5.おれたつるぎ
ああ、たびのはてにつるぎがおれてしまった!でも、ゴールはもくぜんだ!がんばれ!
山形県のさる寺院で即身仏の取材を終えた俺と戸塚は、とんぼ返りで東京まで戻って、しなびたジャズ喫茶にいた。
編集部御用達の店で夜にはジャズライブを週に一度行っている。
「あの和尚さん、なんだか金に目がくらんでる感じでしたねー」
メロンソーダを飲みながら戸塚は取材したボイスレコーダーの録音を確認していた。
「そりゃそうだろ。まともな記事じゃなくて、俺らみたいなオカルトにまで門戸を開くくらいだ。あの仏さんも死んで仏になっても、客寄せパンダになるとは思いもしないだろうよ」
アイスコーヒー片手に俺は今日"特別に"拝謁に預かった即身仏の歴史をまとめる。
「あーあ。でも、一般の人ももっと即身仏とかに興味を持てばいいのにな……ってあれ? え? え? うそ? マジ?」
奇声を上げながら戸塚はイヤホンを外す。
「ちょ、池山さん、ヤバいっすよ! これ、マジヤバいって!」
「なんだよ? いよいよ呪われたか?」
「呪われた方がマシっすよ! ここ閉店するんですって!」
俺の真後ろに貼っていた一枚の貼り紙を指差す。閉店のお知らせ。折からの物価上昇、店主の高齢化に伴い……永らくのご愛顧ありがとうございました。とある。
手に持っていたタバコを落としそうになる。
「マジかよ……」
ちょうどマスターが見計らうように俺たちがかけるテーブル席にやってきた。
「悪いねえ、書いてる通りさ。何でも値上げでね。身体もガタがきたし、そこのアンプももう限界だよ。先週直したばかりなのに今度は違うとこが壊れちまった。潮時ってやつさ」
マスターは力なく笑う。
「俺が店はじめて五十年。もうそりゃ身体も店も、アンプもぼろぼろだよな」
そうか。五十年も経つのか。俺もここに通って四半世紀だ。学生時代から世話になっていたが、そういう店がなくなるのはさみしいものだ。
「おれたつるぎ」いかがだったでしょうか。
好きだったカフェが人知れず閉店していたときはとても悲しかったです。ランチを食べてゆっくりコーヒーを飲みながら読者する。最高の一時でした。
※最終話まで毎日更新します!夏の蒸し暑さを吹っ飛ばせ!




