1.ぼうけんのはじまり
夏のホラー2026の題材が「音」に関するものでしたので、書いてみました。一気読みできるように短めのお話にしていますので、少しひんやりしたい方はぜひ、読んでもらえると嬉しいです。
ぼうけんのしょがひらかれた!それはおとをさがすゆうかんなしょうねんのものがたり!
この世には数多の怪談話がある。
古くから親しまれる妖怪や、口裂け女などの都市伝説。果てはネット発祥の怪異までいる現代。
今やオカルト雑誌なんて売れるわけもなく、俺は二流、いや三流のオカルト記者として爪に火を灯すような生活をしている。
「おーい、池山くん。ちょっと来てくれ」
小野田福也編集長がデスクでタバコを手にしながら、俺を手招く。
「うーい」
面倒くさい案件なら断りたいが、そもそも仕事がそこまでない俺たちにとっては有象無象のネタをオカルトっぽく仕上げることも大切だ。
「何用でしょう……か? と」
同じようにキャメルとライターを手に取り、席を立ち眼鏡を額にかけた小野田編集長の元へと向かう。
「小野田編集長殿、行きますか? 一服」
壁にかかった時計に目をやる。十五時を過ぎて少し。一息いれるには悪くない頃合いだ。
「そうだな、煙吐きながら話しようか」
雑居ビル非常階段設置の喫煙所へと出る。高層ビル群の影に埋もれ、日陰者の俺たちはいつも日陰でコソコソするしかない。
屋外の喫煙所は日陰とは言えこの真夏だ。暑くないわけがない。むしろ、ビル群の室外機や排気の熱風などで余計に熱波を感じる。
消火用のバケツが一つだけ置かれている踊り場で、俺と小野田編集長がそれぞれ自分のタバコに火を灯す。
「しっかし、本当に喫煙者の人権ってなくなったよなあ」
メビウスメンソールの先端からは煙とメンソール特有のミントの香りがする。俺もキャメルをくわえる。
「いや、マジそれですよね。高額納税者に対して真夏のクソ暑い場所でひどい仕打ちですよ。で、何のご用事ですか?」
「ん、そうそう。これこれ、興味ない? 次の企画でさ」
小野田編集長は思い出したようにスマホを操作して、俺にその画面を見せる。一瞬見えた待受画面はいつもの通り、売れないグラビアアイドルだ。何がいいのかさっぱりわからない。
ブラックの缶コーヒーを飲みながらブラウザの検索される文字を追う。
おとをみつけるぼうけんーー
パッと検索された画面に青っぽい表紙で独特なフォントでタイトルである「おとをみつけるぼうけん」と書かれている。子ども向けの絵本か。
「音を見つける冒険……何ですか? これ」
「いやさ、やっぱりウチの誌ってもともとはホラー発祥じゃん? なのに最近、UFOだのUMAだのにうつつをぬかしててさ、ここにドカンとホラーをぶち込みたいわけよ」
始まった。小野田編集長の悪い癖だ。こりゃあ面倒くさい案件を釣ってしまった。この人はたしかにオカルト好きであるが、ことホラーに限っては目がない。国内外の心霊現象スポットなどに足繁く通い年に一度特集まで組むほどの入れ込みようだ。
「これ、同人の絵本でさ、ずいぶん昔に出たらしいんだけど、いわく付きの絵本でさ」
人形や絵画ならまだしも絵本にいわくなんてあるのか?
「なんですか? そのいわくって」
メビウスメンソールを消火用のバケツに先端だけ突っ込み鎮火し、携帯灰皿に押し込む。
「読んだら死ぬ。っていうよくある内容なんだけどさ、信憑性があるようでないんだよね」
そりゃそうだろう。そんな呪いの絵本なんてあるわけないし、眉唾にも程がある。
「呪いのビデオも人形もそういう類ですからねえ。もしマジなら俺ら、もう何回も死んでますよ」
「あははは! そうだよな。俺なんてたぶんもう百回死んでても足りないくらいだもんな」
スマホ片手に編集長は笑う。ビルの谷間からは相変わらず生暖かい風が吹き抜けていく。
「はあ、メルカリかヤフオクで買うと?」
「いやいや。もう実は戸塚くんに頼んで手に入れちゃったんだよね」
「戸塚が? 確かにアイツなら珍品集め得意ですね」
「そ。で、君らの仕事はその検証と執筆ってわけだ」
なるほど。いつも通り、池山弘樹は人柱というわけだ。
缶コーヒーを飲み干す。缶ゴミ箱へ放り投げる。スチール缶はカランという音を立て、俺と小野田編集長は事務所へと戻った。
「ぼうけんのはじまり」いかがだったでしょうか。
皆さんタバコを吸われますか?私は吸いません。喫煙者にとって最近は肩身が狭い時代になりましたね。
※一日二話更新!最終話まで毎日更新します!夏の蒸し暑さを吹っ飛ばせ!




