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八月七日 幕間

 八月七日。

 この日のオアフ島は、太陽が一際輝いていた。

 絶好のリゾート日和といってもいい。


 結局この日はとくに何の方針も決まることなく迎えられた。

 そのため、手持ち無沙汰になったメンバーはそれぞれ自由行動することになっていた。


 周防はフアロエロと一緒に、ハレイワタウンに観光に出かけた。

 明伊敷高校の修学旅行コースではないが、島の北西部エリアにあるハレイワは、ハワイの昔馴染みの街並みが楽しめる名所なのだそうだ。

 東京で例えるなら浅草下町のような感じだろうか。

 同時にサーファーの聖地のひとつとしても有名らしい。


 一方の佐々木はウェヘウェヘに連れられて、ヒロマオリにもう一度会いに行っていた。

 ハワイの文化や神話について話を聞きたいからなどと殊勝なことを佐々木は言っていたが、どこまで本気かは判断しかねるところだ。


 そして高上はというと、ずっと一人でホテルの一室に閉じこもっていた。


 いい天気だし観光でもしようか、という気にはどうにもなれない。

 かといって頭の整理もまったく捗らずにいた。


 ヒロマオリたちの言うことが正しければ、名瀬シキミもハワイの雷神もフアカイ・ポーも、高上たちが追っている怪異とは無関係だという。

 精霊たちがそう告げたから間違いない、というのが彼らの主張だ。


 では名瀬シキミの死についてはどうなのだろう。

 落雷の犠牲者も、未だに狙われている砂根稀香も、シキミの死に際を目撃したという共通点がある。

 稀香の行動がシキミの死を招いたという点と、彼らがおそらく生前にシキミに対していじめをしていたであろう点を踏まえれば、シキミから恨みを買っていたとしてもおかしくない。


 であれば、死んだシキミの怨念が事件に関与しているという方向にどうしても推測が偏ってしまうのは仕方のないことだった。

 なのにヒロマオリたちは、そうではないと言っている。


 考えれば考えるほど、堂々巡りだ。


 ハワイでの調査をこれ以上続けることは、おそらく難しいだろう。

 広大すぎて中途半端な調査に終わったクアロアランチ辺りをもう一度念入りに探索するという案も浮かんだが、そう都合よく手がかりに遭遇するとは思えない。


 潮時だろうか。


 そんなことをぼんやりと考えながら、高上はいつしかベッドのうえで眠りに落ちていた。

 昨日までの疲れと、ふかふかのベッドの心地よさのせいだった。


 そうしてしばらく時間が経って。

 不意に、客室内に備え付けられた電話が鳴った。

 なにごとかと飛び起きる高上。


 気付けば、窓の外からはすでに夕陽が差していた。

 随分と寝てしまっていたらしい。

 なおも鳴り続ける電話を、慌てて取る。


 「ええと、もしもし?」


 そう日本語で返事してしまってから、もし相手が現地人だったらどうしようかと思い至る高上。

 だが幸いなことに、受話器の向こうからは日本語が返ってきた。


 「あ、所長さん? 今、時間大丈夫ですかあ?」


 佐々木の声だった。

 わざわざホテル内の電話なんて使わずにスマホに連絡くれればいいのにと思いつつ、あくび交じりに応対する。


 「ああ、佐々木さんか。もうホテルに帰ってきたの?」

 「はい。それで所長さん。ちょっと話せませんか? 一階のロビーで待ってますから」

 「また急な話だね。もしかして、なにか手がかりでも掴んだのかい?」


 ヒロマオリからなにか重要な情報でも聞き出せたのだろうか。

 そんな期待が脳裏に浮かぶ。


 「それも合わせて話しますよ。来てもらえますか?」

 「分かった。すぐに行くよ」


 電話を切ると、高上は洗面台で軽く顔を洗った。

 そして、そのまま急いで部屋を後にしたのだった。



◇◇◇


 「早かったですねえ」

 「ああ。それより聞いてくれないか。急に呼び出すものだからこっちも焦ってしまってさ。カードキーを部屋に置き忘れてきちゃったんだが」

 「あらら。それはご愁傷様です」


 ロビーに着くなり、己の失敗を愚痴る高上。

 いわゆるインキーをやらかしたことに、歩きながら気づいたのだ。

 ホテル失敗談の定番である。


 「受付さんに言えば、対応してもらえると思いますよお」

 「そうだけど、英語で説明しなきゃいけないんだろ? 僕には無理だから君から頼めないかい? 言霊師なら英語も操れるんじゃないか?」

 「それとこれとは別ですねえ。まあ、そんなことより……」


 割と本気で頼んでいる高上をばっさり切り捨てて、佐々木は本題に入った。


 「所長さんは、今日一日でなにかいい推理は思いつきましたか?」

 「まったく何も。君の方は?」

 「一応私なりに考えてみましたよ。ただ……」


 少し自信なさげな表情で、佐々木は口ごもった。


 「何の証拠もないんですよねえ。私としてはほぼ間違いないかなって思うんですけど論理的じゃないし、あくまで推測レベルってとこです」

 「別にいいよ。とりあえず聞かせてくれないか。そのためにわざわざ呼びつけたんだろう?」


 話の先を促す高上。


 名瀬シキミの死が怪異と関係あるかもしれないと言い出したのも、ハワイでの調査を決めたのも、佐々木だ。

 そしてシキミの怨念が怪異化した可能性があるという彼女の当初の思いつきは、ヒロマオリによって昨日否定されたばかり。

 そのうえで、彼女はどのような推測を導き出したのだろうか。


 「分かりました。それじゃあ、聞いてください」


 そう言うと、佐々木はぽつぽつと語りだした。



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