第10話:見えない圧
「……次は本物だ」
神谷恒一の言葉は、静かだった。
だが、その一言で空気が変わる。
東條凛は、別モニターに視線を固定していた。
流れているのは、海外の資金データ。
普段は見ない層。
“深い側”の情報。
「……来てるわね」
「どこだ?」
「ロンドン経由」
「……」
凛の指が、わずかに止まる。
「……これ」
「かなり大きい」
「……どれくらいだ?」
「……正確な額は見えない」
「でも」
一瞬、間を置く。
「今までとは、明らかに違う」
モニターのUSD/JPY。
静かに動いていたはずのチャートが、変わる。
151.80
152.10
152.60
「……」
ゆっくりと上がる。
だが。
「……」
違和感。
「……軽くないな」
思わず呟く。
「……?」
凛が視線を寄越す。
「何が?」
「……押されてる」
「……」
チャートを見る。
152.60 → 152.40 → 152.80
「……」
「一方向じゃない」
「……」
凛が、小さく頷く。
「……ぶつかってるわね」
“誰か”がいる。
それも。
「……強いな」
「ええ」
凛が答える。
「さっきまでの相手とは別物」
その時。
チャートが、急に伸びる。
152.80
153.40
154.10
「……!」
一気に持ち上げられる。
「……強引だな」
「ええ」
「でも」
凛が続ける。
「雑じゃない」
「……」
つまり。
「……制御されてる」
「……鑑定」
【USD/JPY】
上昇確率:61%
短期変動:強上昇
リスク:極高
「……」
数値は“上”。
だが。
「……」
違和感は、消えない。
むしろ。
強くなる。
「……」
「どう見る?」
凛が聞く。
「……」
恒一は答えない。
ただ、見る。
板の動き。
注文の入り方。
消え方。
「……」
“揃いすぎている”。
「……作られてるな」
「……」
凛の目が細くなる。
「……どういう意味?」
「……自然じゃない」
「……」
「流れじゃなくて」
「……“意思”で動いてる」
その瞬間。
さらに上がる。
154.30
154.80
155.10
「……」
空気が重くなる。
「……上に抜ける?」
凛が呟く。
「……」
普通なら、ロング。
だが。
「……」
恒一は、動かない。
「……入らないの?」
「……」
小さく首を振る。
「……強すぎる」
「……?」
「強すぎる動きは」
「……折れる」
その瞬間。
止まる。
155.15
155.10
「……」
空気が変わる。
「……来るな」
次の瞬間。
崩れる。
154.40
153.60
152.80
「……!」
一気に流れが反転する。
「……」
凛が小さく息を吐く。
「……今の」
「完全に作ってたわね」
「……ああ」
「……」
恒一は、画面を見たまま呟く。
「……いるな」
「……」
「同じことができるやつが」
その瞬間。
違和感。
「……」
ほんの一瞬。
チャートの反応が変わる。
「……?」
「……見られてる?」
凛が呟く。
「……」
恒一は、答えない。
だが。
確信する。
「……ああ」
「……見てるな」
自分の動きが。
読まれている。
「……」
小さく、笑う。
「……面白い」
「……」
凛が横を見る。
「その感想?」
「……ああ」
「……」
「ようやく」
「“相手”が出てきた」




