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ざわめき


 広場には、まだざわめきが残っていた。


 ――ザワ、ザワ……。


 人は増えているのに、空気は重いままだ。




「消えたんだよな……?」


「見たやついるんだろ……?」


「いや、でも……ありえねえだろ……」




 結論は出ない。


 出るはずがない。




 “見ていない者”と、“見ても理解できなかった者”しかいないのだから。




 俺は、端の方に腰を下ろしていた。


 やることがない。




 ――暇だな。




「……随分余裕ね」




 声。




 顔を上げると、銀髪の女。




「さっきぶり」


「ええ」




 距離を詰めてくる。


 無駄のない動き。




 周囲がざわつく。




「“銀閃”だ……」


「なんであいつのとこに……」


「チュートリアル坊だろ……?」




 いつも通りだ。




 女は気にしていない。




「カイ」




 名前を呼ばれる。




「覚えてくれたんだ」


「一度聞いた名前は忘れない」




 便利だな。




「あなた、本当に“見えてる”のね」




 核心だった。




「何が」


「とぼけないで」




 視線が鋭くなる。




「あれの“中心”」




 ――ああ。




「まあ」




 肯定とも否定とも取れる返事。




「……やっぱり」




 女は、小さく息を吐く。




「私も“見えた”わけじゃない」




 一拍。




「でも、“違和感”はあった」




 周囲とは違う視点。




「あなたが一歩踏み込んだ瞬間、空間の歪みが変わった」




 ――へえ。




「普通は、近づけば強くなるはずの圧が、逆に揺らいだ」




 正確だ。




「そして、二撃目で崩壊した」




 そこまで見ている。




 ――ちゃんと見てるな。




「偶然じゃない」




 断言。




「再現性がある動きだった」




 周囲のざわめきが、少しだけ静まる。




「お、おい……」


「“銀閃”がそう言ってるってことは……」




 評価が、わずかに揺れる。




 それでも。




「でもチュートリアル坊だぞ……?」




 完全には覆らない。




 ――まあ、そんなもんか。




「説明して」




 女が言う。




「どうやってるの」




 真っ直ぐな問い。




 ――どうやって。




「繰り返してるだけ」




「……繰り返す?」




「同じの、何回も」




 女の眉が、わずかに動く。




「それは……チュートリアルの話?」




「そう」




 数秒の沈黙。




 周囲はついてこれていない。




「……ありえない」




 小さく呟く。




「チュートリアルは一度きりのはずよ」




「普通はね」




 また同じ返し。




 だが今回は、意味が違う。




 女は、否定しなかった。




「……あなたは、“例外”ってこと?」




「たぶん」




 適当な返事。




 それでも。




 女は目を逸らさない。




「その“繰り返し”で、あれを倒せるようになった?」




「うん」




「何回?」




 ――何回。




「覚えてない」




「……でしょうね」




 ため息。




 だが、納得はしている。




 そのとき。




「おいおい」




 横から声。




 さっきと同じような連中。




「なんかすげえ話してるけどよ」




 半笑い。




「チュートリアルで災厄級を倒せるわけねえだろ」




 周囲も頷く。




「そうだよな……」


「話盛りすぎだろ……」




 女が、静かに視線を向ける。




「黙りなさい」




 一言。




 空気が変わる。




「私は見たと言っている」




 それだけで十分だった。




 男たちは言葉を失う。




 “銀閃”の発言は、それだけで重い。




 ――便利だな。




 そのとき。




「カイくん!!」




 聞き慣れた声。




 リィナが走ってくる。




「準備できました!! 次いけます!!」




「早いね」




「今回はちょっと変化入ってるので気をつけてくださいね!」




 女が反応する。




「……変化?」




 リィナが固まる。




「え」




「今、“変化”って言った?」




「い、いえその……」




 目が泳ぐ。




 ――ああ。




 これはまずいやつだ。




「チュートリアルの話だよ」




 俺が補足する。




「内部で調整入ることあるし」




「……内部」




 女の視線が鋭くなる。




「あなた、その“中”をどこまで知ってるの?」




 ――どこまで。




「全部じゃない?」




「軽く言うわね……」




 呆れ半分、興味半分。




 そのとき。




「カイくん」




 リィナが小声で引っ張る。




「そろそろ行かないと、その……ズレます」




「ズレる?」




「い、いえ! なんでもないです!」




 明らかに何かある。




 女が、それを見逃すはずもない。




「……私も行く」




「え?」




「は?」




 俺とリィナの声が重なる。




「中を見る」




 女は、迷いなく言った。




「あなたが何をやっているのか、確かめる」




 ――なるほど。




 少しだけ考える。




「まあ、いいんじゃない?」




「よくないです!!」




 リィナが即座に否定した。




「外部の人は入れません!! 仕様です!!」




「仕様?」




 女の目が細くなる。




「……今の、聞き逃さなかったわよ」




「ひっ」




 リィナが固まる。




 ――あーあ。




「とにかくダメです!! 絶対ダメです!!」




 ぶんぶん首を振る。




「なんで」




「えっと……その……」




 言葉に詰まる。




 数秒。




「……壊れるかもしれないので」




 小さく言った。




 その一言で。




 空気が、また変わった。




 ――壊れる。




 何が。




 誰も、まだ答えを知らない。


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