第1章:おうちさがしは大変です その1
城壁の外にもしばらくは農家さんたちの畑や、牛さんの放牧地が続いています。
はっきりとした境目はありませんが、万が一魔物や野盗が出たときに街から領の軍が駆けつけられる範囲ぐらいでしょうか。
私のような冒険者や商隊の護衛たちなど、戦える人たちが必ず通る道ですので、充分に安全は確保されていると言っていいでしょう。
「まあ。領主様の二番目のお嬢様が廃嫡が決まったんですか」
酒場の噂で聞いたことがありますが、どうやら辺境伯のお嬢様に大変な非礼を働いてしまったそうです。
リリサちゃんによると、ここまで厳しい処分は珍しいのだとか。
「辺境伯……というとバスティオン家ですね。シルヴァハさんとバルくんの」
十年ぐらい前に超大型の魔物の討伐依頼で一緒になった元同業です。
家出して冒険者になっていた、実は辺境伯の長男だったバルくんと、エルフの魔法使いのシルヴァハさん。
家を継ぐことになった、という噂を聞いてはいましたが、実家が辺境伯家だとは思いもしませんでした。
あの二人のお子さんならさぞかし可愛らしい女の子になっているでしょう。
ちなみにあれだけ強ければ、さすがの私でも顔と名前を忘れることはないです。
「そういえばリリサちゃん、ずいぶんな大荷物ですが、中身はなんなのでしょう?」
いつもの遠征と同じ大きなリュックです。なので私は緊急の依頼でも入ったのかと思いました。
「リリサの私物と、冒険に必要そうなものを、片っ端から詰めてきました!」
リリサちゃんはとても力持ちなので、たぶんリリサちゃんにとってはそれほど重くはないのでしょう。
多分私がそのまま背負ったら潰れてしまいそうな重さでしょうが、【身体強化】という、冒険者や軍人さんにとっては初歩だけど、最も重要な魔法を使えば楽々です。
どのぐらい強化できるかは個人差がありますし、その上限に達するのに必要な魔力の量も人によって異なります。
私のような魔族ですと魔力が高く制御も得意なので、少ない魔力でかなり強化できるので相性が良いのですが、リリサちゃんなど鬼人族は魔力が少なく、強化の上限もあまり高くないです。
もちろんこれは平均して、のことです。過去には鬼人族の大魔法使いがいたという記録もあります。
「ところでフィオナさん、行き先は決まっているんですか?」
「とりあえずモントクレール領のルアーヴルを考えていました。料理も美味しいですし、ギルドも大きいですから」
十年ぐらいは依頼を請けなくても暮らしていけるだけのお金はありますが、私も冒険者ですから、じっとしているのは性に合いません。
「リリサ、ルアーヴルって行ったことないんですよ。生まれも育ちもヴァルモン領なので」
同じ冒険者でもクランに所属していると、基本的にクランハウスがある領の依頼が多くなるので、仕方ないところがあります。
クラン所属の冒険者は毎月お給金と、あとは参加した任務の難易度や回数で決まる手当があるので生活は安定していますが、移動の自由はあまりありません。
ごく稀にあるドラゴンなどの超大型の魔物の討伐では、先ほどのバルくんとシルヴァハさんとご一緒したように、王国内でも選りすぐりの冒険者に指名依頼が入ったりしますが。
「なら決まりですね。お金ならありますし、ゆっくりのんびり行きましょう」
「あのその……フィオナさん、お恥ずかしながらリリサ、一週間ぶんぐらいしかお金が……」
まあ。ガルドくん、退職金をリリサちゃんには出さなかったのでしょうか。
確かリリサちゃんがクランに入ってから三年ちょっとですから、それなりにまとまったお金にはなると思いますが。
「退職金は出たんです、でも『フィオナさんを追いかける』って決めましたから、そのちょっと、大きなお買い物を」
フィオナちゃんがそう言って取り出したのは、黒い結晶のはまった宝石箱のような見た目のものです。
この結晶は……闇属性の魔石ですね。
確かにこの大きさの魔道具なら結構ないいお値段がします。どのような効果かまでは見ただけでわかりませんが。
これが透明、もしくは薄い黄色ですと弱い魔物を近寄らせない、野営に便利な結界の魔法が込められた魔道具が定番です。
遠征中でしたらお役立ちの魔道具でしたが、ルアーヴルまでは街道に点在する宿場町でちゃんと宿泊するつもりですので、まだちょっと必要無いでしょう。
「隠蔽、暗視……考えられる効果はありますが、だいたいそういうのは装飾具ですね」
闇属性で冒険に便利な魔法の効果を考えましたが、お役立ちといえばそうですが、無くてもなんとかなる系統です。
箱型だとだいたい結界の類なのですが、闇属性で思いつくのは――
「……遮音、です……!!」
お貴族様の馬車や、大きなクランの会議室なんかでよく使われる結界の一種です。
結界の中の音を外に漏らさないという効果だけなので、冒険にはあまり必要ないと思われますが。
「ニーナさんから……『昨日のアンタの声、廊下にダダ漏れだったよ』と言われまして……その、気持ちよくなっちゃうとリリサ、我慢できなくなっちゃうみたい……です」
「まあ。リリサさん……つまりはそういうこと、と理解していいんでしょうか?」
顔を真っ赤にしてリリサちゃんが、小さく頷きました。
いけません。リリサちゃんはこういう仕草がいちいち可愛すぎます。
「それじゃあ……今晩、試してみましょう、ね?」
わざと耳元でささやくと、リリサちゃんの顔がより真っ赤になりました。




