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【32話】ターゲットとされた


 交流祭当日は快晴であった。


「今日は快晴に恵まれて……」

 催し物恒例の校長の長話を聞き流しながら、私は小さく欠伸をする。

「神前が欠伸をするなんて、珍しいな」

 私の隣に立っている貴弌が普段の私がしない行動を言葉に出す。

「……ちょっと早起きしたからな」

「何時に起きたんだ?」

「三時」

 社長をやっていた頃に慣れ親しんでいた三時間睡眠はゆったりとした学園生活に馴染んだ私の身体には少し酷だったようで、もう一度欠伸が出そうになる。

「……もしかして、本当に弁当を作ってきたのか?」

 そんな事を本当にする訳ではないだろうと言う表情である貴弌を横目に小さく欠伸をすし、返事をする。

「あぁ……」


 事の始まりは昨日の体育の授業であった。

ちょうど体育の授業がその日の最後の授業だった為、その話題が出た。

「神前君、明日もお弁当作るの?」

 騎馬戦の模擬戦を終え、もう少しで終業の時間だったので、みんなで片付けをしていると、士郎が私に話しかけてきた。

「あぁ。それがどうしたんだ?」

「僕達の分も作って!」

 士郎は拝むように両手を合わせ、私に頭を下げる。

最近は四人分も作っている為か、二人分増えたとしても、変わらないと思った。

「別にいいが……」

「本当に!?

 ありがとう!!」

 士郎は私の言葉が終わる前に私の両手を握り、感謝の言葉を言う。

以前話した時も思っていたが、士郎は自分の思いをそのまま言葉にしているな。

そのせいで言葉が足りず、相手に伝わっていないことがある。

それを伝えるのは……。

「士郎、神前君が困っているよ」

 弟の治郎の役目である。

「だって~」

「早く離さないと、痛い目に合うよ」

 そう言って、治郎はチラッと百衣と神矢を見る。

士郎の視線もそちらに向かったと思ったら、私の手を握っていた手を素早く隠した。

一体、何があったのだろう?

「神前君は気にしなくていいことだよ。

 士郎が君にお弁当を頼んだのはね、学園(ここ)、飲食関係に五月蝿くてさ。

 決められた時間内に食べないといけないんだ。

 昼食は昼休みの時に食べる。その時間外の昼食と思われる飲食は厳禁。

 交流祭とかの行事の時って、食堂も購買も混んでいて、昼休み時間内に食べれれば、いい方。

 最悪の場合、昼食がとれないんだ」

 そうだったのか。それは初耳だな。

今まで食堂や購買を利用することがなかったからな。

「そうだったのか。

 私でよければ、喜んで作らせてもらうよ」

「あ、俺のも作ってくれないかな?」

 そう手を上げたのは仙崎。

「あぁ、別にいいぞ」

 私がそう答えると、「オレも」「僕も」と次々とSクラスの生徒が私の所に来る。

最終的にはSクラスの全員の弁当を作る事になった。

まぁ、日頃からお世話になっているから、これぐらいはしないとな。

十人分なら、今日中におかずを作れば、五時起きでも大丈夫だろう。

そう考えていた私に神矢が衝撃的な一言を言った。

「俺のも作れ」

「は?」

 ……はっ、無意識の内に神矢にあからさまに不機嫌な表情で対応してしまった。

十人分作るだけでも重労働なのになぜ、私が他クラスの神矢の弁当まで作らなくてはいけないんだ。

「いいだろ。そんだけ作るんなら、一人増えてもいいだろ」

「てめーにやる弁当なんてねぇよ!」

 もっと言え、百衣。神矢が諦めるぐらいに。

「僕も食べてみたいなー、神前君の手作り弁当」

 まさかの海山まで名乗りあげてきた。

海山に対しては百衣は何も言わない。

百衣、海山に弱みでも握られているのか?

海山の言葉を皮切りに「気になる」など、Eクラスの生徒の言葉と視線が私に投げかけられる。

さすがに私でも三十五人分も作るなんて、無理だ。

「さすがに全部作ってもらうのは悪いから、主食は自分達で持ってくるよ。

 だから、おかずはお願いね?」

 海山の笑顔がキラキラしている様に見えるのは私の目の錯覚か?

まぁ、おかずだけならと思い、私は三十五人分のおかずを作る事になった。

 手始めにケルヴィンに連絡し、重箱を用意させ、毬に寮の食堂の調理場を使う許可をもらうようお願いした。

こういう時に知り合いが近くにいるのは便利だなと思った。

それからは日付が変わる前までにおかずの八割を完成させ、翌朝の三時から残りのおかずと忘れる奴がいることを想定して、主食のおにぎり十五人前を作った。

時々、私の様子を見に来てくれるSクラスの生徒に手伝ってもらったおかげで七時半にはおかずも重箱に詰め終わった。

今回は黒屋が大いに頑張ってくれた。

私と同じぐらい競技に出るにも関わらず、私に付き添ってくれたのは本当に感謝しきれない。



「……今日は応援席で観戦している時は寝てな。

 競技中に倒れられたら、大変な騒ぎだからな。

 俺で良ければ、肩ぐらいなら貸す」

「あぁ、ありがとう」

 貴弌との会話の間に校長の話は終わったらしく、壇上には校長がおらず、代わりに体操着を来た青年が立っていた。

色素の薄い茶髪に青い瞳は染めても、カラーコンタクトもしていない、本物だとすぐに分かった。

「ヤッホー☆

 みんなのアイドルのキリアだよっ」

 見た目は海外によくいるの好青年から発せられた言葉に私は絶句する。

私の知り合いなら、まだしも、ここは日本で一応、名門男子校だぞ?

しかし、こういう行事で壇上に上がり、挨拶をするのは……考えたくないが、念の為、貴弌に聞いてみよう。

「貴弌、あれは……」

「……生徒会長だ」

 あれが生徒会長だと?

聞く前に予想していたが、返って来た答えに驚きを隠せない。

「大丈夫だ。あんな生徒会長でも三年の副会長が仕事のできる人だから、生徒会は上手く回っている。

 まぁ、問題はあるけど……」

 いや、あんな奴で問題がない方がおかしいだろ。

後、何故目線を逸らす。私に関する事で何かあるのか?

「ボクの今日の目標はー

 転校生の神前零ちゃんをお姫様抱っこすること!

 みんな、協力してね!」

 生徒会長の言葉に、オーと言う野太い声とキャーと言う黄色い声が聞こえてくる。

名指しで指名された私はどうすればいいんだ?

まぁ、お姫様抱っこぐらい一回や二回した所で何も関係など築けないだろう。

問題は私の周囲の反応だろうか。

貴弌は「あの馬鹿会長、やりやがった……」と落胆している。

百衣と神矢は殺気が出ている。

海山はいつも以上にニコニコしていて、気味が悪い。

黒屋は何も反応していない。珍しいな。

私の視線に気付いたのか、黒屋が私の方を向く。

「どうした?」

「いや、お前が無反応なのが珍しいと思ってな」

「俺が零を抱きかかえていれば、いいだけの話だ」

 ……なんか話が飛んでいないか。

「……黒屋って、時々何を考えているか、分からないな」

 そう小声で呟いていた貴弌の言葉に私は心の中で同意した。



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