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千羽黒乃、新作落語を披露す

出囃子が鳴り、中に着込んでいた花柄の和服に身を包んだ千羽が舞台袖から現れる。舞台の真ん中に敷かれた座布団まで歩みを進めていると、会場からかすかに「座敷わらしみたい」と聞こえてきた。その言葉に意を介さず千羽は歩き続け、座布団に正座で腰を降ろした。130cmに満たない千羽の正座姿は、よりその様相が座敷わらしのそれに見えるようで、会場からは「ふふっ」といくらか息を漏らしている烏天狗が散見された。

「えー」という千羽の語りが始まると、それも止み一瞬の静寂が起きる。


「えー古い建物なのでね、もしかしたらどこかに座敷わらしがいたのかも知れませんが、皆さん是非高座の私のお喋りに付き合っていただけたらと思いまして」


さながら本物の落語家のような前口上、そして座敷わらしが自分ではない、と聞かせるような話の入りに、会場はドッと笑いに包まれる。掴みを得た千羽は手応えを感じたのか、そのまま流れるように口を動かし、口上を続けた。


「今回何切る問題ではなく落語に挑戦しようと思ったんですがね、別に問題のストックがなくなったわけではございませんよ。それこそ無数にあるわけで、皆さんの寿命を合わせても全ての問題が出来るわけではないのでね。落語よりもそれだけは覚えて帰っていただきたく。もちろん落語も聞いていただければそれが何よりの幸せなんですけども」


すらすら流れるように口上が進む様子に、関心する者や浅めのツボに入って息を漏らす者がぽつぽつと出始める。大半の烏天狗が千羽の言葉に耳を傾けていると確信した千羽は、ここからと言わんばかりに、演目へと入っていった。


「まあ烏天狗はそんな麻雀話が大好きなわけなんですけど、世間様の方でも何やら、麻雀が今流行っているそうでね。

何年か前に麻雀の「マンガ」がきっかけとなったそうで。ああちょっとそこのナイスミドルなおじ様方、『ワシはそんなもの、読「まんが」』なんてそんな顔せず、ちょいと聞いてくださいよ」


ちょいちょいと扇子を、髭を蓄えた烏天狗へと向ける。向けられた烏天狗は「え、ワシ??」と困惑したようにキョロキョロと顔を動かす。そんな客弄りに、会場は再び笑につつまれる。


「私ら烏天狗からしたら『なんでそんな古臭いものを』と思うやも知れませんが、なんと最近の麻雀は、金や物を賭けないんだそうだ。これを前に友人に言ったら、『そんなもん面白みに欠ける。どうせすぐ廃れるさ。賭けたっていい!』なんて言ってくれまして」

今度は先程絡んできた烏天狗に向けて扇子を向ける。

「そう言うもんですから、私がこの板をですね、その友人に見せるわけですよ。ええ。最近の必需品、「すまーとほん」でございます。映した画面はですね、ある麻雀のゲームが何百万人という人に遊ばれてる、という記事なんですけどね。それを見せながら私は友人に言ってやったんですよ。

「私も山の下で麻雀の本を出しているんだけど、色んなところで『欠けている』」とね。そしたら友人が泣き出しちゃいましてね。泣いて鳴いて安くしようって魂胆だったんでしょうね。でもそうは『東場』が降ろさない、なんて言ってね。ちいとばかし儲けさせていただいたんですけども」

おいおいと泣く仕草を見せると、会場の視線が酒に酔った烏天狗に向けられる。当の本人は、「え、俺何もしてない……」と漏らし、また会場に笑い声が飛び交った。

「さて、この麻雀なんですけども。これが中々厄介なものでして、どれだけ回数を重ねても運の要素は取り除けないもので。3巡目に上がり牌が5枚ある立直をしたとしても、嶺上開花で和了られる、なんてこともありますし、山に1枚しかない牌で四暗刻、というのも見ましてね。山の下では麻雀を教える教官がいたりするんですが、それを目の当たりにしたらもうそれこそ阿鼻叫喚、てね。うんうん唸っちまいまして」


1度笑い声のトーンが下がるも、会場は既に千羽の落語に聞き入っているようだった。千羽は一呼吸おき、話の本筋へと入っていった。


「そんな運も必要な麻雀なんですがね、雀荘に行くと色んなトラブルがあるもんで。昔っからある雀荘てのは、煙草の煙がまあ煙ったくて、牌が黄色く染まっちまってるところなんても出てくるもんでさ。私も昔そんな昔っからの雀荘に通っていたもんなんですわ。

ある日ですね、よそ様の卓で、白のみで和了った方がいたようで、他所からこんな冗談が聞こえてして。

「これお前さん。それのどこが『(しろ)』なんだい。どこからどう見たって黄ばんでて白くないじゃないか」

和了った男も酒が入ってたんでしょうね。「それもそうだ」なんて大笑い。笑わせてくれた礼にと、冗談を言った男に千点棒をひょいと渡しまして。

それでしばらく進みましたら、今度はさっき冗談を言った男が和了しまして。手を見るとなんと国士無双。滅多にお目にかかれない大物手!

それを見た白のみの男が、意趣返しとばかりに指摘してきたんですよ。

「お前さん。さっきそいつは(はく)じゃねえって言ってたじゃねえか。その国士はチョンボじゃねぇのかい?」

「いやいや、これはれっきとした白でさあ。払いたくないからって適当言うのはだめじゃあないか」

その言葉に指摘した男は大激怒。まくし立てるように和了した男に詰め寄ってきてしまいまして。

「それのどこが白(なんだい。どこからどう見たって黄ばんでて白くないじゃないか。さっきお前さんがハッキリそう言ったじゃねえか!なんでお前さんはいけしゃあしゃあと和了してんだい!!」

「何言ってんだい。あれはお前さんが勝手に納得して払っただけなんじゃあないのかい?それにお前さんは、なーんにも書いてない黄色い紙のこと、『白紙』って呼ばないのかい?」

文句言った奴ぁそれで何も言えなくなっちまって。顔を真っ赤にして睨みつけるだけだったんだが、何かの拍子で男の手が倒れちまいましてね。どんな手になってたかってーと、なんと男も国士無双でやんの。

「おやおや、お前さんも国士だったんじゃないか。よくもまあその手でワシに突っかかってきたもんよ。なんでい。国士が白紙になってテンパっちまったのかい?」

男はそこでハッとした顔になりまして。慌てて帰っちまいましたよ。

和了った男はそれで気を良くしたのか、その後もまあ絶好調。

私も一寸時間が出来たので男に話しかけたんですよ。

「先程の和了、お見事でした」

「おやお嬢さん、こりゃどうも」

「さながらお相手様、国士が白紙でガックシ、といった感じでしたね」

「ハッハッハ、お上手なことで。ではお嬢さん、そんな貴女に、奴さんが何故負けたか教えようさ」

「金も品性も、かけちゃおしめえよ。……ってね」

……おあとがよろしいようで」

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