第4話:加速
「……2億3000万」
スマホの画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
昨日まで、1億2000万だった。
そこに、競馬での利益――3800万。
さらに、追加で勝ちを重ねた結果。
気づけば、この数字だ。
2億3000万。
「……」
ゆっくりと息を吐く。
現実感が、ない。
だが。
「……現実なんだよな」
画面を閉じても、何度見ても、変わらない。
増えている。
確実に。
「……」
ソファに体を預ける。
天井を見上げる。
「……」
頭の中が、妙に静かだった。
普通なら、もっと騒ぐはずだ。
喜ぶ。
叫ぶ。
誰かに言いたくなる。
だが。
「……違うな」
そんな気分じゃない。
むしろ。
「……冷静だ」
この力は、危険だ。
そう思った。
「……」
宝くじ。
競馬。
どちらも、完全に“見えていた”。
結果が。
確率が。
未来に近い情報が。
「……」
それを使えば、勝てる。
ほぼ確実に。
「……」
だからこそ。
「……調子に乗ったら終わるな」
ぽつりと呟く。
だが。
「……」
その直後。
小さく、笑った。
「……いや」
「もう乗ってるか」
翌日。
また競馬場に来ていた。
「……」
人の熱気。
ざわめき。
独特の空気。
だが。
昨日とは、少し違う。
「……慣れたな」
視線が、冷静だった。
焦りも、緊張もない。
「……鑑定」
出走表を見る。
【出走馬A】
1着確率:21%
【出走馬B】
1着確率:33%
「……」
そして。
【出走馬C】
1着確率:47%
「……」
一瞬、止まる。
「……また高いな」
昨日よりも、高い。
「……」
周囲を見る。
誰も気づいていない。
当然だ。
「……」
自分だけが知っている。
「……」
ポケットの中のスマホ。
残高。
2億3000万。
「……」
一瞬、考える。
「……どこまでいく?」
安全にいくか。
それとも。
「……」
小さく、笑う。
「……行けるだろ」
「……1000万」
馬券を買う。
「……」
少しだけ、周囲の視線を感じる。
当然だ。
高校生が、1000万。
普通じゃない。
「……まあ、いいか」
気にしない。
レース開始。
ゲートが開く。
一斉に飛び出す。
「……」
静かに見る。
中盤。
位置取り。
「……」
問題ない。
直線。
【出走馬C】が前に出る。
「……」
そのまま。
加速。
「……勝ちだな」
ゴール。
1着。
「……」
また。
当たった。
払い戻し。
表示される数字。
+7200万。
「……」
思わず、息を吐く。
「……でかいな」
1000万が。
一瞬で。
7200万に変わる。
「……」
周囲の声が、少しだけ遠くなる。
「……」
現実が、歪んでいるような感覚。
「……簡単すぎる」
ぽつりと呟く。
勝てる。
何度でも。
「……」
その時。
ふと、違和感を覚えた。
「……?」
周囲の視線。
一瞬だけ。
誰かと、目が合う。
スーツ姿の男。
「……」
すぐに、視線を逸らされた。
「……なんだ?」
気のせいか?
「……」
だが。
胸の奥に、小さな引っかかりが残る。
「……」
スマホを見る。
総資産:3億円超。
「……」
小さく、笑う。
「……止まらないな」
だが。
「……」
さっきの視線。
あれが。
「……気のせいじゃなかったら?」
その考えが、頭をよぎる。
「……」
静かに、息を吐く。
「……まあ、いいか」
今は。
「……まだ、勝つ」




