹がいるので、左側を陣取った。




