第2話:最初の違和感
目が覚めた。
ゆっくりと視界が開く。
見慣れた天井。
自分の部屋。
ベッドの感触も、いつも通りだ。
「……」
しばらく、動けなかった。
頭の中に、さっきまでの記憶が残っている。
交通事故。
衝撃。
そして――
あの、和室。
土下座していた少女。
「……夢、か?」
小さく呟く。
だが、その一言で片付けるには、あまりにも鮮明すぎた。
「……いや」
体を起こす。
違和感があった。
ただの夢なら、ここまで残るか?
あの声。
あの説明。
“スキルを与える”
「……」
無意識に、口が動く。
「……ステータス」
その瞬間だった。
――空中に、半透明の画面が現れた。
「……は?」
思考が止まる。
ありえない。
現実のはずの部屋に、ゲームみたいなUIが浮かんでいる。
手を伸ばす。
触れない。
だが、確かに“そこにある”。
「……おいおい」
心臓が、早くなる。
夢じゃない。
いや、夢だとしても――リアルすぎる。
「……鑑定」
恐る恐る、言ってみる。
視線を、机の上のスマホに向ける。
すると。
画面が、変わった。
【スマートフォン】
状態:正常
価値:30,000円
「……」
数秒、固まる。
「……マジかよ」
思わず、笑いそうになる。
いや、笑えない。
「……出てる」
本当に、情報が見えている。
試しに、他のものにも視線を向ける。
机。
椅子。
教科書。
すべてに、同じように情報が表示される。
「……」
深く、息を吐く。
「……これ」
確信した。
「……使える」
その日。
学校は休んだ。
行けるわけがない。
こんな状態で、普通に授業なんて受けられるか。
部屋で、ひたすら試した。
鑑定。
翻訳。
アイテムボックス。
どれも、問題なく使える。
「……やばいな」
小さく呟く。
これはもう。
“チート”だ。
そして。
夕方。
気づいたら、外に出ていた。
理由は、はっきりしている。
「……試すか」
コンビニの前。
その一角にある、宝くじ売り場。
「……」
しばらく、立ち止まる。
普通なら、絶対にやらない。
だが。
「……」
このスキルが本物なら。
「……変わる」
人生が。
ゆっくりと、一枚手に取る。
「……鑑定」
【宝くじ】
当選確率:0.0001%
「……」
すぐに戻す。
「低すぎる」
当然だ。
普通の宝くじなんて、そんなものだろう。
だが。
次。
【宝くじ】
当選確率:0.3%
「……微妙」
さらに、別。
【宝くじ】
当選確率:1.1%
「……」
そして。
もう一枚。
【宝くじ】
当選確率:12.8%
「……は?」
手が、止まる。
今、何て出た?
「……12.8%?」
宝くじで?
ありえない。
だが。
表示されている。
はっきりと。
「……」
一瞬、迷う。
これが嘘だったら?
ただのバグだったら?
だが。
「……」
ここまでの流れ。
このスキル。
「……」
小さく、笑う。
「……これだろ」
迷いは消えた。
その一枚を、レジに持っていく。
「はい、ありがとうございます」
店員の声。
普通のやり取り。
だが。
自分の中では、全く普通じゃない。
外に出る。
「……」
空を見上げる。
夕焼け。
妙に、鮮やかに見える。
「……当たるのか」
小さく呟く。
現実感がない。
だが。
「……」
手の中の紙を、強く握る。
結果発表の日。
テレビの前。
紙を広げる。
「……」
静かに、番号を見る。
一つ目。
一致。
「……」
二つ目。
一致。
「……」
三つ目。
一致。
「……」
呼吸が、浅くなる。
「……おい」
四つ目。
一致。
「……」
五つ目。
一致。
「……は?」
六つ目。
一致。
「……」
最後。
「……」
ゆっくりと、確認する。
「……」
一致。
「……当たった」
声が、出ない。
体が、動かない。
「……」
頭が、真っ白になる。
そして。
数秒後。
「……マジかよ……」
震える声が、やっと出た。
結果。
1億2000万。
「……」
笑いが、こみ上げる。
「……はは……」
止まらない。
「……なんだこれ」
現実が、壊れたみたいだ。
だが。
「……始まったな」
小さく、呟く。
これはもう。
戻れない。




