第5話:違和感
「……3億」
スマホの画面を見つめながら、小さく呟く。
正確には――
3億0200万。
「……」
ゆっくりと、画面を閉じる。
そして、また開く。
やはり、変わらない。
「……現実か」
深く息を吐く。
ここ数日で、人生が完全に変わった。
宝くじで1億2000万。
競馬で数千万単位の利益。
そして、今。
3億。
「……」
異常だ。
どう考えても。
「……」
だが。
「……止まる理由もない」
そう思ってしまう自分がいる。
部屋の中。
静かな空間。
テレビもつけていない。
ただ、スマホだけが光っている。
「……」
鑑定。
翻訳。
アイテムボックス。
どれも問題なく使える。
特に――
「……鑑定」
このスキル。
すべての核だ。
「……」
もしこれがなければ。
今の自分は、ただの高校生だ。
「……」
だが、ある。
確実に。
そして。
「……使えば勝てる」
その事実が、全てを狂わせている。
ピロン。
「……?」
スマホが震えた。
見知らぬ番号。
「……営業か?」
無視しようとする。
だが。
「……」
なぜか、指が止まった。
嫌な予感。
根拠はない。
だが。
「……」
通話ボタンを押す。
「……もしもし」
『――神谷恒一さんですね』
低い声。
落ち着いた、男の声。
「……誰だ」
短く聞く。
『こちら、金融庁関係の者です』
「……」
空気が、変わる。
「……金融庁?」
『はい』
「……何の用だ」
声を低くする。
『あなたの資金の動きについて、お話があります』
「……」
一瞬、思考が止まる。
資金の動き。
つまり。
「……見られてるのか」
『ええ』
あっさりと、肯定された。
『正確には、“異常な動き”として認識されています』
「……」
笑いそうになる。
異常。
まあ、そうだろう。
「……で?」
「俺が何か問題でも?」
わざと、軽く言う。
『違法ではありません』
即答だった。
『ですが――』
一瞬、間が空く。
『通常ではあり得ない精度で利益を出している』
「……」
完全に、バレている。
「……」
だが。
「……それで?」
『一度、お会いできませんか』
「……」
予想外だった。
「……事情聴取か?」
『いいえ』
否定。
『これは“依頼”です』
「……は?」
思わず声が出る。
「……依頼?」
『はい』
「……何の?」
『お会いしてからお話しします』
「……」
沈黙。
考える。
罠か?
それとも。
「……」
鑑定。
【通話相手】
危険度:低
意図:接触・交渉
「……」
少しだけ、安心する。
「……場所は?」
『明日、指定の場所にて』
「……」
短く、息を吐く。
「……分かった」
『ありがとうございます』
通話が、切れる。
「……」
静寂。
部屋が、やけに静かに感じる。
「……」
スマホを見る。
3億。
だが。
「……」
もう、ただの金じゃない。
「……動いたな」
小さく呟く。
世界が。
こちらを見始めた。
「……」
ゆっくりと立ち上がる。
「……面白い」
自然と、笑う。
「……どこまでいけるか」
試してみたくなった。




