山へ
ルミルから渡された剣は素人のカウルでも分かるくらいしっかりとした作りをしていた。
ルミルが言うには武器職人のドワーフ達ならもっと良い物も作れるらしいが、彼らは今、エルフの集落に出稼ぎに行っていていないらしい。
「今は武器を作る時代じゃない。女のお前なら尚更だって言って皆私に鍛冶をやらせてくれないの。まぁ、それ以外にも理由はあるんだろうけど……」
ルミルは不満そうに呟いた。
最近はホビット族も武器をドワーフに注文しなくなってきた。
これは安全な住処を手に入れて外の驚異が殆ど無くなったからだ。地下にいる限り危険とは無縁といっていい。
勿論外には今もホビット達の驚異になる生物が沢山いるが、ホビット達は外に出ることをしなくても生きていけるようになった。
エルフは鉄製の武器を好まない性格で武器は自作しているのでドワーフ達の武器を使うことはないだろう。
そう考えると確かに武器の需要は減ってきている。
しかし、需要が減ってきているだけで、武器が完全に要らなくなることはない。
昆虫族や獣族と友好関係を築くことができれば違うだろうが、それは難しいだろう。
彼らはホビットやドワーフ、エルフ達のような妖精種をエサとてしか見ていないのだから。
「私の両親はアリに殺されたの。私はアイツ等を倒す武器を作りたい。だから私は誰よりも鍛冶の経験を積まないといけないのよ。」
ルミルはそう言ってカウルを見る。
その瞳には燃えるような憎しみの炎が宿っているように見えた。
そんなルミルをカウルは他人と思えなかった。
「俺も仲間をアリに殺された。敵を討つ為の武器が欲しい。」
「そう、なら私に任せて。とっておきのを作ってあげるわ。」
ルミルは満足そうに頷くと、剣を腰に戻した。
お互いにガッシリと握手を交わしてニヤリと笑い合う。
早速武器を作ってもらおうと思ったカウルだったが、1つ問題が発生した。
それは材料の圧倒的不足だ。
ルミルが言うには目の前にある金属の山は村の正式な仕事にしか使うことが許されていないらしい。
「だからあなたの武器を作るための鉱石を入手するところから手伝ってもらうことになるけど、良いかしら?」
「勿論だ。俺にできることなら何だってやるさ。」
武器を作るための材料は近くの山に鉱山があるので何とかなるようだ。
しかし鉱山の近くには蜘蛛の縄張りがあり、迂闊には近づけないらしい。
蜘蛛はアリよりも凶暴で強い昆虫族だ。罠を仕掛け獲物の体を動けなくして捕食する。
アリよりも俊敏で力も強い。大きさもアリの10倍は軽くあるだろう。
幸いなことに蜘蛛は自分のテリトリーである巣からは殆ど動くことがないので、巣に近づかなければさほど驚異ではないのだが。
「この近くにはそこしか鉱山がないの。でも蜘蛛がいるからかなり危険になっちゃう。それでも行く?」
鉱石を取りに行くにはかなりの道具がいる。
採った鉱石を運ぶ荷台も欲しいし、ツルハシなんかの採掘道具も必要だろう。
蜘蛛は気配に敏感だ。そんな重装備で鉱石なんか採りに行ったら気づかれる可能性は大きいだろう。
そして気付かれたら逃げられる可能性は低い。
「幸いな事に蜘蛛の巣は鉱山の入口から少しずれているから、気付かれなければ―――いえ、もし気付かれたとしても空腹でなければ見逃してもらえる可能性は高いわ。」
その証拠に鉱石を採りに行ったドワーフは半分以上の確率で生還している。
ルミルは蜘蛛から逃れるための秘策も用意していると言っていた。
「そうだな、行くのは問題ないが武器を貸してもらえると嬉しいかな。念の為に抵抗するための力が欲しい。」
「それくらいお安い御用よ。」
フォルが木の棒を持ち上げながら苦笑すると、ルミルも苦笑いを浮かべながら頷いた。
・・・
自分より大きな草を掻き分けながらフォルとルミルは鉱山に向かって進む。
鉱山はドワーフの村から1時間程歩いたところにあるらしい。
「あともう少しよ。ここら辺は蜘蛛の縄張りのすぐ傍だから気をつけてね。」
「蜘蛛は縄張りの巣からは出てこないんだろ?」
「子蜘蛛が生まれると縄張りは広がるの。大体が他の土地に移ったり、他の強い昆虫族や獣族に殺されてしまうから大丈夫だと思うけど、子蜘蛛も結構強いから油断できないし。」
ルミルはそう言いながら顔をしかめた。
草むらの間からは子蜘蛛が巣を作っているのが見える。
「あんな感じに蜘蛛は縄張りを拡大していくの。こっちの道はもう使えないから迂回しましょう。」
「お、おう。分かった。」
ルミルは何度か鉱山に来ているのか蜘蛛の巣を素早く見つけ、戦闘を回避していく。
フォルはいつでも戦闘に移れるようにルミルに貸してもらった剣の柄を握り締めながらルミルの後を付いて歩く。
貸してもらった剣は少し短めの剣だ。ショートソードってやつだろうか。
過度な装飾は無いが、その無骨さが逆に頼りになる雰囲気を出している気がする。
「あそこが目的の鉱山よ。私が採掘をしている間、しっかり守ってよね。」
「任せとけ。我流だけど死ぬほど戦闘訓練はしてきたし、ルミルに借りたこの剣もある。最悪時間稼ぎ位はできるさ。」
「な、何か不安が残るけど、まぁいいわ。頼りにしているからね。」
鉱山の入口は狭く薄暗い。
入口から少し離れた場所にある木には大きな蜘蛛の巣があった。あれがここら辺の親玉の蜘蛛の巣なんだろう。蜘蛛は今、巣にはいないみたいだ。
「蜘蛛もいないみたいだし、今のうちに鉱山に入りましょう。」
「了解した。」
ルミルとフォルは腰を低くして洞窟に入る。
洞窟の中は暗く、数歩先さえよく見えない状態だ。
フォルは松明に火をつけて先を照らすと、奥まで伸びる細い道があった。
「ここは蜘蛛が来るまでドワーフの採掘場だったの。この洞窟も先祖のドワーフがつくりだしたのよ。」
ルミルはそう言って先に進む。
よく見てみると洞窟の壁の要所に木で補強が入っていた。
洞窟はかなり広く、迷路のように入り組んでいる。フォル達のような妖精族がすれ違える位の道幅しかなく、天井も低い。はっきり言って歩きにくいことこの上ない。
これは蜘蛛や他の昆虫族が入ることをできるだけ防ぐのが理由らしい。
確かにこれなら洞窟に入ってこられる生き物は限られてくる。
洞窟は迷路のように入り組んでいるから、もしもの時も逃げるのは容易いだろう。
しばらく歩いていくと、少し広い空間にたどり着いた。
どうやらここが目的地のようだ。
「さて、掘りまくるわよ。フォル、手伝ってね!」
ルミルはツルハシを持ち上げながら笑った。




