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おとをみつけるぼうけん  作者: 津山 みかり
2/8

2.なかまはまじょ

ぼうけんがはじまった。まじょがなかまになった!

ながーいつめのかのじょは、どんなことがあってもわらいとばすぞ!

 編集部の打ち合わせブースでブラックの缶コーヒーを飲みながら、俺はノートパソコンを開く。

「で、小野田編集長から聞いたけど、どんな絵本なんだよ?」

「早速それっすか。フェスの話も聞いてほしかったっすけど、まあいいっすよ」

 今どきの若者らしく髪の毛を赤っぽい色と茶色っぽいツートンカラーに染めた戸塚沙織とつかさおりが「KYOTO SAKUSEN」というロゴの書かれた黒いトートバッグから、A五サイズと少し小さいが、絵本らしい材質の本を取り出した。

 デスク越しに手渡された絵本に何か違和感を覚えるでもなく、それ相応の質量といったところだ。


 おとをみつけるぼうけん。


 水色の表紙に独特なフォント。と言うよりかは手書きだろう。イラストは男の子が一人、ト音記号というのだろうか。大きな音符を持って笑っている。背表紙も裏面も同じ色合いでごくシンプルな作り。


 同人絵本のためか初版や重版といった情報はなく、発行年が今から三十年前ということと、作者の名前だけが漢字にルビが平仮名で記載されているだけだ。


 音無ひろう(おとなしひろう)


 皮肉な名前だ。作者の情報はこれ以外全くなかった。音を見つける話を書く人間が音の無い名前とは。

「呪いの絵本ねえ」

「でも、これなかなか面白いっすよ」

 戸塚は人を殺せそうな長いつけ爪で、その絵本のページをめくる。

「最初に注意書きあるんすよ」

 少し強めの香水の香りだ。今日は合コンか男と会う約束でもしているのか。やけに強い香りだ。

 中表紙をはさんで、白いページに漢字で父母向けのメッセージがあった。


 おかあさん、おとうさんへ。

 この絵本えほんむときはこえしてんでください。

 こころにおとひと

 をつけてきちんとこえしましょう。


「ね? これだけでもホラーっぽくないっすか?」

 戸塚はお構いなしにページ次々とめくっていく。そして、最後のページの前で手を止める。

「ここからが、もう二流ホラーって感じで最高っすよ」

 物語はここで幕切れしていた。


 内容をまだきちんと読んでいないが、結びには世界はたくさんの音の仲間であふれて幸せに暮らしています。とあった。

 もったいぶっていた戸塚がページをめくる。











 おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。おと。






 最後の一ページだけが見開き全てを使って小さな「おと」という文字だけで埋め尽くされていた。


「ホラー感はあるが確かにこりゃあB級だな」

「このいかにも頑張ってホラー感を出そうとしてるのがいいんじゃないっすか」

 やっつけ仕事のような内容であくびが出る。これをどううまく編集して記事にするか。それが俺のミッションだ。

「で、結果はどうだったよ?」

 スマホで記事を探しながら戸塚は耳元の大きな輪っかのピアスを横に揺らす。

「ぜーんぜん。なーんにも起こりませんでしたし、今日もこの通り好調っす。五回読んでも、声に出して読んでも、声に出さなくても、なーにもありませんっす!」

 細腕でガッツポーズをして健在を示す。


「だろうなあ。俺も半年に一回くらいは心霊スポットとか行くけど何にもねぇもん」

 因果なものだが、こういった仕事をしていても、そういう現象に巡り合うことはまずない。

 当たり前である。もし、そんな奇妙な現象ばかりが起きていたら世間はもっと騒ぐ。

 今の時代、科学の発展により怪異やホラーは遠くなった。むしろ、人類がその不明なものを次々と明らかにしその恐怖を切り離していった。

 幽霊の正体見たるや枯れ尾花。まさしく蓋を空けてみればどうということはないものだ。

 怖いと思うからその心理を増強する夜や闇に恐れを抱く。人間の恐怖には種類があるが、ことホラーに限っては「正体不明がゆえに恐ろしい」という典型的な心理現象からなるのだ。


「アタシもあまりにも何もないから燃やしてみたら、何か出るのかと思ってコンロにかけようとしましたもん」

「おいおい、一応俺も読むこと前提に買ってるのに読む前に燃やすなよ」

 戸塚はなんでも燃やしたがるきらいがある。過去に経費で買った呪いの人形を火あぶりにした前科がある。

 あのときはさすがの俺もビビった。まるでキリストの磔のようにしたが結局は何も起こらなかった。

 いや、厳密に言えば備品扱いの人形を焦がして経理からこっぴどく叱られはしたが。

「ま、とりあえずこれは俺が今日読んでみるよ。お前は例のオーパーツの件、まとめといてくれ」

「はーい」


 何のことはない。ただのくだらないホラー記事を書くだけの仕事のはずだった。それだけのはずだったのだ。

「なかまはまじょ」いかがだったでしょうか。

ネイルアートしている方はそらを見て「かわいい!今日も頑張ろう!」となるそうです。自分で自分を鼓舞するためだそうです。勉強になります。


※一日二話更新!最終話まで毎日更新します!夏の蒸し暑さを吹っ飛ばせ!

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