ホビット
エルフ、ドワーフ、ホビットという種族を知っているだろうか?
これらの種族はファンタジーでは定番の種族だが、現実ではいないものと考えられている。
しかし、それは本当だろうか?本当にいないと言えるだろうか?
エルフ、ドワーフ、ホビットは存在している。
しかも皆のすぐ近くで生活をしている。
映画や小説のような大きさではなく、小さな、とても小さな存在で。
これはそんな小さな種族の小さな冒険の物語である――――
・・・
深い森の中、巨大な古木の内側にひっそりと小さな村が存在していた。
時折現れる昆虫族や獣族から身を隠すため、古木の中に隠れるように作られたその村には妖精族のホビットと呼ばれる種族がひっそりと暮らしている。
ホビットは穏やかな種族で、基本的に木の実を主食にしている種族だ。
ホビットは村から出る事が少ない。
他の部族や他種族との交流の時や、木の実などの食料の採取以外では滅多に外に出ることがない種族だ。
これは外にいる昆虫族や獣族、そして人族といったホビット族では敵わない外敵が数多くいる為である。
幸いなことに獣族や人族はホビット達に無関心だし、昆虫族は腕の立つホビットなら倒せない敵ではないが、それでもホビット族の驚異には違いないので彼らは必要以上に外に出ようとはしない。
食料の採取だって15歳以上の成人したホビットの男のみで行うのが殆どだし、他種族との交流の時だって腕利きのホビットのみで構成された警戒部隊が組織される。
まあ、要するに殆どのホビットにとって、自分たちの村がある古木の外は未知の世界なのだ。
・・・
「フォル、そろそろ行くぞ!」
「はい!今行きます!」
大柄なホビットの男に怒鳴られて、まだ幼さが残る青年が慌てて駆けていく。
彼の名前は【フォル】今年で15歳になったばかりの若きホビットだ。
黒い髪の毛は短く切り揃えられており、ホビット族の成人の証とされている水晶のピアスが太陽の光に反射されてキラキラと光を放っている。
フォルは今日が初めての食料採取だ。
成人したホビット族の男が交代で行う仕事で、5人1組になって行うこの仕事はホビット族が外に出ることが出来る数少ないチャンスの1つでもある。
危険が多いこの食料採取の仕事は誰もが嫌がる仕事の1つなのだが、生まれてからまだ外に出たことのないフォルにとっては楽しみで仕方がない仕事だった。
未知の世界での冒険、それはまだ幼く世間を知らないフォルの心を弾ませるには充分すぎると言っていいだろう。
最初の食料採取の時、新人はベテランが3人以上いるチームに入る。
そこでフォローを受けながら仕事に慣れていくのだ。
フォルのチームはフォルを除く全員がこの食料採取を20年以上行っている玄人達だ。
どのルートが危険か、どこにどんな木の実があるかを把握している。
彼らがいれば間違いなんて起きるはずもない。
フォルはこの時そう思っていた。
・・・・
「フォル、逃げろ!俺たちがここを食い止める!」
一体どうしてこうなったのだろう?
朝、自分に喝を入れてきた大柄の男………レアズがその手に持った細身の剣でアリの頭を斬りつけている。
その隣では右肘から先を無くして青い顔になっているヨハンが地属性の魔法を使ってアリを生き埋めにしていた。
「で、でも………それだとレアズさん達が!」
「そんな事言っている場合じゃないだろうが!奥の方にいる変異種の赤アリが見えないのか!早く村に戻って増援を呼んで来い!」
突然のことだった。
採取が終わって後は帰るだけといった時に、昆虫族のアリが集団で現れたのだ。
アリは雑食で、その中でもホビットが好物だ。ベテランたちは咄嗟に武器を構えるが、背後からアリの奇襲を受けてしまう。
ヨハンの右手が喰われて戦力が落ち、そこに変異種の赤アリまで登場したことで最悪といっていい事態になってしまった。
アリは赤アリを含めて10体、戦闘経験のないフォルは戦力外だし、ヨハンは痛みでまともに戦えない。圧倒的に状況は不利だ。
パーティのリーダーであるレアズは即座に自分達が盾になりフォルを逃がすことを決意した。
他のメンバーも言葉を発しないところを見ると、同じことを考えているのだろう。
これが普通のアリだけだったなら、状況はまだ違っていたかもしれない。
しかし赤アリがいる。それだけで勝利は絶望的になる。
赤アリとはそれほどまでに強い存在なのだ。
「………すぐに増援を呼んできます!」
少しの間フォルは迷ったが、レアズの「増援を呼んで来い」という言葉を聞くと、ハッとしたような顔をして駆け出していった。
(まぁ、増援がくるまで俺らは持たないだろうけどな。)
すぐ隣にいたヨハンが前のめりに倒れていく。
痛みで気を失ったのだろう。既に他の2人も体力的に辛そうだ。
採取もある程度終えて帰るだけのところを奇襲されたのだ。万全の状態だったらまだ持ったかもしれないが、正直のところレアズの息も上がってしまっている。
「まぁ、タダじゃやられないさ。一匹でも多く道連れにしてやらぁ。」
レアズはそう言って剣を構える。
アリ達はレアズの殺気を敏感に感じ取ったのだろうか?ギチギチと鳴き声をあげながら前進してくるのが見えた。
・・・
「こっちです!早くしないとレアズさん達が……!」
フォルが増援を連れてレアズ達が居た場所までたどり着いたのはフォルがその場を離れてから20分程が経過した後だった。
増援の大人たちはまだレアズ達が生きているとは思っていなかった。
状況から考えて生きている可能性は低い。遺品を見つけて持って帰れれば御の字といったところだろう。
「よう、遅かったじゃないか。」
しかし、増援の大人たちの予想を裏切り、レアズは生きていた。
レアズ以外は既に息がなく、地面に倒れてしまっているが、レアズは立っている。
いや、正確には立たされている。
レアズは両腕を失い片足も無くなっていた。首には右目に傷を負った赤アリが噛み付いている。
ドクドクと傷口から血が流れ出ているのが見える。
鉄の匂い、生臭さが鼻を刺激してフォルは吐いてしまった。
ギチギチと赤アリが愉快そうに声を上げている。
「コイツはやばい。おい、お前等早く逃げろ。」
レアズは喋るたびに口からゴボゴボと血を吐いている。
フォルが放心していると両腕を掴まれた。
「すまない。助けることは出来そうもない。遺品を回収するのも難しい。いいか、逃げることだけを考えろ。」
そう言った男は次の瞬間、頭を食べられていた。
いつの間にか傍にはアリがいた。赤アリに気を取られすぎていたみたいだ。フォルはアリと目が合う。
ぞわり
鳥肌が立った。フォルは意識が覚めて冷静になっていくのを感じた。
隣にいた男だった物の首から血しぶきが上がる。アリが笑ったように見えた。
その笑いからは獲物を見つけたときの喜びの様な物が感じられる。
フォルは立ち上がらずに転がってその場から離れた。
周りを見てみると、増援にきた大人たちは既にいない。
「気にするな。振り返るな。お前は生きるんだ。」
レアズはその言葉を最後に目から光を失った。
赤アリは興味を失ったのか、レアズをムシャムシャと貪り始める。
フォルは悔しさから涙が出てくるのを抑えられなかった。
赤アリはそれをニヤニヤと笑いながらレアズを貪っていく。
「ちくしょう……畜生っ!!」
フォルは逃げた。
運が良かったのかフォルはアリ達から逃げることに成功する。
上手くアリ達を撒くことができ、無事に村まで辿り着くことができた。
他の皆は帰ってこなかった。




