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決意

赤アリの惨劇から一週間が過ぎた。

フォルの住んでいる村の人口はそこまで多くない。総人口は200人程度しかいないだろう。その中で成人していて、尚且つ働き盛りの男は40人もいない。


今回、そんな男たちの中でもベテランの部類に入る男たちが15人死んだ。

村はこの予想外の大きい痛手に慌てた。

残っている成人した男たちは25人。しかもベテランが大勢死んでしまったので経験の浅い者達ばかりが残ってしまった。

男の一番の仕事である食材の採取は技術はいらないが、危険な仕事だ。

どんな場所が危ないかを早めに察知する知識や安全なルートの把握等が出来ないと死亡率が跳ね上がる。

その為新人は最初ベテランのチームで経験を積んでいくのだ。

しかし村のベテランのほとんどが死んでしまった。

勿論食材の採取経験を積んだ者がいない訳ではないが、死んでしまったベテラン達には及ばない。


急遽隣の村に応援を求めたところ、同じような被害に遭っていることが判明した。

フォルの村の村長が近くの村々に声をかけて近くの村長達が集まり話し合う。

その結果、赤蟻の被害はかなり大きいことが分かった。


ホビット達は人口が急激に減ってしまったので、近くの村と村で合併していくことになった。フォルの住んでいる村は他の村より大きな古木の中にあるので他の村が移り住んでくることになるようだ。


・・・


村の合併は幸いなことに良い方向に転がった。

フォル達の村の古木は大きな物だが、もう1つの村の住民が丸々入る移住できるほどのスペースはなかった。

無理やりになら住めなくもないのだけど、窮屈になるし畑を幾つか潰さないといけなくなるだろう。

しかし、移住してきた村のホビットの魔法のおかげで村は更なる発展を遂げることになる。


ホビットは地属性の魔法に特化した種族だ。

勿論フォルも地属性の魔法は得意だ。フォルの村は土を砲弾にして飛ばす魔法と、土を凝縮して盾にする魔法を得意としている。


生活にあまり関わってくる種類の魔法ではないが、外敵との戦いには必要な魔法といっていいだろう。まぁ、体の小さなホビットの魔法は逃げる時の時間稼ぎくらいにしか使えないが。


移住してきた村のホビット達は大雑把にいえば採掘の魔法に特化していた。

フォルたちは採掘の魔法で作られた地下に村を移し、以前住んでいた村は取り壊して畑にすることにした。


広大な畑が出来たことによりフォル達は外に出る必要が無くなる。

わざわざ危険な所に行かなくても食料が確保できるようになったからだ。

地下は広がり続け、他の場所に住んでいたホビット達も何処からか噂を聞いたのか、どんどん移住してきた。


地下道を作って移住を希望してきたホビットの村があった古木までの道を作り、村を畑にすることで人が増えても食料は充分に確保できる。

地下の村はどんどん大きくなっていった。


・・・


赤アリの惨劇から1年が経過した。

地下に広がっていく村は周辺のホビットの村を次々と吸収していき、遂には国と言っていいレベルにまでなっていた。

周辺のホビットの村の住民は全てこの地下の村に移住したと考えていいだろう。


地下の壁は地属性の魔法で補強してあるので獣族のモグラや昆虫族のアリがここに攻めて来ることもない。

こうしてホビット達は安住の地を手に入れた。


赤アリの被害は過去のことになり、ホビット達は恐怖を忘れて今を生きている。

だが、フォルだけは違った。フォルは赤アリに唯一襲われながらも生き残ったホビットだ。

フォルは赤アリに対して強い恐怖と、憎しみを抱いていた。


フォルはこの一年、暇さえあれば木の棒で素振りをしていた。

ホビットは戦闘を好む種族では無いため武術の概念がない。

フォルの村は戦闘に特化した魔法を得意としているが、フォルはそれを戦うための技術ではなく逃げる為の技術だと認識していた。

それは土を砲弾にする魔法も、土を圧縮して盾にする魔法も全ては逃げる時間を稼ぐ為の魔法だと教えられてきたからだ。


フォルは移住してきた他の村のホビット達に魔法を教えてもらい、その村独自の魔法も習得することに成功している。

結果、フォルの村が得意としている魔法だけが他の魔法と比べて異質なことが分かった。攻撃的すぎるのだ。


他の村が得意としていた魔法は【岩を削って砂に変える魔法】や【土を圧縮して地形を変える】といった感じの魔法ばかりだった。


フォルは他の村が得意としていた魔法を覚えた後は、土を砲弾にする魔法を集中的に鍛えていくことにした。魔法はイメージに依存することが多い。

岩の砲弾にしても砲弾を尖らせるだけで殺傷能力は上がるし、打ち出す時に回転を加えるだけで貫通力が上がる。


1年間、フォルは様々な方法で自分を鍛え続けた。

全ては赤アリを倒すためだ。あの日の恐怖を、絶望を打ち消すために。

フォルは赤アリに襲われてから丁度1年が過ぎた今日、村を出ることを決めた。


・・・


フォルの両親は早くに亡くなっている為、近所の大人達がフォルの親代わりだった。

本当なら彼らに挨拶をして出るのが筋なのだろうがフォルは黙って行くことにした。

彼らに村を出ることを話しても反対されることは分かっていたから。


この1年間、フォルは畑仕事以外の時間を鍛錬に費やしてきた。

それを皆心配してくれたし、寝不足で失敗しがちなフォルをそれとなくフォローをしてくれている。

皆フォルにとって大事な家族だし、心配させたくない。

でも、フォルは外に出るのを止めることは考えられない。

フォルにとって、時間がこの憎しみを薄れさせるのは我慢できないことなのだ。

だからフォルは黙って行くことにした。

置手紙を机に置いて、フォルは逃げるように外に出る。


フォルはドワーフの集落に向かうことにした。

ドワーフは火属性の魔法に優れており、手先が器用な種族として知られている。

彼らの多くは鍛冶を仕事にしていて、ホビット達が使う生活用具もほとんどドワーフが作ったものだ。

フォルは赤アリを倒すために、まずはドワーフに武器を作ってもらおうと考えていた。


ドワーフ達は珍しい鉱石に目がない種族だ。

彼らに多種族が依頼をする場合は何か珍しい鉱石を報酬として持っていかないといけない。

フォルは親の形見である燃えるような色の宝石を鞄に入れて背負っていた。


フォルが持つ宝石、ルビーはドワーフ達に特に好まれている宝石だ。

炎の精霊が宿っているとされているルビーはドワーフの守護石とされている。

フォルが持っているルビーはフォルと同じ位の大きさがあった。巨大なルビーは冒険者だった父がカラスの巣から持ち帰った秘宝らしい。


フォルの母はフォルが小さい頃、このルビーを見せながら今も冒険の旅に出ている父の話をよくしてくれたものだ。

これは流行病で死んでしまった母の形見の様な物だが、フォルは力を手に入れるためにこのルビーを手放す気でいた。


ドワーフは同じ場所に留まることをしない。

人族が捨てていった物で出来た山の傍に村を作り、鍛冶をして生活している。

人族が捨てた物の中には自然の鉱石より軽く丈夫な物も多い。ドワーフ達はそういった物を使って質の良い道具を作り出していく。

ドワーフはそうやって作り出した道具を他の種族に売って、代わりに珍しい鉱石や食べ物を手に入れるのだ。


定住を持たないドワーフを探すのは至難の業のように思えるが、実はそうでもない。

人族が物を捨てる場所は大体決まっているし、捨てたもので出来た山は大きいので遠くからでも目立つからだ。


・・・


村を出て数日が経過した。

フォルはひたすらに森を進んでいく。

森を進んでいくと昆虫族や獣族に遭遇する事も多い。

フォルはその度に息を殺し、身を隠してやり過ごす。


ホビットは脆弱な種族だ。

確かに魔法という超常的な力を使うことができるが、彼らは体が小さい。

アリと同じくらいか、それよりも体が小さなホビットは他の種族より圧倒的に弱い。


それでも歴戦の戦士や冒険者のホビットならば条件次第で獣族をも倒す事ができるが、そんなホビットはひと握りにも満たない。

勿論フォルはそのひと握りには入っていなかった。武器も防具も持たないフォルは隠れることしかできないのだ。


フォルはこの1年の間、体を鍛えてきたし木の棒を武器に見立てて自己流ながら戦闘訓練もしてきた。それでも木の棒でアリの集団に戦いを挑む気にはならないし、獣族の鳥や犬を倒せるとは思えるはずもない。


(武器が必要だ。アリの硬い外皮を切り避けるような強力な武器が欲しい。)


フォルは右手に持った木の棒を見ながらそう思った。

それから2日くらいは歩いただろうか?草むらを抜けるとそこには異質な空気を放つ銀色の山があった。白い箱状の物や巨大な鍋のような物が積み重なっているその山は、この森の中では異質としか言えないだろう。


「ようやく見つけた。」


フォルはその山を見て確信した。

近くにドワーフの村がある、と。



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