七月九日 車移動
はじめての顔合わせが終わり、集まった霊能力者たちは解散してそれぞれの行動に移っていった。
照尾とリミディは事務所から二駅分ほど離れた繁華街にホテルを予約していたらしい。
怪異との交戦の日までは、そこを拠点に動き回るようだ。
権藤はわざわざ九州の実家まで新幹線で戻っていった。
他のメンバーと違って彼女は大学通いなので、ずっと今回の案件にばかり関わっているわけにはいかないのだとか。
とはいえ実家には退魔に関する書蔵があるらしく、空き時間を使って雷にまつわる怪異の古文書がないか探してみてくれるそうだ。
そして、佐々木は。
一同の解散のあと、宣言通り明伊敷高校に向かうと言い出した。
仕方ないので高上は周防に運転手を任せて、彼女を送り届けることにしたのだった。
◇◇◇
事務所から目的地までは、車でニ十分ほどの距離。
だがその程度の時間が、高上にはやたらと長く感じられた。
出発から十分経った車内が、しんと静まり返っていたのがその理由だ。
運転中の周防は本業が仏僧なので説法は得意だが、普段はあまりお喋りな方ではない。
高上もどちらかというと不必要な会話は苦手だ。
その点は佐々木もまた同じようだった。
よって、誰も一言も発しない。
耳に入るのは、車外の喧騒だけ。
さすがに気まずさを感じた高上は、とりあえずコミュニケーションを試みることにした。
「そういえば佐々木さんは今回お祖父さんの代理で来ていただいたそうですが、普段から霊能力者として活動されているんですか?」
急に話を振られた佐々木は少し虚を突かれていたが、すぐに返事をした。
「ええと、その日の気分次第ですねえ。本業としては実家の神社で巫女の助勤をしているんですけど、オフシーズンはひまなので日本中を旅行したり、たまに霊能関係の仕事をやってる感じです」
助勤とは、要するにアルバイトのことだ。
そして巫女のオフシーズンとは、正月前後を除いた期間を指すと思われる。
ようするにこの佐々木という人物は、ほぼ一年中ひまなのだろう。
彼女が流離の山ガールみたいな恰好をしているのも、見たまんま旅行者だったかららしい。
霊能業界では彼女の評判を聞いた記憶がないので、仕事とやらも細々とやっているに違いない。
まあ彼女の祖父である佐々木望喜が岩手県の神社暮らしだとは知っていたので、その孫が巫女であるというのも高上には比較的すんなり納得できた。
「見た目では分かりませんでしたが、巫女さんだったのですね」
「……今、権藤さんとキャラが被ってるって思いませんでした?」
「微塵も思ってないですが」
「いいですよねえ、権藤さん。私、あの子のファンなんですよ。今日初めて会いましたけど、やっぱり明るくて可愛いですよねえ。そう考えるとあまりキャラ被ってなかったですね……」
なんだか悲しい自己完結をしながら肩を落とす佐々木。
新進気鋭の退魔巫女こと権藤千代に、同業者としての憧れがあるようだ。
「ところで佐々木さん、先ほど事務所では自分のことを言霊師と言っていましたよね」
「ああ、覚えてたんですね」
「いや、あまり聞きなれない肩書きなのでずっと気になってまして」
エクソシストの照尾や退魔巫女の権藤、防衛術師のリミディはどんなタイプの霊能力者なのか比較的イメージしやすい。
しかし言霊師とは、どういった類の霊能力者なのだろうか。
業界人の高上も、そのようなタイプは聞いたことがない。
今回一緒に仕事をする以上、知っておくべきことだった。
「あれですか。言葉を具現化して怪異と戦うみたいな感じなんですか」
「やっぱりそう勘違いしちゃいますよね。すみません。実は言霊師っていうのは仮の肩書きなんですよ」
「え? 嘘ってことですか?」
「嘘、とも言えないんですけど。正直に言えば私も、自分がなにを名乗ればいいのかよく分かってなくて。一時期は探偵って自称してたんですけど、それだとお客さんに色々と仕事内容を誤解されることが多かったんで、最近はとりあえず言霊師ってことにしてるんです。うまく説明しづらいんですけど」
わけの分からない説明だと高上は思った。
口ぶりからすると、佐々木本人もよく分かってなさそうではある。
詳しく聞いてみるべきか高上が迷っていると。
「佐々木殿の評判は、聞いておりますぞ」
運転席の周防が会話に割り込んできた。
前方に目をやると、どうやら信号待ちのタイミングのようだった。
「評判? 僕は聞いたことがないが?」
「私も聞いたことないですよお」
二人の注目を集めた周防は、信号を気にしながら話を続けた。
「拙僧が聞いたところだと、佐々木殿の仕事成功率は極めて低いようですな。百件の仕事を受けたなら、うち九十九件はなんの力にもなれずに終わるそうで」
「なんだそりゃあ。だめだめじゃないか」
「いやあ。お恥ずかしい限りですねえ」
初対面のときからうっすらと危惧していたことではあるが、どうやら佐々木は相当に腕が悪い霊能力者らしい。
今回の案件に絡むには力不足ではないのかと高上は訝しみ始めた。
「大丈夫ですか、佐々木さん。今回の仕事は危険ですよ。降りるなら早めに言ってくださいね」
まだ若い佐々木の身を案じて、高上はそう告げた。
佐々木にしてみれば失礼に聞こえただろうが、これは高上なりの気遣いだ。
この案件ではすでにベテランの千条が死んでいる。
協力者が減るのは辛いが、未熟な霊能力者を巻き込んで死なれたくはない。
だが。
「……まあそう言いなさるな、所長」
「どうしてだい、周防さん」
「拙僧の先ほどの言葉。あれは裏を返せば、百件の仕事のうち一件は上手い具合に解決できるかもしれないということですな」
「打率が低すぎるだろう」
「……言い方が悪かったですかな。ではこう言い直しましょうか」
もったいぶった言い回しで、周防はこう告げた。
「百件のうち一件くらいは、佐々木殿にしか解決できない案件がある、と」




