第6話:接触
「――昨日の電話」
スマホを見ながら、小さく呟く。
金融庁。
普通に生きていたら、一生関わることのない存在。
それが今、自分を呼んでいる。
「……」
深く息を吐く。
逃げることもできた。
無視することもできた。
だが。
「……」
小さく笑う。
「……行くしかないだろ」
指定されたビルの前。
見上げる。
高層。
無機質な外観。
だが、分かる。
「……普通じゃないな」
入口付近の警備。
無駄のない動き。
明らかに、一般企業ではない。
「……」
一歩、踏み出す。
入口。
「お名前を」
「……神谷恒一」
それだけで通る。
「こちらへ」
無駄のない誘導。
エレベーターへ。
扉が閉まる。
上昇。
静かな時間。
「……」
その時。
ふと、思い出す。
「……なんで、ここまで来たんだろうな」
数日前。
まだ、普通の高校生だった。
だが。
「……」
頭に浮かぶのは。
あの違和感。
――回想。
「……この口座、異常です」
静かな会議室。
モニターに映る、一つの口座。
「宝くじで1億2000万」
「その後、競馬で短期間に数千万単位の利益」
「……」
「しかも、ほぼ外していない」
「……」
「再現性があります」
その一言で、空気が変わる。
「……偶然ではないな」
「はい」
「確率的に説明不能です」
「……」
沈黙。
「……監視対象に指定」
「はい」
別の視点。
競馬場。
遠くから、こちらを見る視線。
スーツの男。
「……対象、確認」
小さく呟く。
「動き、継続観察」
――回想終了。
「……」
エレベーターの中。
静かだ。
「……なるほどな」
小さく呟く。
「……最初から見られてたか」
そりゃそうだ。
あれだけの金を動かせば。
「……」
むしろ。
「……遅いくらいか」
チン。
エレベーターが止まる。
扉が開く。
「お待ちしておりました」
スーツの男。
落ち着いた雰囲気。
「……あんたか」
「ええ」
軽く頷く。
「まずは確認させてください」
「……」
「あなたの勝率」
「偶然で説明できますか?」
「……」
少し考える。
そして。
「……無理だな」
正直に答える。
男の目が、わずかに変わる。
「……やはり」
「……」
その時。
「――失礼します」
横から声。
振り向く。
一人の女性。
黒髪。
鋭い目。
「……」
空気が変わる。
「……この人が?」
「ええ」
男が答える。
「観察対象です」
「……」
女性は、ゆっくりと近づいてくる。
じっと、こちらを見る。
数秒。
「……面白いわね」
「……何が」
「普通じゃないのに、普通の顔してる」
「……」
「名前は?」
「神谷恒一」
「……東條凛」
短い名乗り。
「……」
凛は、わずかに笑う。
「で?」
「再現できるの?」
「……」
核心。
「……できる」
短く答える。
その瞬間。
空気が変わった。
「……」
凛の目が、鋭くなる。
「……なるほど」
小さく呟く。
「じゃあ」
一歩、近づく。
「仕事、しない?」
「……は?」
「為替」
「……」
いきなり来た。
だが。
「……」
自然と、笑う。
「……いいじゃないか」




