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蠱毒の後宮妃~風変わりな異端妃は偏屈皇子と謎を解く~  作者: 及川 桜@『後宮の料理妃2』発売
第七章 皇位継承権

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猫鬼の鳴く夜


 次の日も、そのまた次の日も、楊胤は仙霞の棟を訪れた。……包子を食べに。


(俺はいったい、なにをしている)


 仙霞の作る包子は、毎回具材が変えられていて、飽きることがない。口に運ぶたび、新鮮な驚きがあるのだ。


 今夜の包子は、皮によもぎを練り込んだ淡い緑色。中には豚ひき肉に加え、海老やイカなどの海鮮が入っていた。芳醇な旨味がじわりと広がり、あとから蓬の香りがすっと抜けて、口の中をさっぱりと整えてくれる。


(美味すぎる。仙霞にこんな才能があったとは)


 無言で頬張りながら、多幸感にひたる。


(まさか俺が、こんな風変わりな女に胃袋を掴まれるとはな)


 料理というものはおそろしい。


仙霞のずれた言動も、不思議と気にならなくなってしまうのだから。


「今度は、いつ書庫に行くのですか?」


 そわそわした様子で仙霞がたずねる。


「公務が忙しいから、なかなか時間を取れぬ。……代わりに本を持ってこよう」


 その言葉に、仙霞の目がぱっと輝いた。


 うっかりかわいいと思ってしまった気持ちを押し殺す。


「ありがとうございます。これで日中、女官たちに変な目で見られずに済みます」


 楊胤は思わず横目で仙霞を見やる。


「……日中は、なにをしているのだ?」


聞かない方がいいような気がしたが、知りたい欲に負けた。


「はい、死んだ虫を集めて解剖し、体の部位ごとに標本にしております」


 仙霞は白い頬を上気させ、嬉々とした表情で答える。


 ……やはり聞くのではなかった。


「至急、本を持ってこさせよう」


 明日の朝には届けねばと楊胤は思う。


「では、できれば人体解剖図鑑などありますとうれしいです」


 楊胤は半眼になった。仙霞のずれた言動はかわいく思えてきたが、この趣味ばかりはどうしても理解できない。


 そのとき、闇に溶けた壁の隙間から、猫鬼がぬっと姿を現した。


『なゃあ』


 妙に含みのある鳴き声。


「どうしたの、猫鬼」


 仙霞が抱き上げようとすると、猫鬼はするりとかわし、外を見つめる。


 次の瞬間、それまで静まり返っていた外が騒がしくなり、暗闇のあちこちに篝火が灯り始めた。


「何事だ?」


 楊胤の顔が険しくなる。明らかに、ただ事ではない。


「様子を見てくる」


 仙霞の顔には不安が滲んでいた。猫鬼がこの瞬間に現れたことに、なにか意味があるのかもしれない。


 嫌な胸騒ぎを覚えながら、楊胤は仙霞を残し、宮廷へと急いだ。



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