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ニーズホックとグリム

その背徳的な宴が終わり、



森には再び不穏な静寂が訪れた。


しかし、イレイナたち強大な力が去ったことでモンスターたちの警戒心は薄れ、再び獲物を求めて動き出す。



あっという間にモンスターに包囲された明智たち三人。




だが、かつての恐怖は少しやわらいでいた。




イレイナの体液を浴びたことで、彼らの体内では魔力が暴走に近い形で活性化していた。



「……勝てる。俺たち、いけるぞ!」



阿久田が雄叫びを上げ、モンスターを切り伏せる。


その力は、以前とは比べ物にならない。


だが、彼らは致命的な勘違いをしていた。


その力は「彼ら自身のもの」ではなく、イレイナから零れ落ちた魔力による力に過ぎなかったのだ。




「間違いない……。あの魔女に取り入って、アレを……『あれ』をさせてもらえば、俺たちは神にだってなれるんだ」




明智の歪んだ瞳に、下劣な野心が宿る。


阿久田もそれに同調する。



華は言葉こそ発さないが、脳裏には先程の平正夫の肉棒が焼き付いて離れない。


自分も平の肉棒を咥えれば、彼を凌駕する力を手に入れられるのだと、狂った妄想に耽っていた。








イレイナ一行が辿り着いた共和国ガイアは、既に死に絶えていた。



かつての緑豊かな大地は魔王軍に蹂躙され、七魔天の「翼竜ニーズホック」と「巨大トロールのグリム」という二大怪物が好き勝手に荒らした末の瓦礫の山と化していた。




「随分と酷い荒れようね。趣味が悪いわ」





イレイナは平然と瓦礫の上に座り込むと、アクアに命じてモンスターを狩らせた。




イレイナは、魔王軍の幹部であるはずのアクアや、本来兇悪なはずのサキュバスのフレアを、まるで使い走りのように扱う。




敵陣のど真ん中で、堂々と戦利品の肉を焼き、優雅に食事を楽しむ一行。




その余裕こそが、彼らと他者の決定的格差であった。




数時間の後、魔女の魔力を求めて愚かにもガイアの地に足を踏み入れた明智たちは、運悪くニーズホックの縄張りに直行していた。




「ぎゃああああっ!」





眠りを妨げられた巨大龍ニーズホックが、怒り狂って空から急降下する。




三人の勇者ごっこなど、一瞬で踏み潰されるはずだった。





だが、その瞬間。




「……あら、またゴミが追いかけてきたのね」




イレイナの呟きとともに、世界が変わった。




アクアが魔法で空中の巨大龍を拘束し、動きを止める。


その隙を逃さず、平正夫が龍の頭部に跳躍した。



彼が軽く触れると、ニーズホックの頭部は音もなく粒子となり、灰へと変わる。



さらに背後から襲いかかってきたグリムとトロールの軍勢。



フレアが妖艶な指先を鳴らすと、全軍が魅了され、トロールたちが目をハートにして立ち尽くす。



トロールの頭上に平が躍り込み、その巨体も一瞬で塵となった。



最後にイレイナが軽く杖を振るうと、魅了された軍勢に雷が振り注ぎ、一瞬で全滅した。




圧倒的な蹂躙。




明智たちは、戦慄で足がすくみ、呼吸することすら忘れていた。




「帰れと言ったはずよね? 自分の身の程を弁えない者は、死ぬよりも惨めになるわよ」




イレイナが視線を向けるだけで、三人には万力の重圧がのしかかる。



阿久田と明智は、理屈ではない本能的な恐怖に屈したが、明智は勇気を振り絞りその場に土下座した。




「お、お願いします……! 俺たちにも、貴方の魔力を……! 強くなるためなら、何でもします!!」






「泣いて懇願すれば叶うとでも? 無理よ」



イレイナは冷笑する。



「あなたたちには資質がない。努力する根性もない。ただ他力本願で、仲間を見捨てて生きてきただけ。平が強くなったのは、彼が元来持っていた資質と、地獄のような努力の積み重ね。あなたたちとは、最初から人間としてのランクが違うのよ」




「そんな……っ!」




愕然する明智にイレイナが告げる。



「見なさい。これが、あなたたちが嘲笑い続けた『ガラクタ』の真髄よ」




イレイナの合図で

平正夫が、灰になったニーズホックとグリムの残骸に触れた。



ニーズホックは、失った部位を再構築され、平に絶対服従する巨大ペットとして蘇った。



グリムは、その強靭な膂力を残したまま、華奢で愛らしい人間の少女の姿へと作り変えられた。




唖然とする阿久田たちにイレイナは告げる。




「どんなスキルも、神の域まで磨けば『創造』すら可能になる。傲慢で無知な人間は、ただ死ぬのを待つだけ」




イレイナ達はペット化したニーズホックの背に乗り、空へと舞い上がる。




その圧倒的な力、そして神に等しい平の姿を前に、明智と阿久田はただ呆然と立ち尽くし見上げるしかなかった。





だが、華だけは違った。




彼女は、魔女たちの背中を追い、ニーズホックの尾に飛びついた。 


恐怖で震えながらも、あの男の隣にいたい、あの男の力を、その体温をこの肌に刻みたいという、歪な執着だけが彼女を突き動かしていた。




風を切る龍の背で、イレイナは面白そうに華を見下ろす。



取り残された二人のアホ面は、死よりも深い絶望の中にただ、取り残された。



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