3.はらがへってはいくさはできぬ
たびのとちゅう、おなかがへったらごはんをたべよう。ひとやすみだってひつようさ!
自宅に帰ると、隣室の売れないドラマーが相変わらずサイレントドラムを熱心に叩いている。いくらサイレントとは言え、安アパートの薄い壁だ。その振動がよく伝わってくる。
夜中まで叩くことはないから俺も我慢してやっているが、これが深夜までやっていたら俺はおそらく乗り込んでぶん殴ってやるだろう。
限定の極太カップラーメンにお湯を注ぐ。ダイニングの小さなテーブルに置き五分間待つ間に、カバンの中から例の絵本を取り出す。
おとをみつけるぼうけん。
改めて何か仕掛けがないか俺はその絵本をくまなくチェックするが、何の変哲もない絵本だ。戸塚が燃やしたくなる気持ちも分からないではない。
最初の注意書きに目をやるが、特に変わったことはない。
おもむろに最初のページをめくった。
とおいとおいおとぎばなし。
ずーっととおくいくにのおはなし。
そんな出始めの話だ。音符をもったとんがり帽子の少年が遠くを見つめるようなイラスト。緑の草原広がる村の門にいる。
二ページ目を見る。
かみさまのとどけてくれたおくりもの。
たくさんなかまをあつめてはじまるせかい。
ひかりをいっぱいうけてたびだとう。
同人絵本らしいよくわからない設定の贈り物などと書いている。何か意味があるのだろうか。たくさん仲間を集めて始まる世界。冒険の途中で仲間と出会うということなのだろう。
光を浴びる。要はこの男の子は勇者的な立ち位置なのか。
三ページ目。
どうくつやもりやかわをこえてたんけんだ。
おとをあつめる。みんなのために。
かなしいこと、つらいことものりこえて。
ほぼ察する内容の通りなのかもしれない。洞窟や森、川を越えて探検ということはやはり音を探すために、冒険をする勇者といったところか。むしろ、国家樹立のための仲間集めと言う趣旨かもしれない。
悲しいことや辛いことは何か別れなどを表現しているということか。
四ページ目。
さあしんろはどっちだ。
げんきにすすもう、おとのぼうけん。
そして締めに進路はどっちだ?元気に進もう音の冒険としていた。五ページ目は何を意識したのか、完全な余白だ。
ページを読み進めていくと概ねこの四ページに描かれていたことが概要で、音に関連する友達や仲間を集めて平和で楽しい国を作りました。というところで物語は終わっていた。
唯一不思議な点と言えばこの四ページ目までが横書きの文字であとは終始ページにあわせて縦書きだったこと、そして最後のページにはひたすら「おと」という文字で埋め尽くされていたこと以外、別に変わったところはない。
意図がわからないのはある意味ホラーだが、もちろん、俺の体に変わったことはない。カップラーメンが出来上がるまでに俺はこの絵本を読了してしまった。
タイマーが五分を切る直前に止めた。
俺は晩飯にありつく。
血圧が上がっても夜に食べるカップラーメンはうまい。俺は行儀の悪い音を立てながら汁まで飲み干していた。いつの間にか二十二時五分を過ぎており、隣室のドラマーもいつものように練習が終わったようだ。
俺は万年床にごろんと転がり、眠りについていた。
「はらがへってはいくさはできぬ」いかがだったでしょうか。
私はお高めのカップ麺はあまり食べません。シンプルにカップヌードルが好きなのですが、5分も待てません笑
※一日二話更新!最終話まで毎日更新します!夏の蒸し暑さを吹っ飛ばせ!




