ドワーフ
ドワーフは火属性の魔法の他を得意とする種族で、殆どが鍛冶や細工を仕事にしている。
これはドワーフの周囲に鍛冶と細工関連の物しかないので他のことに目が向かないのが原因だろう。
男のドワーフの殆どが鍛冶を仕事に選び、女のドワーフは細工を仕事に選ぶ。
ドワーフは旅人に近い種族だ。
ドワーフは鉱石が多く取れる場所にテントを張って村を作る。
そしてある程度鉱石を掘り尽くすと別の場所に移動していく。
最近は人族が廃棄して出来たゴミの山の麓に村を作ることが多くなっている。
鉱脈を探すより簡単に素材を手に入れることができるからだ。
彼らは生まれてから死ぬまでの時間を鉱物と共に過ごしていく。そんな彼等が作った作品はそこら辺の物とは輝きが違うという。
・・・
フォルが自分の何倍もある草むらを押しのけた先にあった光景は頂上が見えない程に積み重なった金属の山と、その麓に広がるテントでできた村だった。
鍛冶を行うための施設なのか頑丈そうな石でできた建物もあるが、基本的にテントがドワーフ達の住居のようだ。
ドワーフはホビットよりも小さい種族だ。どんなに大きくても成人したホビットの胸辺りまでの身長しかない。
しかし小さい頃から親の手伝いで重い金属を運んだり、山で採掘をしたりする為、ホビットとは比べ物にならないほど屈強な肉体を持っている。
ドワーフ達は畑仕事や木の実の採取はほとんど行わない。この理由は単純にドワーフ達の鍛冶をする時間が削れるからだ。食事のための時間は最低限、自分の作品を作ることに生涯を捧げるのがドワーフという種族の特徴である。
因みに食事は他種族から自分達が作った作品と交換してもらっている。
そんな種族だからなのか、ドワーフの男性は総じて髭を伸ばし放題で、立派な髭なほど男前に見られる傾向がある。流石に女性は身だしなみにも気をつけるが、化粧は殆どしない。大きな作業を始めると水浴びも何日かに1回だけという噂もながれている。
つまり何というか、ドワーフ達は少し……いや、かなり臭う。
鍛冶は火を扱う作業だ。当然汗をかく。
ドワーフは暑さに強いので他の種族よりは汗の量も少ないが、それでも水浴びもしなければ体臭は酷いことになるのは想像できるだろう。
フォルはドワーフの村の前で顔をしかめていた。
風に乗って酸っぱい匂いがフォルの鼻を攻撃してきている。
正直言うとこの村には入りたくない。入口でこの匂いだったらテントの中なんかはどうなってしまうのだろう?考えたくもなかった。
今は仕事の時間なのか、村の外には1人の影も見えない。
代わりに金属を叩く音が村中に響いていた。
ガタンッ!
フォルが村に入ろうかどうしようか悩んでいると、石でできた頑丈そうな建物から一人の少女が勢いよく飛び出してきた。
意志の強く、気の強そうな瞳と後ろで束ねた真っ赤な髪が印象的な少女だ。
大きな金槌を持っていることから彼女も鍛冶をやるのだろう。
「お前に鍛冶は無理だと言っているだろう。女は細工が仕事だ。」
奥の方からもう一人、貫禄がある男のドワーフが出てきて少女を追い払うように手を振った。
「そんなことない!私だって武器を鍛えたいの!」
「今は生き物を殺す道具を作ることも少ない。生活用品がほとんどだ。親の敵を打ちたいのも分かるが、仕事に私情を挟むな。自分の仕事に戻れ。」
男のドワーフはそう言うと扉を閉めた。
残された少女は悔しそうに金槌を握り締めながら下を向いている。
「大丈夫ですか?」
「………っつ!?あ、はい。何か様ですか?」
「職人の方々に武器の制作を頼みたいんですけど。」
フォルがここに来た目的が武器制作であることを告げると、少女は目を大きく見開いてフォルに詰めよってきた。
少女は鼻と鼻が当たる距離まで顔を近づけて言う。
「報酬は?」
「えっと、宝石を持ってきました。」
フォルは少女の迫力に負けて背負ってきた鞄を少女に見せる。
全てではないが鞄の隙間から大きなルビーが見えるはずだ。少女はそれに気付いたのかフォルから離れてこう言った。
「私の名前はルミル。あなたの依頼、私が受けてあげましょうか?」
「いや結構です。」
ドワーフの少女――ルミルは自信満々にフォルに向かってそう言ったが、フォルはその申し出を丁重に断ることにした。
それは先ほどルミルが貫禄のあるドワーフに作業場から追い出されているところを見ていたからだし、命を預ける武器を自分と同い年位の少女に作ってもらうことに不安を覚えたからだ。
「ふーん、でもね……ここの職人は今、武器を作る余裕なんかないわよ?」
「どういう事だ?」
「職人の殆どがエルフの集落の防壁作りに行っているの。残った職人達もあなたたちホビットに注文された家具や農具作りに忙しいから相手になんてしてもらえないわ。」
「そんな……でも、このクラスの宝石が報酬なら受けてくれるやつだって!」
フォルが鞄のルビーを見せながら声を荒げる。
こんな大きさの宝石は人族ならともかくホビットのような小さな種族が持っていることはまずない。宝石に目がないドワーフだって滅多にお目にかかれないサイズの大きさだ。
「確かに素晴らしい宝石だけど、私達ドワーフは受けた仕事を終わらせるまでは他の仕事を受けることはしないの。どんな報酬を出されたってそれは変わらない。」
ルミルが言うには腕のいい職人はエルフの集落に行っており帰るのに1年は掛かる。そしてホビット達が注文している家具や農具を作っている職人達だって作業が終わるのは数ヶ月も先らしい。
「でもね、私ならすぐに作ってあげるわよ?こう見えて腕はいいの。」
「本当に?さっき追い出されていたじゃないか。」
フォルの言葉にルミルはムッと頬を膨らませて腰の剣を抜いた。
レイピアのような刀身は針のように鋭く、簡単に折れてしまいそうだ。
「私が作った剣よ。刀身は鋼鉄で出来ていて、突く攻撃に特化させたの。」
ルミルはフォルに剣を渡す。
剣は鋼鉄で出来ているとは思えないほど軽かった。
刀身も細い割に頑丈そうだ。少なくとも扱いに心得がある者なら折るようなヘマはしないだろう。
「これでも私の腕を信じられない?」
ルミルは自信満々に呟いた。




