繰り返しの果てに
崩壊は、あまりにもあっけなかった。
――パリン。
軽い音とともに、黒は消える。
残るのは、いつもの静寂。
「…………」
リィナが、動かない。
「……カイくん」
「なに」
「今、何をしました?」
「斬った」
「そういうことじゃないです」
ゆっくりと、こちらに歩いてくる。
――コツ、コツ。
「今のは“逃げる場面”です」
「そうだね」
「なのに、なんで戦ってるんですか?」
――なんで。
「倒せるから?」
「やめてくださいその発想!!」
ついに両手で頭を抱えた。
「いやでもさ」
「でもじゃないです!!」
被せてくる。
「チュートリアルは段階的に覚えるためのものなんですよ!?」
「うん」
「急に全部やろうとしなくていいんです!!」
――全部、ね。
「でも毎回同じだし」
リィナの動きが止まる。
「……同じ?」
「配置も、タイミングも、出てくるやつも」
少しだけ考えてから、付け足す。
「今回ちょっと弱かったけど」
「弱くないです!! あれ基準です!!」
強めに否定された。
「いや、でも前より浅かったよ」
「浅いって何ですか!?」
いい質問だと思う。
「こう、中心が近いというか」
「わかりません!!」
即答だった。
「そういう説明書いてないです!!」
――説明書。
少し引っかかる。
「ねえ」
「はい!?」
「これってさ、毎回同じなの?」
リィナが一瞬、固まる。
「……基本は同じですけど」
歯切れが悪い。
「個体差とか、多少の揺らぎはありますよ?」
「へえ」
――揺らぎ。
それにしては、さっきのは明確に違った。
何かが“足りてない”感じ。
――削れてる?
「……カイくん?」
リィナが不安そうに覗き込む。
「なんか変なこと考えてません?」
「別に」
たぶん考えてる。
「いいですか!?」
リィナが気を取り直すように手を叩く。
――パンッ。
「今回もクリア扱いになりますけど!」
「なるんだ」
「なりますけど!!」
強調してくる。
「本来の目的は達成してませんからね!?」
――逃走。
「じゃあもう一回やればいい?」
「そういう問題じゃないです!!」
即否定。
「進行ってものがあるんです!! 順番が!!」
――順番。
「でも繰り返せるよね?」
「繰り返せますけど!!」
言ってから、ハッとする。
「あ」
自分で何かに気づいた顔。
「……今のなしで」
「もう遅いでしょ」
「遅くないです!!」
ちょっと焦っている。
――まあいいか。
「じゃあ戻る?」
「戻ります!! 一回整理させてください!!」
リィナがぶつぶつ言いながら手をかざす。
――ピィィン。
転移の光。
視界が切り替わる。
見慣れた“開始地点”。
石造りの広場。
何もない空間。
――やっぱりここだな。
「はあ……」
リィナが大きく息を吐く。
「カイくん、ちょっといいですか」
「いいけど」
「正直に答えてくださいね?」
なんか嫌な前置きだ。
「これ、何周目ですか?」
――何周。
「27くらい?」
「くらいじゃないです!!」
即ツッコミ。
「正確に!!」
「覚えてない」
「覚えててくださいよそこは!!」
怒られた。
「じゃあ質問変えます」
リィナが指を立てる。
「今まで、“最後の敵”を逃げたことありますか?」
――逃げたこと。
少し考える。
「ない」
「ですよね!!」
なぜかキレ気味。
「全部倒してますよね!? 全部!!」
「たぶん」
「たぶんじゃないです!! ログありますから!!」
やっぱりあるんだ。
「……あの」
リィナが、少しだけ声を落とす。
「普通じゃないです」
――まあ。
「そうかもね」
「そうかもじゃないです!!」
すぐ戻る。
「普通は逃げるんです!! そこで終わるんです!!」
終わる。
その言葉に、わずかな違和が残る。
「……終わると、どうなるの?」
リィナが一瞬だけ黙る。
「え?」
「チュートリアル」
言い直す。
「終わったら、どうなるの?」
「どうって……」
リィナは少し考えてから。
「次に進みますよ?」
あっさりと言った。
――次。
「何があるの」
「え?」
「その先」
リィナが、言葉に詰まる。
「……それは」
少しだけ、目を逸らす。
「人によります」
曖昧な答え。
――ふーん。
そのとき。
ピコン。
軽い音が鳴った。
「……あれ?」
リィナが端末みたいな光を覗き込む。
「どうしたの」
「いや、その……」
表情が、固まる。
「おかしいです」
「何が」
「難易度……」
一拍。
「上がってます」
――へえ。
「カイくん」
リィナが、ゆっくり顔を上げる。
「次、ちょっとだけ強くなります」
「いいよ」
「よくないです!!」
即否定だった。




