第1章:おうちさがしは大変です その4
宿場町に戻ってまず最初に、冒険者ギルドの支部で山賊の頭目の首と左腕を提出しました。
まとめて野盗としますが、人相書きが出回っている中でもっとも証明となりやすいのが、特徴的な部位です。
特に今回は左腕の刺青が特徴的でしたので、討伐の報酬を得る証拠のために回収しておいたのです。
受付さんは訝しんでいましたが、私の等級証を見せたら即座に納得してくれました。
あれでもなかなか厄介な山賊だったようで、討伐報酬は金貨五枚でした。平民が慎ましく生活していれば、だいたい三ヶ月ぐらいは生活できる金額です。
次に向かったのは聖堂です。リリサちゃんがここまで丁重に連れてきた彼らの遺体を、棺桶に移し替えます。
私とリリサちゃん、そして治癒術師ちゃんだけの参列ですが、聖堂の伝道師さまが経典を読み上げ、彼らに聖女の教えを今一度説きます。
恐らく信仰する聖女とは違うかもしれません。ですがこれは、彼らの――というより、残された人のための儀式でもあります。
聖女リムノス様の教えの一説を説かれた彼らは、その後、聖堂の敷地内へと埋葬されます。
私は先ほど冒険者ギルドにて換金した、山賊の討伐報酬から金貨二枚を聖堂に寄付しました。これで、彼らの弔いは終わりです。
「さて。ひとまず今日はあなたの分の宿も取りました。そこで、これからのことを少し話し合いましょう」
治癒術師ちゃんは申し訳なさそうにしていますが、私も今日はこれ以上先に進む気がなくなりましたし、このまま放っておく方が居心地が悪いです。
この子のような冒険者の末路がどうなるかは、嫌というほど耳にしました。
治癒術師ではありますが、聖堂で正式に修行をしたのであれば、この若さで冒険者となることはありません。
恐らく孤児院の先生が伝道師さまで、先生から習ったから使えるのでしょう。
聖堂で修行をしたのであれば、伝道師として生きる道はあります。ですが野良の治癒術師ですので、治癒院などに所属することは非常に難しいです。
そうなると、頼るべき生家もないこの子が、生活の糧を得るために選べる道は少なくなります。
他の冒険者パーティーに入れてもらう、というのが有力ですが、経験の浅い治癒術師はベテランからは敬遠されるでしょう。
なので結局また経験の浅い冒険者パーティーに所属し、同じような結果となるかもしれません。
その次はこの宿場町で、酒場の給仕として雇ってもらうことでしょうか。
ですがよほどのことがない限り、宿場町ぐらいでは給仕のお仕事はありません。
最悪の場合は……いえ、これは私でも口にしたくありません。
――それにしても、先ほどから視線を感じます。
はて。山賊は全員漏れなく討伐したはずですが。
……いえ、これは町の皆さんからの視線ですね。恐らくギルド経由で伝わったのでしょう。
ただ皆さん、なにか話しかけるのを躊躇しているようです。
ひとまず部屋を取った宿に戻ってきました。受付の女将さんも、町の人々と同じような態度でした。
「まず――ええと、いまさらですがお名前を伺っても?」
そう、今までお名前を聞いていませんでした。
「……ミア、です。名字は……一応デュボワ、になるんでしょうか」
孤児院出身はだいたい孤児院の名前か、先生の名字を名乗るのが通例です。
ともかくミアちゃんですね、覚えました。
「私はフィオナ――フィオナ・マクヴェーグです。金等級冒険者で……どうやら『雷霆』って呼ばれているみたいです」
「リリサはリリサ・フラハーティです。銀等級のポーターですっ」
ミアちゃんは驚いた顔をしました。
はて。なにかおかしな点があったでしょうか。
「……『雷霆』って、ロニが憧れていた、冒険者さん、なんです……っ!!」
再びミアちゃんが声を噛み殺して泣き出しました。
ロニとは恐らく、亡くなってしまった新人くんのうちのひとりなのでしょう。
それにしても私なんかに憧れる新人冒険者さんがいるとは。バルくんのような英雄じみた活躍をした冒険者ならわかりますが。
ミアちゃんが落ち着いた頃合いを見て、先ほど考えていたこれからのミアちゃんについてを話します。
「……というわけで、ここで提案です。ミアちゃん、ひとまずルアーヴルまで私たちと一緒に来ませんか?」
ルアーヴルは大都市です。冒険者を辞めて新しいお仕事を探すとしても、お仕事はいくらでもあります。
「え、でも……そこまで甘えるわけには……」
「ではこうしましょう――私が、ミアちゃんを治癒術師として雇います。報酬は銀貨五枚、依頼内容は護衛――なので、私には雇用した冒険者の宿代を出す義務があります」
この町のギルド支部には事後承諾となりますが、このあたりの抜け道は知り尽くしています。
明日の朝、ギルドに私の依頼を貼り出してもらって、すぐにミアちゃんが依頼を受諾します。
そうすることでギルドを通した正式な依頼となり証書が発行され、私にはミアちゃんの宿代などを負担する義務が契約の条件として発生するのです。
そしてルアーヴルの冒険者ギルドに証書を提出すると、依頼を達成したことになります。
これはミアちゃんと同じく、遠慮していたリリサちゃんの旅費を私が持つことになった仕組みと全く一緒です。
「はっきり言ってしまえば『放っておけない』という、私の自己満足です。それに――仮に冒険者を辞めて他のお仕事をするのであれ、ルアーヴルの方が探しやすいと思います」
「ちなみにミアさん、フィオナさんがこういうってことは、ほぼ決定事項みたいなものですよっ」
しばらく悩んだのちに、私とリリサちゃんの言葉にようやく納得してくれたようで、ミアちゃんはゆっくりと頷きました。
ここでミアちゃんが頷かなければ、葬儀の代金を負担したことを恩に着せて……というあまりやりたくない最終手段もありました。
とにかくこれで、ミアちゃんには生きなければならない理由ができました。
新人冒険者さんが初めての依頼で大失敗した際に、特に女性冒険者に多いのが……まあ、そういう結果です。
それに……まあ、はっきり言ってしまいますと、こんな可愛い子を放っておくことなんてできません。
――だからリリサちゃん、あの、そんな目で私を見ないでもらえますか?




