音の鳴る方へ
――キィィィィィ……
「……っ」
耳鳴りみたいな音が、空気を震わせる。
「なんだ……?」
誰かが周囲を見回す。
だが。
「どこからだ……?」
わからない。
方向が、掴めない。
そのとき。
――スッ。
「……え?」
目の前に、影が立っていた。
いつの間に。
――ザシュ。
「がっ……!」
血が飛ぶ。
「ど、どこから出てきた!?」
さっきまで、いなかったはずだ。
「音の方向だ!!」
誰かが叫ぶ。
「そっちにいる!!」
全員が振り向く。
だが。
そこには、何もいない。
――キィィィィィ……
音は、そこから鳴っているのに。
「……違う」
低い声。
銀髪の女だった。
「音を追うな」
一歩、踏み出す。
「位置が、ズレてる」
「は……?」
意味がわからない。
だが。
次の瞬間。
――スッ。
音とは“逆方向”。
そこに、影。
「そこか」
迷いなく、振るう。
――ザンッ。
手応え。
黒いものが、裂ける。
「……当たった?」
周囲が息を呑む。
だが。
――キィィィィィ!!
音が、背後で鳴る。
「まだいるぞ!!」
振り返る。
だが。
いない。
「なんなんだよ……!」
混乱が広がる。
「見えてるのに……位置が違う……!」
理解が追いつかない。
そのとき。
「……鳴いてる場所に、いない」
誰かが呟く。
「じゃあどこにいるんだよ!!」
答えはない。
ただ。
銀髪の女だけは、視線を動かさない。
「……一瞬だけ、静かになる」
「は?」
「音が、切れる瞬間がある」
集中する。
――キィィィィ……
高音。
その中に。
一瞬だけ。
――無音。
「……今」
踏み込む。
音が“消えた場所”。
そこに、剣を置くように振る。
――ザンッ。
今度は、確かな手応え。
黒い影が、歪む。
「……そういうこと」
小さく呟く。
「鳴いてる場所が偽物」
そして。
「静かな場所が、本体」
ようやく、全員が理解する。
「……そんなの、わかるかよ……」
誰かが笑う。
乾いた笑い。
そのとき。
――キィィィィィィィ!!
音が、増えた。
「……え」
二つ。
三つ。
同じ音。
同じズレ。
「……嘘でしょ」
銀髪の女が、わずかに目を細める。
「増えてる」
それは、確信だった。
*
白い空間。
「じゃあ次いきますね!」
リィナが言う。
いつも通り。
「今回は少し難易度が――」
「外、増えてるね」
「……え?」
一瞬、止まる。
「い、いえ! そんなこと――」
「さっきのやつ、分裂した?」
リィナの顔が固まる。
「……なんで、わかるんですか」
「なんとなく」
少しだけ考える。
「倒し方、悪かった?」
「悪いです!!」
即答だった。
「イベントを飛ばすと、そうなります!!」
――やっぱりか。
「じゃあ次は、ちゃんとやる?」
「もう遅いです……」
小さく言う。
「“補正”始まってますから」
その瞬間。
――ピキ。
ひびが、少し広がった。
外と、同じように。




