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七月九日 聞き込み

 明伊敷高校に辿り着いたのは、午後二時半頃のことだった。


 さすがにまだ授業中らしく、出入りする生徒はまだいない。

 早く来すぎたらしい。


 仕方ないので高上たち三人は学校の周辺をうろつきながら時間を潰した。

 途中で落雷事件が起きた現場にも二ヵ所ほど立ち寄ったが、とくに得られたものはなにもなかった。


 一時間ほどして校門前に戻ってきた一行がさらに待つこと十分ほど。

 ようやく、下校する生徒たちの姿がちらほらと見られはじめた。


 「あのお、すみません。ちょっと聞きたいんですけどお」

 「え、あ、はい?」


 聞き込みを開始した佐々木。

 絡まれた生徒は唐突に絡んできた山ガール姿の不審者に困惑しつつも律儀に足を止めてくれた。


 高上と周防はとりあえず少しだけ距離をおいて、聞き込みの様子を伺う。


 「あなた、背が高いねえ。もしかして三年生?」

 「そうっすけど。それがなにか?」

 「この学校の三年生に、砂根稀香ちゃんっているよねえ? 同じクラスだったりしない? どんな子か知ったら教えてほしいなあ?」


 直球過ぎる聞き方だった。

 フランクな口調なのがうさん臭さに輪をかけている。

 個人情報にうるさい今の世の中で、こんな質問に答えてくれる人間はそう多くないだろうなと高上は思う。


 そしてその予想は当たってはいた、のだが。


 「あ、あんた、砂根のことを知ってるんすか?」

 「そんなとこだけど、もしかしてあなた、稀香ちゃんのお友達――」

 「お、俺はクラス別なんで。よく知らないっす。そ、それじゃ失礼っ」


 そう言い終わらないうちに生徒はそそくさと早足でその場を去ってしまった。

 残された佐々木はぽかんとしている。


 「あらら、もしかして急いでたんですかねえ」

 「まあ、校門で聞き込みしてくる怪しい人間に、友達のことをぺらぺら話したりはしないでしょう」


 気を取り直して、再度聞き込みをかける佐々木。

 しかし、そのあと十人ほどに同じような質問をしたところ、全員が一様に回答を拒否して逃げ出してしまった。


 その態度は、個人情報に関する意識の高さというよりはむしろ。


 「……拙僧には、どうも稀香殿が学校中から恐れられているように感じますな」

 「奇遇だな、周防さん。僕もそう思ってたところだ」


 高上と周防の意見は一致していた。

 聞き込みをした生徒たちがたまたま全員三年生だったとは考えにくい。

 一年生や二年生もいただろう。


 皆が同様に砂根稀香の名前を出したとたん逃げ出したということは、彼女が学校内でも有名な生徒なのだろうという推測が立つ。


 「もしかして稀香ちゃんは、結構な問題児なんですかねえ」

 「……まあ、あまり品行方正という感じではなかったですが」


 高上も周防も、護衛対象としての砂根稀香と何度か実際に会ったことがある。

 彼女はいかにも傲慢で高飛車な口調だった。

 性格的にかなりキツイ人物だという印象だ。


 だが最近のスレた女子高生はだいたいこんな感じなのかな、と高上は思っていた。

 同年代からも怖がられているとは予想外だ。


 「ふむふむ、ますますなにかありそうですねえ。稀香ちゃん」

 「ますますってなんですか。あまり護衛対象を疑わないでください」


 そんな会話をしていたときだった。


 「ねえ、アンタたち、さっきからなにやってんの?」


 聞き覚えのある声。

 それはちょうどついさっき、姿や言動を思い返していた人物のそれだった。


 「アンタたち、パパが雇った霊能者でしょ? んでそっちの女は……知らない顔ね。うちの学校の登山部かなにか?」


 砂根稀香だった。


 黒髪を綺麗に揃えて制服をきっちりと着こなした、優等生のような佇まい。

 その見た目は、はたから見れば模範的な高校生のそれだった。

 ただ身長が小柄で、制服を着ていなければ小中学生にしか見えないだろう。


 「アタシのこと聞き込みしてんの見てたけど、それってケーヤク違反ってヤツじゃないの? 詮索すんなし」


 どうやら佐々木の聞き込みが見られていて、しかもそれが詮索だとバレているようだ。

 ばったり会う可能性は想定していたが、あまり深くは対策していなかった。

 もっとも最初から、この状況になったら全部佐々木のせいにする腹づもりではあったので、少しは気が楽な高上であったが。


 「……ってことはもしかして、あなたが砂根稀香ちゃん?」

 「そーよ。こっちがツレの絵麻。ほら、挨拶しなさい」


 そういうと、稀香は隣に立っていた少女の肩を叩く。

 それは護衛対象の片割れ、羽田絵麻だった。


 稀香とは対照的に絵麻は背が高く、着崩した制服や染めた金髪はいかにも今風のギャルといった風体だった。

 こちらも高上と周防は何度か会ったことがある。


 「あなたが絵麻ちゃんかあ。はじめまして」

 「ど、ども……っていうかあんたは誰?」

 「あ、私は佐々木。所長さんのお手伝いしてるの」

 「そ、そうなんだ。し、知らんけど、が、頑張ってね」


 相変わらず年下には砕けた態度の佐々木に対して、絵麻のほうはどこか歯切れが悪い。

 それは初対面の相手に対する人見知りというよりは、隣にいる稀香のことを気にしているようにみえる。


 「せっかくこうして会ったんだし、なにか知ってるなら教えてよ。あなたたちはどうして怪異に狙われてるの? 護衛依頼したってことは、なにか怪異に狙われるような心当たりがあるんだよね?」


 もはや開き直ったのか、最初から隠す気がないのか、堂々と詮索をかましにかかる佐々木。

 高上はそれを止めようかと一瞬だけ思ったが、そのまま様子見を決め込むことにした。

 稀香がなにか打ち明けてくれたなら、それはそれで儲けものだ。


 だが。


 「教えることなんか何もないわ。アンタたちはただ黙って怪異とやらをぶっ倒せばいいのよ。そういうケーヤクなんでしょ?」


 やはり稀香はなにも語らない。

 その態度には、自分が死ぬかもしれないという恐れを感じなかった。


 単に図太い性格なだけなのか。

 高上たちが次こそは怪異を討ち倒すと強く信じているのか。


 それとも、別のなにかがあるのだろうか。


 「ね、ねえ、稀香。ほ、本当のこと言おうよ。じゃないと私……」

 「うっさいわね、絵麻。余計なこと言うなら――潰すわよ」


 なにかを言おうとした絵麻を、稀香が一喝する。

 絵麻はごめんと一言だけつぶやいたきり、俯き黙って一歩引いた。


 「んじゃ、そういうことだから。アンタたちはもう学校に近づかないでよ。これ以上アタシのことを詮索するならパパに言いつけちゃうから」


 そう言い残して、稀香は絵麻の手を引っぱってその場を立ち去った。

 明らかになにかを隠していることを、隠そうともしないまま。


 「なかなか強烈な性格の子でしたねえ。じゃあ聞き込み再開しましょうか」


 稀香の忠告をまったく顧みる気のない佐々木。

 高上は彼女を無理やり引きずって、聞き込みを強制終了させたのだった。



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