八月四日 修学旅行の追体験
明伊敷高校のハワイ修学旅行は、四日間の日程で行われた。
初日はフライト疲れも考慮して、ほとんど観光のようなコースだ。
空港を出て最初に向かうのは、ハワイの歴史や文化を体験できるビショップ博物館。
続いて向かうのは、かつてハワイ王族が建てた政治施設であるイオラニ宮殿。
その後は有名な山であるダイアモンドヘッドのゆるやかな登山道を軽くトレッキングしたあと、ホテルへ向かって初日終了の流れになる。
二日目は、ハワイ大学に半日ほど滞在して学生たちと交流する日だ。
本格的な文化交流や語学学習を目的としたグループワークやディスカッションが繰り広げられる。
その後はホノルル市内で数時間ほど自由行動ののち、初日とは別のホテルに泊ることになる。
三日目は、平和学習の日。
真珠湾爆撃で有名なパールハーバーの訪問。
日本降伏文書の調印式場となったミズーリ艦への乗船。
それらを通してかつての戦争に思いを馳せつつ、残った時間はアラモアナショッピングセンターで長めの自由行動を取ったあと二日目と同じホテルに宿泊となる。
最終日である四日目は、アクティビティの日。
この日の生徒たちは予め選択したコースに参加し、ハワイの自然を楽しむ。
ひとつめは映画やドラマでもよくロケ地となる、大牧場クアロアランチの散策。
ふたつめはハワイ有数の絶景スポット、カネオヘ湾でのシュノーケル体験。
ホノルル空港は、クアロアランチやカネオヘ湾とは内陸を挟んだ反対側にある。
二手に分かれた生徒たちは、それぞれのコースを十分に堪能したあとで迎えのバスに乗り込み、とある場所で合流する。
その場所は、さながらアクティビティの地からホノルル空港へと向かう「帰り道」の途中に存在している。
山脈の尾根に位置する絶壁の崖であり、ハワイの大自然が一望でき、旅の終わりを締めくくるのにこれ以上なくふさわしい人気スポット。
「ヌウアヌ・パリ展望台」。
それがこの修学旅行における最後の訪問地の名。
そこは同時に、かつてカメハメハ大王がオアフ島を征服するにあたり、現地勢力との最終決戦の舞台となった古戦場でもある。
そしてその地が半年前、名瀬シキミの死に場所となったのだ。
◇◇◇
ウェヘウェヘの運転するワンボックスカーがホノルル市内を疾走する。
外見はなんだか薄汚れているが、車内は清掃が行き届いていた。
往路の飛行機で疲労が蓄積していた高上にとって、広々とした座席空間は非常にありがたく思えた。
「拙僧としてはダイアモンドヘッドとハワイ大学、あとショッピングセンターはわざわざ行かなくてもいいと考えますな。怪異と関係あるとは思えませんぞ」
「そうですよねえ。今日と明日だけで三日分の旅程を巡るのは少し無茶ですし、少し削ってもいい気がしますよお」
周防と佐々木が、旅程の圧縮を提案する。
明らかに怪異と無関係な場所には行くだけ無駄という考え方だ。
だが高上はそれに反対する。
「僕はそうは思わない。とくにショッピングセンターは怪しい気がする」
「なんでですか? 一番怪異と無関係そうな気がしますよ?」
「ハワイでは色んな場所でお土産を売っているだろう? シキミさんか、稀香さんか、あるいは他の生徒かもしれないが――誰かが自由行動中にお土産として買ったものに、凶悪な呪物が紛れ込んでいたということも考えられないかい?」
土産物が厄介な呪物だった、と言う話はこの業界ではよくあるパターンだ。
例えば砂根稀香が購入した土産物が呪物で、それが怪異を引き寄せている可能性が考えられる。
あるいは名瀬シキミが土産として購入した呪物が、死んだ彼女の怨念を増幅させて怪異へと変貌させたというストーリーも一応は成り立つ。
「お土産とか言い出したら、どこも怪しいですよねえ」
「まあ一番怪しいのはやっぱり事故現場の展望台だけどね。古戦場ってところがいかにもいわくつきな感じがするよ」
高上の言葉に、ガイド二人も反応を示す。
「アンタらの追ってる怪異に、フアカイ・ポーが関わってるかもしれねえって聞いたが本当か? あの展望台には、よく『出る』って噂だぜ」
「そうなんですか」
「市街地でも目撃されちゃあいるが、だいたいは旧貴族の住居や古戦場の跡地なんかでよく出没するらしい。ヌウアヌ・パリはまさにうってつけの場所だな」
オアフ島でもっともいわくつきの古戦場跡地であるヌウアヌ・パリ展望台。
幽霊出没スポットとしても最大手となるのだろう。
「やっぱり有名なんですか。フアカイ・ポーは」
「ハワイの怪談っつったら、まっさきにそいつが思い浮かぶ程度には有名だろうな。イオラニ宮殿やクアロアランチも出没スポットとしちゃ有名だが、最近けっこう多いのはハイウェイ一帯らしいぜ」
「……大いなるハワイの大自然を……人間の利便性の都合で切り拓いた高速道路……先祖の霊や神々の怒りがフアカイ・ポーを引き寄せる……そういう話だ……」
「まあ自然崇拝集団や高速道路反対派の流したデマだって噂もあるけどな」
要するにフアカイ・ポーはそこら中で目撃証言がある怪異らしい。
「それで、結局どうしますかな? 修学旅行コースの全てを巡っていては時間がかかりすぎるのではないですかな?」
「二手に分かれりゃいいんじゃねえのか? 移動に関しちゃ、市内でレンタカーを借りりゃあいい。ウェヘウェヘもそれでいいよな?」
「……問題ない……そうすることは事前に想定済みだったろう?」
「ああ、そうだったな。アンタらもそれでいいだろ?」
どうやらフアロエロは初めから二手に分かれることを決めていたらしい。
でなければわざわざウェヘウェヘを連れて来る必要もなかっただろう。
「私は異論ないですねえ」
「拙僧も賛成ですぞ」
「おう。それじゃあ俺の車に二人残りな。あとの一人はウェヘウェヘがガイドするってことで」
「それじゃあ僕がウェヘウェヘさんと一緒に行きます」
「……分かった……それでいい」
実際のところ、二手のほうが効率がいいのは間違いない。
高上とウェヘウェヘはハワイ大学やショッピングセンターなどの市内施設を、フアロエロ率いる佐々木と周防はそれ以外を担当することになった。
これから二日間はそれぞれ別行動になる。
同じホテルを予約しているので、夜はいったん合流することになるが。
こうして、ハワイでの情報収集が本格的にスタートした。




