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橘美咲の原点2
橘美咲が1歳の時、父親は胃腸の感染症に苦しむ彼女を国鉄病院へ連れて行った。まだ言葉を持たない彼女は、ただ泣き続けることでしかその苦しみを訴えられなかった。
ぼんやりとした意識の中で、彼女が感じ取れる世界は、いくつかの音によって切り分けられていた。遠くの線路から伝わってくる低い振動音が、最も絶え間ない背景として響いていた。台所で母親が包丁を使う小気味よい音が、ときおり短く浮かび上がり、父親が同僚と低い声で交わす会話は、廊下を隔てて途切れ途切れに、近くなったり遠のいたりしながら耳に届いた。まだ記憶が形を成す以前、それらの音こそが、彼女の世界の最初の輪郭を描いていた。
参考文献
大森貴弘(2005)『地獄少女』.
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