6.まじょがなかまからぬけた
あれ?おかしいな。さいしょのまじょがいなくなった。でもあきらめない!あつまったなかまとどこまでもすすんでいこう!
「戸塚がどうかしたんですか?」
小野田編集長はため息交じりにメビウスメンソールをくゆらせる。ビル風は相変わらず熱気に包まれており、避難階段に設置された喫煙所は今日も暑い。
始業点呼を終えても戸塚が事務所に現れることはなく、俺は早々に小野田編集長からこのお誘いだ。
「はぁ……ほんとにねえ。俺、どうしていいか分かんないよ」
もったいぶるような言い方であるが、どうせ大したことではない。
「戸塚君。始業五分前に今日、遅刻します。すみません!ってメッセージだけ来て午前中のウェブ取材、自分もウェブで参加させてくれだってさ、若い子は分かんないよ」
「はあ、まあそうっすよね」
案の定。大した話ではない。退屈な話だな。と思いつつ俺はキャメルの煙を眺めていた。夏の青い空に吸い込まれていくはずの煙はすぐにビル風に流されていく。始業早々のこの喫煙時間もどうかとは思うが。
「そういえば、例の音の絵本どうだった?」
「あぁ、あれですか。記事はとりあえず書けましたけど、とらえどころのないB級ホラーって感じですね」
ありのままの事実だ。一応、記事の体裁にはしたものの正直なところこれがメインコンテンツだ!というほどの刺激はない。気になったのは注意書きと最初の四ページだけがなぜか横書きだったことたが、レイアウトか知育上そうしたかったのかもしれない。
「編集長も読んだんですよね?」
「ああ、読んだよ。でも家でだったから恥ずかしいからこっそり音読したよ。でも、そうかあ。俺は面白いと思ったけど君がイマイチなら微妙かもな」
「まあでも、せっかく書いたんですから見るだけみてくださいよ」
「わかった……と、もういい時間だね。ウェブ取材の準備始めようか」
「そうっすね、じゃあ各自のパソコンでしますか」
キャメルとメビウスメンソールが混じった匂いの喫煙所から事務所に戻り、小野田編集長と俺はそれぞれ自分のデスクのパソコンでウェブ取材の準備を始める。
今日の取材先は学校の七不思議を取材する高校生たちの取材だ。彼らも着眼点が面白かったからあえて違うアプローチを我々がするに至った。我々はオカルトそのものを取材することが通常だ。
高校生がいかに馬鹿げた内容を真面目に取り組んでいるのかを、俺達が追うといった内容で、一風変わったことをしている。
この高校生たちも学校の七不思議そのものを調査するわけではなく、都内の高校に片っ端から連絡して「各学校の七不思議の今」を伝えるという面白い取材をしていたのだ。それのご相伴に預かろうというのが魂胆だ。
取材はつつがなく進んでいたが、時折俺のイヤホンの調子が悪く音声がお互いに聞き取りづらくなっていた。
「それは面白い話でしたね。では次について……あれ? もしもーし? おっかしいなあ、またか。このイヤホン、わりと新しいんだけど、パソコンがダメなのか?」
独り言をもらしながら、俺は小野田編集長のデスクに向かって声を出す。
「編集長すみません。なんかマイクの調子悪いみたいなんで、取材続けてもらっていいですか?」
小野田編集長は俺の声に気付いたようで頭の上で大きく丸をつくる。取材を編集長が続けている間にパソコンを再起動するため、チャットメッセージで一度退出する旨を投げるとすぐに戸塚が「いいね」でリアクションする。再起動の間、俺はふと「おとをみつけるぼうけん」を眺めた。
特に変化のないA五サイズの絵本だ。表紙の少年は音符を持って笑っている。
再びパソコンが起動したことを確認し、ウェブ取材にアクセスすると問題なく再開ができ、なんとか取材を終えることができた。
やれやれ、この調子では思いやられるな。パソコンの取り換え申請を出しておくべきか。俺はそんなふうに考えていた。
「まじょがなかまからぬけた」いかがだったでしょうか。
Web会議も良し悪しですよね。移動時間とかなくなるんですけど、遠方への出張がなくなるはみなさんどうですか?
※最終話まで毎日更新します!夏の蒸し暑さを吹っ飛ばせ!




