第19話
翌朝。ベルーゼたちが帰る仕度をしていると、ケインが外へ出たいとぐずり始めた。
その姿を見て、ベルーゼはいよいよベルーガから教えて貰った秘技を試す時が来たようだと意気込む。
ちょうど良いことに、側にはベルーガがいる。もし失敗しそうになった場合には彼女にフォローして貰おう。
そう考えたベルーゼはそっとベルーガに、これからやりますという思いを込めて目線を送る。
すると、ベルーガもベルーゼの意志を汲み取ってくれたらしく、そっと頷き返してくれた。
それに少しだけ勇気つけられ、ベルーゼは肩の力が抜けたことを感じながら口を開く。
「ケイン、どうしても外に行きたいの?」
「ガウッ!」
「そう、俺はお前がいないと寂しいんだけどな・・・」
「ガウ?」
ベルーゼはわざとらしく無い程度に悲しそうな顔をして下を向く。
そう、ベルーガが彼に教授してくれたのは、泣き落としや相手の気分を良くさせる誉め方などの所謂手練手管というものだ。
前世も含めて恋愛経験0のベルーゼだが、ダスターたちを宥めるために今までもそれらしいことはしている。
少し恥ずかしい気持ちが無いわけではないが、これでケインたちとラブラブになれるのならと、ベルーゼはベルーガが語るノウハウを頭に叩き込んだ。
今回使うのは泣き落とし。これは今までの経験からも、頻繁に使うと効果が薄れると分かっている技だ。
しかし、今は強力な助っ人がいるから問題ないはずだ。
ベルーゼはそっと、協力してくれる手筈のベルーガの気配を伺う。
一方ベルーガは、ベルーゼたちの会話を聞くと、ゆったりと自然な仕草で彼らへと歩み寄った。
そして、とても艶やかな雰囲気を纏ってベルーゼの身体へとしなだれかかってきた。
「あらあら、可哀想なベルーゼ。こんな分からず屋できかん坊な子の相手なんてしていないで私と楽しく遊びましょう?」
「でも、お姉様」
「うふふ、大丈夫私ならあなたの言うことをなんでも聞いてあげるし、あなたに尽くしてあげるわよ?ほら、おいでなさいな」
「ダメ!」
ベルーガが魅力的な笑みでベルーゼを誘う。その誘惑に半ば本気で応えかけていた主を、横から走ってきたペルが口に加えてベルーガから引き離す。
そして、ベルーゼを自分の後ろに隠すと、最愛の主を取られまいと低い声で唸りをあげた。
そんな一連の出来事についていけていないのか、ケインだけが目を白黒させて彼らを交互に見ている。
「なるほど、あなたはベルーゼを取られたくないわけね?」
「アタリマエ!ベルーゼ、オレノ!」
「ふーん。でも、あなたはベルーゼの役にたてるのかしら?ベルーゼはそっちのわんこが言うことを聞いてくれないって悩んでいたけれど、あなたは何かそれを手伝ってあげたの?」
「ソレハ・・・」
ベルーゼのことを好いているペルだが、独占欲が強すぎるため、主と他の人の不仲を歓迎するきらいがある。
そのことについても相談していたのだが、どうやらベルーガはこの機会にいっぺんに解決しようとしているようだ。
ベルーガは押し黙ったペルに馬鹿にしたような笑みを浮かべて鼻を鳴らす。
「ふんっ。そんなことでよく、私の可愛い甥っ子を自分のモノだと言えたわね」
「グゥ」
「なにもしていないのに、ただ愛して欲しいだなんて。そんな上手い話があるわけないのよ。ベルーゼが欲しいのならばこの子が望むこと全て叶えてあげるくらいの甲斐性を見せなさい!」
そうじゃないと、と前置きをしたベルーガは、いつの間にか延ばしていた蜘蛛の糸でベルーゼを絡めとり、まんまとペルから奪い去った。
「アッ!」
「本当に私が貰ってしまうわよ?こんな風に、ね?」
「んっ!」
ベルーガに抱き上げられたうえ、耳元で艶やかな声で囁かれ、ベルーゼは思わず声を上げる。
そんな彼の様子を見てペルは更に焦ったのか、急いでケインへ何事か言い募った。
その言葉はベルーゼには分からなかったが、話を聞いたケインが慌てている姿を見るに、どうもベルーガが話していたことをケインへ説明したようだ。
ケインは、単語くらいなら理解できるのだが、今回のように長文になると理解が追いつかないらしく、いつもきょとんとしている。
いくらベルーゼが頼んでも話を聞いてくれないのには、そういう事情も絡んでいた。
だが、この分ならばこれからはペルが上手く通訳と説得をしてくれるだろう。
「ケイン、イウコト、キカセウ!ベルーゼ、カエシテ!」
「ふーん。まあ、いいでしょう。でも、今だけなんて虫の良いことしてたらすぐに奪いに行くから覚悟しておきなさい」
そう、脅しをかけてペルのもとへベルーゼを下ろす。すると、ペルは急いで自分の主へすり寄った。
それに続いてケインまでもがすり寄ってきて、それまで興味なさげにしつつ、しっかりとベルーゼたちの様子を窺っていたマシロも寄ってきた。
なんというもふもふハーレム!と、ベルーゼは感激しながらみんなを平等に撫で繰り回す。
その姿を、ベルーガが微笑ましそうに見つめていた。
しばらく従魔たちを宥めたあと、ようやく落ち着いたペルたちにも手伝ってもらい、帰りの支度を整える。
昨日起こった出来事の内容が濃かったことと、ケインの躾をしなければならないという緊張感から、これからここを離れるのだという実感がなかなか湧かなかったベルーゼだが、いざ出発という時になると、寂しさがこみ上げてきた。
「ううぅ」
「これこれ、泣くでない。しばらく会えんのじゃから、爺様たちに笑顔を見せておくれ?」
「ゔあい」
思わず涙ぐんでしまったベルーゼを、先王が抱き上げてあやしてくれる。
しかし、そうされると余計に涙がにじんできてしまい、ベルーゼが頑張って作った笑顔もきっとぎこちないことだろう。
そんな彼を、先王たちはみんなで寄ってきて撫でてくれる。
「よしよし、お前は泣き虫な子だな」
「あんまり泣くと目が張れてしまうわ、少し待っていなさい。今温めたタオルを持ってきてあげますからね」
「うふふ、可愛い顔が台無しね。でも、そんなところも可愛いわよ」
「ふむ、確かに。しかし、泣き顔ならベルーガの方が愛らしいでござる」
(あの、慰めるついでにいちゃつくのは止めてください)
祖母が持ってきてくれたタオルで顔を拭きながら、ベルーゼは目の前でいちゃいちゃしているベルーガたちを眺める。
とても幸せそうな二人に、ベルーゼはポルンたちのことを思い出し、余計に羨ましいような妬ましいような複雑な感情を抱いた。
(くっそ、俺も早くペルたちとあんな関係になりたい。いや、別に夫婦になりたいわけじゃないんだけど)
ただ、親友以上恋人未満。そんなぎりぎりのラインならば世間的にも問題無いのでは無いかと心の中で悪魔が囁きかけてくる。
その言葉に、ベルーゼは抗う必要性を感じないほど、ベルーガたちを見ていて感覚が麻痺してしまっていた。
(うん。大丈夫、大丈夫。俺は別に獣姦趣味じゃ無い。変態じゃない。)
ぐらつきそうになる自分へ、ベルーゼは半ば案じをかけるように念じた。
ベルーガたちを見ていると、ペルたちと夫婦になるのってかなり美味しいんじゃないだろうかと危ない思考に走りそうになって怖い。
(だって、夫婦になればペルたちとあんな感じにいちゃいちゃ出来るんだろ?ちゅーなら今でもしてるけど、ちょっとエッチな感じのキスとかして恥じらう姿とかは、ぜひ見てみたい)
そんな危険な考えが頭を過るが、そんなことをしてペルたちや父上に嫌われたらどうする、とどうにか前世の常識が蘇り、一歩踏みとどまることに成功した。
しかし、これ以上ここにいればそんなものもすぐに吹き飛んでしまいそうだ。
そんな考えに至ったベルーゼの中で、今までの寂しい気持ちは急に吹き飛び、なんだかんだと引き留めようとする祖父たちへ慌てて別れを告げ、家路を急ぐことにした。
ここまで閲覧していただきありがとうございます
今回は短めになってしまってすみません。
前回入りきらなかったベルーゼのドキドキ大作戦(笑)でした。
うん、我ながら安直な展開で申し訳ないです。




