第3話:確信
「……1億2000万」
通帳の数字を、何度も見返す。
画面を閉じて、もう一度開く。
それでも、数字は変わらない。
120,000,000円。
「……」
現実だった。
夢じゃない。
あの宝くじは、本当に当たっていた。
「……はぁ……」
深く息を吐く。
手の震えが、まだ止まらない。
「……やばいな」
自然と笑いが漏れる。
昨日まで、ただの高校生だった。
それが一日で、億単位の金を持っている。
普通なら、怖くなる。
だが――
「……違うな」
首を横に振る。
これは、運じゃない。
「……鑑定」
あのスキル。
それが原因だ。
「……」
つまり。
「……狙って当てた」
偶然じゃない。
“再現できる”可能性がある。
「……」
その考えに、背筋がゾクッとする。
もし本当にそうなら。
「……どこまでいける?」
その日。
学校へ向かう途中。
いつもと同じ通学路なのに、景色が違って見える。
コンビニ。
信号。
通り過ぎる人。
全部が、妙に鮮明だ。
「……」
ポケットの中で、スマホを握る。
通帳のアプリを開く。
もう一度確認する。
1億2000万。
「……」
やっぱり、現実だ。
「……」
その時、ふと気づく。
「……このまま終わるか?」
一回当てて終わり?
いや。
「……ありえない」
この力があるなら。
「……増やせる」
確信に近い感覚だった。
放課後。
気づけば、駅に向かっていた。
目的地は一つ。
「……ここか」
競馬場。
普段なら絶対に来ない場所。
だが、今日は違う。
「……」
ざわめき。
人の声。
独特の空気。
「……」
軽く、周囲を見回す。
皆、真剣だ。
叫んでいるやつもいる。
笑っているやつもいる。
負けて、崩れているやつもいる。
「……」
その中で、自分だけが違う。
「……見えてる」
券売機の前に立つ。
モニターに映る出走表。
「……鑑定」
視線を向ける。
【出走馬A】
1着確率:18%
2着確率:22%
「……」
次。
【出走馬B】
1着確率:9%
「……論外」
さらに見る。
【出走馬C】
1着確率:26%
「……」
そして。
【出走馬D】
1着確率:41%
「……」
一瞬、止まる。
「……高いな」
他と比べて、明らかに違う。
「……これだな」
迷いはなかった。
「いくら入れる?」
自分に問いかける。
普通なら、少額だ。
様子見。
安全にいく。
だが。
「……」
ポケットの中の数字を思い出す。
1億2000万。
「……」
少し、笑う。
「……ビビる必要あるか?」
答えは、出ている。
「……500万」
馬券を買う。
「……」
軽く息を吐く。
さすがに、少しだけ緊張する。
「……」
だが、それ以上に。
「……楽しみだな」
レースが始まる。
ゲートが開く。
一斉に、馬が飛び出す。
「……」
目で追う。
前。
中盤。
「……来い」
そして。
直線。
【出走馬D】が、前に出る。
「……」
さらに加速。
「……来た」
そのまま。
ゴール。
1着。
「……」
数秒、動けなかった。
周囲の歓声が、遅れて耳に入る。
「うおおおお!」
「当たった!」
だが。
「……」
自分だけ、静かだった。
「……やっぱりな」
確信に変わる。
払い戻し。
「……」
表示される金額。
+3800万。
「……」
思わず、息が止まる。
「……は?」
理解が追いつかない。
500万が。
一瞬で。
3800万に変わった。
「……」
笑うしかない。
「……なんだこれ」
頭がおかしくなりそうだ。
だが。
「……」
ゆっくりと、深呼吸する。
「……確定だな」
この力は。
「……本物だ」
偶然じゃない。
運じゃない。
「……勝てる」
その言葉が、自然と出た。
「……全部」
視線を上げる。
まだレースは続いている。
まだ市場はある。
「……終わらせるか」
小さく呟く。
「……全部、取りにいく」




