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八月二日 出発準備

 八月二日、水曜日。

 事件調査のためにハワイへ行くなどと佐々木が言い出して、四日が経った。


 出発の日は八月四日の土曜に決まった。

 すでに航空券は手配済みだ。


 佐々木と高上、それに周防の三人でハワイに向かうことにしたので、必然的に事務所には誰もいなくなる。

 本来なら問題だが、ここ最近は依頼人など一人も来ていない。

 だったら別にいいだろうというやけくそ気味な判断のもと、臨時休業の運びとなっていた。


 三人分の旅費は、砂根家から支払われた報酬金から賄うことにした。

 あまり納得のいく形で受け取った金ではなかったが、ここに来て役に立った恰好である。


 出発の日に向けて、三人はそれぞれの準備をすることにした。

 そのなかでも周防は、引き続き調査継続中の探偵と色々打ち合わせをしているようだった。


 ハワイ滞在中は探偵との連絡も取りにくくなるだろう。

 そのため、定期的に連絡を取り合う段取りを互いに確認しているのだ。


 同時に、現在進行形で進んでいる調査状況の打ち合わせも当然している。

 その内容は周防を通して、高上の耳にも入ってきていた。


 どうやら探偵はここのところ、名瀬シキミと砂根稀香の関係について本格的に学園の同級生たちに聞きまわったらしい。

 話によると、取り巻きが全員落雷死したことで稀香はずいぶんと大人しくなっているという。

 そのため周囲の生徒たちもそれまでのように稀香を極端に恐れることもなくなった。


 結果として、探偵の聞き込みに対して思いのほかすんなりと口を開いた生徒が多かったようだ。

 取り巻きを失った稀香の報復など恐れる必要はないと思ったのか。

 はたまた、彼女に対する皆の不満がここぞとばかりに開口を促したのか。


 ともあれ、生徒たちが探偵に語った稀香とシキミの関係性は、佐々木の推測を確定付けはしないものの、強く後押しするものだった。


 「もともと名瀬ちゃんがうちのクラスをまとめててさ。砂根が転校してくるまではすごく平和で楽しい教室だったんだよ」

 「でも砂根さんがウチらのクラスに来てから、あの子はすぐにクラスの中心グループに居座ったの。砂根さんはすごく高飛車なタイプだったし、みんなそういうのに慣れてなくて、ついついペースを握られちゃってたみたいな」

 「そんでさ。なんか知らんうちに気付いたら、いつの間にかシキミっちが中心グループからハブられてたんよ。上手く言えないけど、明らかに砂根さんがそう仕向けてるのが端から見てても分かったっていうかさ」

 「僕は直接見てないけど、嫌がらせを受けてるって噂は何度か聞いたかも」

 「あからさまな暴力とかは見なかったから、あれがイジメだったのかは正直分からんけど、砂根は間違いなく名瀬に対して敵意があったと思うよ。でも俺たちが介入したら砂根に目をつけられっから、あの頃はずっと静観してたんだ」


 探偵の報告書に記された生徒たちの供述。

 やはりというべきか、名瀬シキミは砂根稀香から嫌がらせを受けていたらしい。


 クラスの中心として和気藹々とやっていたところに、稀香が突如やってきて友人たちを奪われたあげく、孤立化させられてしまう。

 それが死ぬ前のおよそ五ヶ月間、シキミが受けていた仕打ちだったようだ。


 彼女の母親が語った内容とも、辻褄は合う。

 シキミが稀香に恨みを抱いていたとしても、不思議はない。


 だが。

 それでも、まだ名瀬シキミが怪異の正体だとは限らない。

 むしろ、女子高生の幽霊程度が雷を操る怪異になるというのは未だに納得がいかない。


 まだなにか、明らかになっていない背景があるはずだ。

 それが真っ当な霊的現象によるものか、はたまた言霊関連の現象なのかは今のところまだ分からないが。


 佐々木いわく、このたびのハワイ行きはそれを確かめるための旅行だという。


 高上としても、それに異存はなかった。

 一応いまは佐々木から仕事を委託されているわけだし、ここまで来たらやりたいようにやらせるのがいいだろう。

 親分からも、佐々木のサポートを果たすように仰せつかっている。


 無駄足になる可能性は低くない。

 だがこれまでの犠牲者全員が修学旅行で訪れているハワイという地が、今回の怪異となんらかの繋がりを持つ予感がたしかにある。


 照尾たちを破った幽霊兵団。

 それに類似する要素を持つ幽霊行列フアカイ・ポーは、ハワイの怪異。

 はたしてこれは偶然だろうか。


 そこになんらかの隠された背景があるのか。

 あるいはまったくの無関係なのか。

 すべてはハワイに行けば明らかになるだろう。


 もっとも、土地勘のない三人が考えなしでハワイへ行っても、そのままではただの旅行で終わってしまう。

 だからそうならないための準備は、すでに手配してあった。


 あとは現地に赴くだけだ。


 「なあ、周防さん。航空券を手配してくれたみたいだけど、いつになったらうちに届くんだろうね。もしかして郵送先の入力を間違ってないかい?」

 「チケットなんか送られてきませんぞ。今どきの空港はスマホアプリをかざせば搭乗手続きが簡単にできるんですからな」


 周防に説明されるも、オンラインでの搭乗チェックインの仕組みが上手く飲み込めず、頭を抱えながら時代の流れを感じる高上だった。


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