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七月二十七日 南国幽霊


 「こいつはハワイに伝わる怪談だよ。昔の戦乱で死んだ兵士たちの幽霊なんだ」

 「ふええ。ハワイって平和なバカンス島のイメージだったけど、そんな怖そうな話もあるんですねえ」


 かつてハワイはいくつかの諸島に分かれ、それぞれの族長が支配していた。

 それらの族長を武力で討ち倒して一つの王国として統一したのが、かの有名なカメハメハ大王。


 このハワイ統一の戦乱の中で、王族や戦士が大勢死んだ。

 そんな彼らが、今もなお夜な夜な集まってハワイ各地を行進しているという。

 そしてそれを目撃したものは、命を奪われてしまうのだ。


 それがハワイに伝わる幽霊怪談、フアカイ・ポーである。


 「南国の戦士の霊なら、ふんどし一丁のような恰好でもおかしくないと思う。それに、この幽霊行列がもっとも活動するのは新月の夜だってこのサイトには書いてある。今回の怪異の特徴とも結構合うと思わないかい?」

 「そうですけど、なんでハワイの幽霊が稀香ちゃんたちを狙うんですか?」

 「明伊敷高校の二年生は毎年一月に修学旅行に行くんだけど、その場所がなんとハワイなんだ。つまり、これまでの犠牲者も稀香さんも、今年はじめにハワイに行っているんだよ。そこで怪異と接点をもった可能性がある」

 「ええっ? 今どきの高校生はハワイなんて行くんですか? 生意気!」


 佐々木が驚きの表情をした。

 明伊敷高校の公式サイトに載っていた情報を権藤が見つけて、高上には口頭で共有してくれていたのだが、佐々木は知らされていなかったようだ。


 「なんで修学旅行でハワイなんか行くんですか。高校生の分際で。あんなバカンスの島でなにを修めてなにを学ぶというんですかねえ」

 「異文化交流とか、英語学習とか、いろいろ学びはあると思うけどな」


 妙に羨ましそうに愚痴る佐々木を、高上は冷ややかな目で見る。

 日頃から日本中を旅行している暇人のくせに、海外旅行は気にくわないのか。


 ちなみに、修学旅行先がハワイだという学校はそれほど珍しくもない。

 ハワイには太平洋戦争の緒戦の地となった真珠湾があり、日本の降伏文書調印式場にもなったミズーリ艦が退役保管されている。

 ゆえに長崎や広島、沖縄に並んで平和学習に向いているといえる。


 「とにかく、だ。稀香さんたちは修学旅行中にフアカイ・ポーに狙われるようななにかをしでかした可能性があるんじゃないかってことだ」

 「う~ん。それっぽいこと言ってますけど、そのフアカイさんとやらは、雷を起こすような怪異なんですか? このサイトにはそんなこと書いてないですよお」

 「う、それは……」

 「それに、『帰り道』に人を襲うっていう要素はあるんですか?」


 容赦ねえな、と高上は内心で毒づいた。

 だが佐々木の指摘はもっともである。


 フアカイ・ポーが雷を操るという記述はネット上では見つけられなかった。

 それに、帰り道の人間を狙うなどという情報もない。


 であれば、今回の案件とは無関係と考えるべきか。


 「……でも外見や新月の要素が合うし、被害者たちの修学旅行先がハワイなのは偶然とは思えない。それに、雷の怪異は別にいるのかもしれないだろ」

 「怪異複数説を言い出したら何でもアリな気がしますけどねえ」

 「強引なこじつけとは思うが、ハワイ旅行中の被害者たちの動向は調べておくに越したことはないよ。フアカイ・ポーは無関係だったとしても、なにかのヒントが見つかるかもしれないし」


 高上としても、このフアカイ・ポーが今回の怪異の正体だとまでは決めつけていない。

 あくまで可能性の一つとして、調べておいて損はないくらいの気持ちだ。

 

 そのあたりは、探偵への調査依頼事項としてすでに周防にも伝えてある。

 じきになんらかの答えが返ってくるだろう。


 とくに自説があるわけでもない佐々木は、それ以上とくに反論しなかった。


 会話が途切れる。

 高上はなにかを喋ろうとして、ずっと思っていたことをふと問いかけた。


 「なあ、今回の事件だが、君の専門分野だと思うかい?」

 「と、言うと?」

 「いや、いまさら相手が普通の怪異だなんてありえないと思うが、だからといって君の専門の……言霊が絡んでいるとも限らないんじゃあないのか?」


 高上からすれば、それは一番気がかりなことだった。

 今回の事件が韻や言霊と無関係なら、佐々木では解決できないことになる。


 無論、高上はこの事件をなんとか解決に導きたいと願っている。

 ゆえに、言霊が関わっていたほうがありがたい。


 だがそんな都合のいい展開がありえるのかという心配も無視できない。

 周防のかつての言葉を額面通りに信じるなら、佐々木向けの事件が起きるのは百件に一度あるかどうかという低確率なのだから。


 そんな心配が籠った問いに対して、佐々木の答えはシンプルだった。


 「そんなこと、今考えててもしょうがないですよ。まずは怪異の正体を調べて前に進まなくちゃ」


 呑気に構える佐々木を見て、高上は思わず溜息をつく。


 結局、この日は二人でああだこうだと推論を投げ合ったものの、とくに進展もなく時間だけが過ぎていった。

 だが翌日、事態は大きく動き出すことになる。

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