第9話:読み合い
「……次は外さない」
神谷恒一の声は、静かだった。
だが、その中にある温度は――さっきまでとは違う。
モニターに映るUSD/JPY。
さっきの下落から、時間はそれほど経っていない。
152.90
153.20
152.70
「……」
画面を見つめる。
さっきの負け。
−3200万。
数字としては大きい。
だが。
「……」
頭は冷えていた。
「……どう?」
東條凛が横から聞く。
「……見えたか?」
「……ああ」
短く答える。
「……何が?」
「……“癖”」
「……」
凛が少しだけ目を細める。
「……どんな?」
画面を指でなぞる。
「……上げる」
「……」
「……止める」
「……」
「……落とす」
「……」
「……しかも同じ形で」
「……」
凛が小さく頷く。
「……パターン化されてる」
「ああ」
「完全に“作ってる動き”だ」
その時。
チャートが上がる。
153.40
153.90
154.30
「……」
「……来たな」
「……どっち?」
凛が聞く。
「……」
恒一は答えない。
ただ、見る。
「……」
上げている。
強く。
買いも入っている。
「……」
だが。
「……薄い」
「……?」
凛が反応する。
「何が?」
「……圧が足りない」
「……」
「本気の上げじゃない」
「……鑑定」
【USD/JPY】
上昇確率:54%
「……」
数値は“上”。
だが。
「……」
それに、従わない。
「……入る?」
凛が聞く。
「……入らない」
即答。
「……理由は?」
「また同じ形だ」
「……」
チャートがさらに上がる。
154.60
154.90
「……」
「……チャンスに見えるわね」
「……罠だ」
その直後。
崩れる。
154.30
153.60
152.90
「……」
凛が小さく息を吐く。
「……正解ね」
「……」
もし入っていたら。
確実に、またやられていた。
「……」
画面を見る。
「……」
さっきと同じ。
同じ動き。
同じ流れ。
「……」
「……見えたな」
小さく呟く。
「何が?」
「……仕掛けるタイミング」
「……」
凛の目が鋭くなる。
「……どこ?」
「……」
一瞬、目を細める。
チャートが動く。
152.80
153.20
153.60
「……」
「……ここだ」
「ショート」
ポジションを持つ。
その瞬間。
「……」
空気が変わる。
「……今?」
凛が聞く。
「……ああ」
「ここが“入口”だ」
数秒。
チャートが動く。
153.20
152.80
152.30
「……」
落ちる。
一気に。
+1500万
+3200万
「……」
「……まだだ」
鑑定。
【USD/JPY】
下落確率:68%
「……伸びる」
さらに落ちる。
151.90
151.50
+5800万
「……」
凛が何も言わない。
ただ、見ている。
「……ここで利確」
ポジションを閉じる。
結果――
+6100万。
「……」
静寂。
数秒後。
凛が、ゆっくりと口を開く。
「……完全に対応したわね」
「……」
恒一は画面を見たまま答える。
「……まだ浅い」
「……?」
「……これは“表”だ」
「……」
「本命は、もっと奥にいる」
「……」
凛の目が細くなる。
「……つまり?」
「……」
小さく息を吐く。
「……まだ終わってない」
その時。
別モニターに通知が入る。
「……?」
凛が確認する。
「……海外ファンドの動き」
「……」
空気が、変わる。
「……来たな」
恒一が呟く。
「……次は」
「本物だ」




