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ガラクタの使い方

スラム王国の外壁を一歩出た瞬間、クラスメイトたちは高揚感に包まれていた。



道中に現れたのは、レベルの低いスライムやゴブリンの群れだった。


阿久田が力任せに殴り飛ばし、華が後方から光弾を放つ。それだけで敵は霧散する。



「なーんだ、魔王討伐ってこんなもんかよ」


「レベル上げ、最高! 私、どんどん強くなってる気がする!」




彼らは自分たちの「強さ」に酔いしれていた。


異世界召喚された人間は、この星の恩恵によるバフがかかっているため、初期状態でもこの国の一般兵よりは遥かに高スペックだったのだ。




しかし、その慢心は「嘆きの森」に入った瞬間に崩れ去った。



「……なんか、空気重くねえか?」 



森の奥へ進むほど、モンスターの質が激変した。



木陰から現れたのは、阿久田が倒してきたような雑魚ではない。鋼鉄のような外皮を持つ大狼ウルフや、魔法を弾く森のオークたちだった。




「ひ、ひぃっ! 来るな、来るなっ!」




一人、また一人と噛み砕かれる。


悲鳴が森に木霊し、連携など微塵もない彼らは、あっという間に窮地に追い込まれた。



「くそっ、俺は死にたくないんだよ!」




明智が叫ぶ。



彼は仲間を見捨て、真っ先に踵を返した。


それに続くように、華も、他のクラスメイトたちも、戦うことすら放棄してスラム王国へと逃げ帰った。




玉座の間に戻ってきたのは、無様に泥に汚れた勇者一行だった。



スラム国王は、彼らを見ても驚きもしなかった。


ただ、深い深い溜息をつくだけだった。



「……またダメだったか。やはり、子供たちに期待したのが間違いだったか」




王の呟きには、怒りすらなかった。



ただ、国が滅ぶ運命を受け入れたような絶望だけがあった。



「んなこと聞いてねえよ! こんなにヤバいモンスターがいるなんて、説明がねえだろ!」



阿久田は森での恐怖を隠すかのように、吠える。



そして、自分の弱さを認めたくない彼らは、八つ当たりに他のクラスメイトを殴り始めた。



玉座の間に響くのは、泥酔したような勇者たちの醜い怒声だけだった。





その光景を、魔女の隠れ家で水晶玉越しに眺めていたイレイナは、腹を抱えて笑い転げた。




「あははははっ! 見なさい、平正夫。これが『勇者様』たちの末路よ。滑稽でしょう?」




彼女は涙を拭いながら、僕に向かって冷ややかな視線を向けた。




「いい、平正夫。人間とモンスターでは、絶対的な力の『階級』が違うの。彼らはただ、星のバフ(補正)で少し強いだけ。魔王の力を100とするなら、あんな森のモンスターでも平均レベルは10。……ちなみに、今の私は80ってところね。あのアホどもは、レベル1の初心者同然。無謀というより、死に急ぎよ」




イレイナは僕の前に立ち、真剣な眼差しで言い放った。




「あなたには、そんな泥遊びはさせないわ。あなたのスキル『ガラクタ』は、触れた対象の定義を書き換え、粉々に分解する。……対象に触れさえすれば、それは理屈の上で最強の武器になる」




最強。その言葉に、僕は背筋が凍るような重みを感じた。



「魔王クラスになると、動きが速すぎて触れることさえ至難の業になるわ。だから訓練が必要なのよ。……さあ、実践よ」




イレイナが指先で空中に魔法陣を描くと、隠れ家の庭に次々と獰猛な森のモンスターたちが召喚された。




「ひ、ひぃ……!」



 僕が怯んでいると、イレイナは冷たく言い放つ。



「逃げても意味はないわよ。私があなたを死なせない。だから、あの子たちをその手で『解体』してきなさい。一匹ずつ、手で触れて、念じるだけよ。『消えろ』とね」




イレイナが魔物へ向かって僕を突き飛ばした。




目の前には、牙をむき出しにして襲いかかる魔獣。僕は震える手を出し、獣の毛皮に触れた。




「……念じなさい。その怪物を、ガラクタに変えるように」





 僕は叫んだ。

 ――消えて。




その瞬間、獣は抵抗する間もなく、まるでガラス細工が砕け散るように、音もなく粉塵となって消滅した。



 指先には、何も残っていない。



 この力が、僕の力だなんて。





「……あら、飲み込みが早いじゃない。神様らしくなってきたわね」




イレイナは愉快そうに、しかしどこか獲物を飼いならすような瞳で、次の獲物を僕の前に放り投げた。




平の修行の日々が始まった。

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