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妖怪派遣業  作者: 蜂兎類
2/8

第二魔 最速配送、一反モメン

 午後三時四十分。株式会社百鬼スタッフサービス、配送管理室で修司は静かにキレていた。


「……なんで?」


 机の上には大量の苦情報告書まとめてみると


 ・荷物が違う

 ・配送先が違う

 ・荷物だけ届いてない

 ・配送速度だけ異常


 最後だけ意味が分からない。


「なんで速いのにミスるんだよ……」修司は頭を抱えた。すると天井から声が聞こえる。


「……速いから」一反モメンだった。天井にだらんと張り付きながらスマホゲームをしている。


「働け」


「今働いてる」


「ゲームしてるだろ」


「周回」


「仕事を周回しろ」モメンはだるそうにスマホを動かす。


「イベント今日までなんだよ……」


「知らねえよ!」


 修司は報告書を見せた。「これ見ろ」


 モメンが嫌そうに覗く。


「……あー」


「“あー”じゃない」


「これは配送先が悪い」


「お前だよ!」


「だって似てた」


「“山田歯科医院”と“山田動物病院”は似てない!」


「山田じゃん」


「雑ぅ!!」


 さらに「なんで冷蔵倉庫行きの商品がゲームセンターに届くんだよ!」


「寒そうだったから」


「感情で配送するな!!」修司は深いため息を吐く。


 モメンの配送速度は本物だった、時速百キロ超も出て都内なら数分。緊急便では最強。


 だが、ミスが多い、多すぎる。


 その時、バタン!!扉が開いた。


「ただいまっスー!」九郎だった、今日も濡れていた。


「なんで毎回濡れてんだよ」


「川寄ってきたっス!」


「帰宅途中の犬みたいに言うな」


 九郎は報告書をチラっとのぞき見した「あー、モメンさんまたやったんスか」


「まただよ!ってか毎回だよ!」


 モメンは不満そうだった。「配送速度は文句ないだろ」


「そこじゃない!」


「俺、現場到着だけなら最強だし」


「だから荷物を間違えるなって言ってんの!」


 すると、コピー機の上からミケが言う。


「猫以下の視力なんじゃない?」


 沈黙、モメンが止まる。修司が眉をひそめた。


「……視力?」


 モメンが目を逸らし呟く「別に普通」


「お前今逸らしたな」


「布だから表情ないし」


「空気で分かるんだよ」


 修司はじっとモメンを見る。「ちょっと待て」


「……なに」


「お前まさか、配送先見えてないのか?」


 沈黙。


 数秒。


 モメンがぼそっと言った。


「……最近ちょっと文字ぼやける」


「はぁ!?」


 九郎が吹き出す。「マジっスか!?」


「笑い事じゃねえよ!」


 ミケがジャンプして天井にいるモメンのスマホを奪う。


 修司はスマホを受け取りゲーム画面を見る。


「うわっ」


 きづいたのはゲーム起動時間異常だった。


「一日十四時間!?」


「イベント期間だから」


「寝ろ!!」


 ミケが呆れる。「そりゃ目も悪くなるわ」


「妖怪でも視力落ちるんですね……」九郎が思わず呟いた。


「知らんけど俺は今モメンの未来が見えない」


 修司は頭痛を覚えた、その時だった。


 モメンがくしゃみをした。「へっくしゅ!!」


 瞬間。白布が暴れた。書類が舞う。ヒナが飛ぶ。


「きゃぁぁぁ!?」


「ヒナちゃん!?」


 修司が慌ててキャッチする。ヒナは涙目だった。


「こ、怖かったですぅ……」


 モメンは鼻をすすった。「……花粉」


「お前花粉症なの!?」


「春きつい」


「布なのに!?」


「妖怪だから」


 だから何なんだよ、と思うほどに万能すぎる回答だった。


 その時電話が鳴り、修司が出る。


「はい、百鬼スタッフサービス――」


『荷物が届かないんですけど!!』修司が固まる。


『追跡だと“到着済み”になってるんです!!』


 ゆっくりと全員がモメンを見る。モメンが目を逸らした。


「……あ」


「お前またかぁぁぁ!!」


 10分後、修司はモメンの背に乗り、現場へと来ていた。入社時、初めてモメンの背中に乗ったときは感動した、鼓動が高鳴った。


 だが、謝罪の付き添いで乗せられるたびに別の意味で心臓の鼓動が高鳴り、最初のころは動悸もした。


 今では慣れたものだ、この背に乗って何度謝罪しにいったことか、両手の指では数えきれない。


 マンション前、依頼人が怒っている。


「どこ行ったんですか荷物!」


 修司が平謝りする。


「申し訳ありません!只今追跡中です!」


 隣でモメンがぼそっと言う。「たぶんこの辺」


「“たぶん”で仕事するな」


 その時。モメンが上を見た。


「あ」


「今度は何だ」


「木、見える?」


「木?ああ木があるけどそれがどうした今それどころじゃねえ」


 そういいながらも上を見る、ぞ冷え立つ街路樹。その上に荷物が引っかかっていた。それを見て修司は膝から崩れ落ちる。


「なんでだよ!!」


「電柱だと思った」


「視力終わってるだろ!!電柱だとしたらなぜそこに!!」


 依頼人はドン引きしており、修司は必死に謝る。その横でモメンが鼻をすすった。


「花粉つら……」


「今それどころじゃねえよ!」


 帰り道、修司はため息を吐いていた。


 モメンはしょんぼりしている。


「……怒ってる?」


「当たり前だろ」


「でも速いのに」


「速くても見えてなかったら意味ねえんだよ」


 モメンは黙った、珍しく反省しているように見えた。数秒後、小さく言う。


「……前は見えてたんだ」


 修司は足を止めた。「ん?」


「夜でも全部見えてた」モメンは空を見る。


「でも最近ぼやける」


「……」


「配送ミス増えたの分かってた」


 修司は少し黙った。


 そして。


「病院行け」


「嫌」


「なんで」


「注射怖い」


「子供か、視力の相談で注射なんて無いから」


 さらに数秒後。


 モメンがぼそっと言った。


「……メガネ高いし」


 修司は固まった。


「……お前、給料はどうしてんの、貯金は?」


「全部ゲーム課金した」


「アホかぁぁぁ!!!」


 修司はモメンを眼鏡屋へ連れて行ってあげた。


「……これ似合わね?」


「布に似合うとかあるのか?」


「ある」


 モメンは真剣だった、店員は困惑している様子だ。そりゃそうである。一反木綿が眼鏡選んでるのだから。


 最終的に黒縁メガネに決まった。モメンが装着する。


 数秒。


「……うわ」


「どうだ」


「めっちゃ見える」


 修司は笑った。「当たり前だ」


 モメンは周囲を見回す。その様子は少し嬉しそうだった。


「すげぇ……遠くの文字読める……」


「今までどんだけ見えてなかったんだよ」


 帰り道、モメンは珍しく上機嫌だった。


「……修司」


「ん?」


「ありがと」小さい声だった。


 修司は少し驚く、だが。


「その代わり」


「?」


「明日から真面目に働け」


 沈黙。


「……それは別問題」


「ぶん殴るぞ」


 モメンは笑った。ひらひら揺れながら空へ飛び上がる、その瞬間。


「へっくしゅ!!」


 強風に花粉が紛れてモメンを襲撃し、弾みでメガネが吹っ飛んだ。


「あぁぁぁぁ!!」


「花粉症まで治るわけねえだろ!!」夜の街に修司のツッコミが響いた。


 百鬼スタッフサービス。今日も平和。ではない。

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