同じ敵、違う場所
白い空間が、ゆっくりと形を変える。
床が沈み、壁が伸びる。
いつもの転送前の演出。
「それでは次のステージに移行します!」
リィナの声。
少しだけ早口。
「今回は“中盤想定”の構成になってますので――」
――ピキ。
空間の端に、ひび。
「……まだ直ってないんだ」
「だ、大丈夫です!!」
被せ気味に言う。
「軽微なズレです!!」
――軽微。
「外、増えてたけど」
「気のせいです!!」
食い気味だった。
――まあいいか。
「で、敵は?」
「はい! 今回は――」
一拍。
「“数で押してくるタイプ”です!」
説明と同時に。
空間が、開く。
黒い影が、いくつも地面に落ちる。
ドサ、ドサ、と。
「……多いね」
「チュートリアル的には普通です!」
言い切る。
そのとき。
影の一体が、ゆっくり立ち上がる。
見た目は、普通の魔物。
小型。武器も単純。
――でも。
「……ん?」
違和感。
数を、数える。
「一、二、三……」
五体。
見えているのは、五体。
なのに。
――ドンッ。
空気が、揺れた。
「……今、六回目じゃなかった?」
「え?」
リィナが固まる。
「いや、今……」
もう一度、動きを見る。
敵が踏み込む。
――ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。
五歩。
そして。
――ドッ。
見えない“六歩目”。
「……ああ」
納得した。
「さっきのやつだ」
「……さっき?」
リィナが首をかしげる。
「外にいた」
「は???」
素で変な声が出る。
「いや、あの、それはありえません!!」
「でも同じだよ」
剣を軽く構える。
「数が合わないやつ」
「そんな仕様ありません!!」
強めに否定。
「チュートリアルは全部“正確に設計”されてます!!」
――へえ。
「じゃあバグだね」
「バグじゃないです!!」
即答。
そして。
「……たぶん」
少し小さくなる。
そのとき。
敵が一斉に動く。
五体が突っ込んでくる。
――ドドドドド。
その奥で。
もう一つ。
見えない何かが、同時に動く。
――ドッ。
「はい、六体」
軽く前に出る。
振る。
――ザンッ。
一体目、斬る。
そのまま流れるように。
――ザザンッ。
二体、三体。
普通に処理。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
リィナが慌てる。
「そこ、“もう一体”いますよね!?」
「いるね」
「見えてないですよね!?」
「見えてないね」
問題ない。
――スッ。
何もない空間に、剣を置く。
そのまま、引く。
――ザン。
手応え。
空中で、何かが裂ける。
「……ほら」
「えっ」
何もない場所に、黒い歪み。
遅れて、形になる。
「え、え、え……?」
リィナが完全に混乱している。
「なんで当たるんですか!?!?」
「タイミング同じだから」
「いや意味がわかりません!!」
だろうね。
「五体と同じ動きしてるでしょ」
「してません!!」
「してるよ」
最後の一体も、普通に斬る。
――ザンッ。
全滅。
静寂。
「……終わり」
剣を下ろす。
リィナは、しばらく固まっていた。
「……」
「……」
「……えっと」
ゆっくり口を開く。
「今の、見えてたんですか?」
「見えてない」
「じゃあなんで斬れたんですか!?」
「慣れ」
短く答える。
「繰り返してると、ズレもそのまま覚えるから」
リィナの顔が、引きつる。
「……それ、チュートリアルの範囲外です」
「そう?」
「そうです!!」
強く言い切る。
そのとき。
――ピキ。
また、ひび。
さっきより、はっきり。
「……やっぱり影響出てる」
リィナが小さく呟く。
「外で発生した異常が、中にまで……」
「リンクしてるってこと?」
「本来は、しません」
一拍。
「絶対に」
言い切る。
でも。
現実は、違う。
「……でも、してます」
認めた。
そのとき。
空間の奥で。
何かが、“生成”される。
今までとは違う、重い気配。
「……あ」
リィナの顔色が変わる。
「これ……」
嫌な予感。
「最終フェーズ用の……」
一歩、後ずさる。
「なんで今出るんですか……!?」




