本来、最後に出るやつ
空間の奥。
黒い“塊”が、ゆっくりと形を持つ。
――ミシ、ミシ……。
「……あれ」
リィナの声が、明らかに弱い。
「それ、何?」
「……最終フェーズ用です」
小さく言う。
「チュートリアルの、一番最後に出る敵です……」
――へえ。
「強いの?」
「強いとかじゃないです!!」
即答。
「“勝てない前提”なんです!!」
ああ、なるほど。
「逃げるやつ?」
「そうです!!」
少し安心した顔になる。
「本来は、ここで案内に従って離脱して――」
――ドン。
黒い塊が、地面に落ちる。
重い音。
形が、定まる。
腕。
脚。
歪な、人型。
そして。
“遅い”。
明らかに、動きが鈍い。
「……なんか、弱そう」
「弱くないです!!」
食い気味。
「その判断が一番危ないです!!」
必死だ。
「いいですか! これは戦う敵じゃなくて――」
――ズレた。
「……え?」
一瞬。
敵の“位置”が、ブレた。
その直後。
――ドンッ!!
衝撃。
何もない場所で、地面がえぐれる。
「っ……!」
リィナが息を呑む。
「今の……!」
「うん、ズレてるね」
普通に言う。
「これ、さっきのと同じだ」
「同じじゃないです!!」
即否定。
でも。
目は、否定していない。
「最終フェーズの敵に、“そんな挙動”はありません……!」
つまり。
「混ざってる?」
リィナが固まる。
「……はい」
小さく、認めた。
「外の異常と……チュートリアルの最終個体が……」
一拍。
「“合わさってます”」
――ああ。
「じゃあ、ちょっと面倒か」
「“ちょっと”じゃないです!!」
叫ぶ。
「最悪です!!」
そのとき。
敵が、動く。
ゆっくりと腕を振り上げる。
遅い。
だが。
――ドンッ!!
振り下ろされる“前”に、衝撃が来る。
「……あー」
理解した。
「タイミング前倒しだ」
「そんな軽く言わないでください!!」
半泣きだ。
でも。
動きは単純。
「じゃあ、ズラすか」
前に出る。
あえて、一拍遅らせる。
敵の“ズレ”に合わせて。
――ドンッ。
衝撃が来る。
その“後”に。
踏み込む。
――ザンッ。
腕を、斬る。
黒いものが、歪む。
「……当たるんですかそれ!?」
「ズレてるなら、合わせればいいだけでしょ」
「簡単に言いますね!?」
まあ、慣れだし。
敵が、もう一度動く。
今度は、位置がブレる。
左右に、わずかに。
――スッ。
「そこじゃない」
一歩ずらす。
“さっきズレた方向”とは逆に。
――ザンッ。
胴体を斬る。
黒い体が、大きく歪む。
「なんで読めるんですか!?」
「同じパターンだから」
「違います!! それはチュートリアルの挙動じゃ――」
言いかけて、止まる。
「……あ」
気づいた。
「チュートリアルの動きに、“外のズレ”が乗ってる……?」
「たぶん」
適当。
でも、当たってる。
そのとき。
――ピキ、ピキッ。
ひびが、広がる。
空間全体に。
「……まずい」
リィナが、明確に言う。
「このままだと、“最終処理”まで飛びます」
「最終処理?」
「チュートリアルの強制終了です」
――へえ。
「じゃあそれでいいんじゃない?」
「よくないです!!」
即否定。
「今それが起きたら、“途中報酬の整合性”が取れません!!」
「整合性」
「つまり!!」
一拍。
「今までの報酬、消える可能性あります!!」
――それは困る。
「じゃあ、さっさと終わらせるか」
剣を構える。
敵は、まだ動いている。
ズレながら。
歪みながら。
「待ってください!!」
リィナが叫ぶ。
「今の状態で倒すと、“次がさらにおかしく”――」
――ザンッ。
言い終わる前に、踏み込む。
ズレ。
タイミング。
全部、合わせる。
――ザン、ザン、ザン。
連続で斬る。
黒い体が、崩れる。
「ちょ、ちょっとおおおおお!!」
リィナの悲鳴。
その中で。
最後に、一閃。
――ザンッ。
完全に、断つ。
静寂。
「……終わり」
剣を下ろす。
数秒。
何も起きない。
「……あれ?」
リィナが呟く。
その直後。
――ピキッ。
今までで、一番大きな音。
空間のひびが、一気に広がる。
「……あ」
嫌な予感。
「これ」
リィナの顔が青ざめる。
「“報酬処理”が――」




