第17話
「ガウガウッ!」
「どうしたの、ケイン?」
そろそろ先王たちの家が見えるという頃。突然ケインが近くの木の根元へ向かって吠え始めた。
どうやら、根元に小さく空いている穴が気になるようだ。
(何かの巣穴とかだろうか?)
そう当たりをつけたベルーゼは、止めさせるべく少し厳しめの声を出す。
「こら、ケイン。中に動物がいたら可哀想だからやめなさい」
「ソウア、コエイショウ、アイハウ、フヤス、ヤア」(そうだ。これ以上ライバル増やすの嫌だ)
「ライバル?」
ベルーゼは、ペルが言う言葉の意味が分からず首を傾げる。
その間にもケインはお構いなしに穴を掘って広げ、とうとう中から何かを引きずり出してしまった。
それは、一見真っ白い毛玉のよう。
しかし、ケインが咥えてきたそれをよく見てみると、それは真っ白い毛並みの兎だった。
まだ子供のようで、ベルーゼの手の平ほどの大きさしかない。その小さい身体を更に縮こまらせ、ぴるぴると震えて怯えている。
その姿がなんとも可哀想で、でも、何故か苛めたくなる可愛さも称えていた。
ひとまず、ベルーゼのハートをガッチリ掴むには十分な愛らしさなことは確かだった。
「やだー、なに、この子。むっちゃっ、可愛い!!」
「あー、またか・・・」
「・・・・・・・・・?」
「ああ、お前は初めて見るんだったな。ベルーゼは無類の動物好きでな。有る意味ベルグマン叔父上と同類だ」
「なるほど・・・」
「ヴー、ケイン、バカ!」
ベルーゼは自分でも驚くくらいの速さで兎をケインから奪い取ると、そっと抱きしめた。
そんなベルーゼの様子を後ろでダスターとフォレストが何故か遠い目で見つめ、いきなりのベルーゼの行動に固まっているケインへペルが抗議するように噛みついている。
だが、ベルーゼはそんな後ろの騒ぎなど気にする余裕すら無いくらい兎にメロメロだった。
(もう、可愛い。この子、俺の従魔になってくれないかな?)
とりあえず、そっと撫でてみる。
『ガブッ!』
「イタッ!」
「「「「・・・・・・・・・っ!」」」」
どうやら、巣穴から出されたことがよほど怖かったらしく、ベルーゼは子兎に思いっきり噛まれてしまった。
ベルーゼは防御力だけは高いため、実際には全く痛みを感じなかったし、怪我もしていない。
それでも噛まれたことから反射的に痛みを訴えてしまった。
その結果、急に雰囲気が怖くなった者たちが若干四名。
「ほう、兎如きがワシの息子に牙を剥くとは、良い度胸だ」
「ん」
「コロス」
「ガルルルル!」
(あ、これはヤバい。四人からの負のオーラが尋常じゃない)
これは早く宥めなければこの兎が殺される。
そう察知したベルーゼは、慌てて声をあげる。
「み、皆落ち着いて!思わず痛いって言っちゃったけど、ほら、全然怪我とかしてないし、痛くもなかったから!ね?だから許してやって?」
「大丈夫だ、ベルーゼ。お前はどうせその兎を従魔にしたいのだろう?俺たちはそれを手伝ってやろうとしてるだけだ」
「そうだ」
「セットク、スル」
「ガルルルル!」
(いやいやいや、説得するのになんで武器が必要なの。しかも殺気が半端ないんですけど!)
このままだと本当にこの子兎は殺される。完全に暴走してしまっているダスターたちを宥めることを諦めたベルーゼは、仕方が無いので強行手段に出ることにした。
腕の中にいる兎へ、ばっ!と顔を向けると、なるべく緊張感が伝わるように真剣な表情を作り語りかける。
「ごめん、このままだと君の命が危ないんだ!今すぐ俺と契約して従魔になって!」
某マスコットキャラのようなセリフになったが、今は気にしている場合ではない。
兎が殺されるか殺されないかの瀬戸際なのだ。
しかし、悲しいかな兎はベルーゼの言葉の意味が理解出来なかったらしく、怯えるだけで反応を返さない。
どうしよう。そうベルーゼが途方に暮れた時、後ろからペルの酷く苦々しそうな声が響いた。
(ああ、これも駄目か。こうなったらもう俺が身体を張ってこの子を守るしかない。いくら暴走していても父上たちは俺を攻撃出来ないだろうし)
そう考え、より隙間なく兎を包み込もうとした時、兎と自分に少しの繋がりが出来たことに気がついた。
どうやら契約に了承してくれたらしい。
(でも、急にどうして?)
そんな疑問が浮かぶが、ふと思い当たって、後ろを振り向く。すると、至極不機嫌そうにしながら此方を意味有り気に見つめているペルと目が合う。
どうやら、彼がケインの時のように通訳を行ってくれたようだ。怒っていても自分の願いを叶えようとしてくれるとは、流石ペル!と、ベルーゼはこんな時だというのにひどく誇らしい気分になった。
例え、ペルに脅されたらしい兎の怯え方が先ほどよりも悪化していたとしても、それは二の次だ。
急いで契約を行い、この子は自分の従魔だから手を出すなと言えるようにならなければならない。
「よし、それじゃあ君の名前は今日からマシロだよ。よろしくね」
体が白いからマシロ。とても安直な名前だが、急いでいたのだから仕方ないと自分に言い訳をする。
ベルーゼが名前を告げると同時に、マシロの体が黒い霧に包まれる。
元々が白い分、その変化の違いは他の二匹の時よりも顕著なように感じる。
そして、霧が掻き消えた先に現れたのは、兎に似た生き物だった。
ぴーんと立っていた耳が頭の両脇でタレ。四足歩行だったものが、ミーアキャットのように立ち上がった状態になっている。
そして、ベルーゼが着ている服を参考にしたのだろう。彼とお揃いの黒いジャケットとズボンを身に纏っていた。
そう、その姿はまるでかの有名なピー○ーラビットのようでとても愛くるしい。
身体は以前より一回り程度大きくなっているものの、ペルやケインのように一気に大きくなっているわけでもなく、生きたぬいぐるみ然とした姿をしていた。
そんな兎の容貌に、ベルーゼの胸はきゅんきゅんとときめきが止まらない。
(なんなのこの子。本当に俺を萌え殺しにかかってるよね?ヤバい、ヤバいよ。これはもう俺、俺、もう!)
湧き上がる衝動を抑えることが出来なかったベルーゼは、土の上に下ろしてやっていたマシロへと手を差し伸べる。
「マシロ、ごめん。抱っこさせて?ね?お願い」
「きゅ?」
「ああああ、もう、もう、鳴き声まで可愛いとかなんなの。もう、俺、今死んでも良い」
「落ち着けベルーゼ」
「グルルル!」
「ガウ?」
「なるほど、確かに叔父さんと同じ。・・・・・・いや、それ以上か」
首を振って同意を示してくれたマシロを抱きしめてトランスしているベルーゼに、周りの者たちが様々な反応を示す。
しかし、ベルーゼはそんな声に答える余裕など微塵もなく、マシロの愛らしさに恍惚とした笑みを浮かべるのだった。
一通りマシロを愛でて満足したベルーゼは、恒例となりつつある適性診断を行うことにした。
マシロ
ランクE グレムリン
体力4
魔力3
物理攻撃3
物理防御5
魔法攻撃2
魔法防御3
敏捷5
回復1
補助1
属性
風
習得技
すなかけ 跳び蹴り 噛みつき
スキル 「一撃必殺」
敵の弱点を突くことが出来れば高確率で致命傷を与えることが出来る。
覚えている技や適性から考えると、マシロは見た目の愛らしさに反して格闘家属性らしい。
(こんなに可愛いのに。あ、でも、ウサギってジャンプが得意なイメージあるし、キック力は強いのかも。)
そう考えると、案外兎が格闘家というのも似合っているのかもしれない。
ベルーゼは、小さい身体に自分以上の攻撃力を秘めているらしいマシロへ尊敬の念を抱いた。
「すごいね、マシロ」
「きゅ?」
「あー、もう、可愛い~」
「ベルーゼ、その辺にしておきなさい。ペルとケインがヤキモチを焼き過ぎて焦げそうになっているぞ」
「へ?」
小首を傾げるマシロの愛らしさに再び悶えていると、ダスターの苦笑を含んだ声が投げかけられた。
ベルーゼがその言葉に顔を上げてみると、そこには今にも燃え上がりそうなほど嫉妬の炎をくすぶらせている二匹が見えた。
ちなみに、ダスターも苦笑を浮かべてはいるものの、その実雰囲気は剣呑なものだった。
どうやら、彼はまたやり過ぎてしまったらしい。
「ご、ごめんねみんな。ほら、ペルもケインもおいで?」
「グルルル」
「ガウ」
慌てて声をかけてみたものの、完全に機嫌を損ねてしまったらしい二匹は、ベルーゼの呼びかけてにすらそっぽを向く。
(これは本格的にやばいな)
頬を冷や汗が流れるのを感じながら、ベルーゼはどうにかこの場を乗り切る方法を考えた。
しかし、その間もマシロは決して離さない辺りがベルーゼの悪いところだろう。
実際、ベルーゼのその行動に二匹とダスターが更に機嫌を損ねていることにも気づかず、ベルーゼは必死で考えを巡らせる。
(こうなったら、あまりやりたくないけど、あの手しかないかな)
ベルーゼは覚悟を決めると、他の者たちから顔が見えないように下を向いた。
そんな彼の行動に、ダスターたちが訝しげに眉を寄せる。
「………ごめ」
「ん?」
「ひっく、ごめ、なさい」
「なっ!」
まばたきを我慢することで溜めた、今にもあふれんばかりの涙を見せつけつつ、震える声で謝る。
これぞ、ベルーゼの最終兵器「泣きまね」である。
これはやり過ぎると威力が半減する。と、前世でクラスの女子が言っていたので、普段はあまり使わないよう心掛けている。
本当に困った時の奥の手だ。
「べ、ベルーゼ、どうした?なんで泣いているんだ?」
「だって、おれ、が、わるいこ、だから、みんな、おこ、って。ひっく」
「だ、大丈夫だ!誰もベルーゼのことを怒ってなんかいないぞ、な?」
「オコッテナイ(ウサギには怒ってるけど)」
「ガウッ!」
「きゅ」
フォレストも含めた全員がベルーゼを心配そうに見つめる。そんな彼らの様子をそっと観察し、どうやら上手く怒りを逸らすことに成功したようだと、ベルーゼは内心胸を撫で下ろす。
本当に心配そうにしている彼らに少しの罪悪感を感じたベルーゼは、ダスターたちに撫でくり回されることにした。
髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまったが、ダスターたちに構われるのはベルーゼにとって幸せなので、その時間を堪能した。
だが、あまりのんびりしていると、夜になってしまうため、名残惜しさを感じつつ、ほどほどのところで切り上げる。
その騒動のおかげでダスターたちはマシロへの怒りがうやむやになったらしく、ベルーゼがマシロを抱っこしたままでも特に何か言うことはなかった。
ペルの上に跨がり直し、ベルーゼは再び先王の家へ向けて出発する。
上へ登るに連れて気温が下がってきたが、マシロの毛皮に顔を埋ずめ、身を低くしてなるべくペルへくっついているベルーゼに死角は無い。
(もふもふパラダイス、もとい天然の暖房の出来上がりー♪なんてね)
暖かく心地よい毛皮の感触にベルーゼは上機嫌だ。そんな彼の側へ、珍しく尻尾を垂らしたケインが寂しそうな表情で寄ってくる。
「ガウゥ」
「よしよし、ケインも側においで~。うふふ、幸せ」
「良かったな、ベルーゼ」
心底幸せそうなベルーゼに、どこか遠い目をしながらダスターが声をかける。
そんな兄と甥を何度か見比べた後、フォレストが些か複雑そうな表情で口を開いた。
「・・・・・・ベルーゼは、ベルグマン叔父上の子供じゃないのか?」
「そこは間違いない。リリスは常に俺の側にいたからな。どんなに叔父上に似ていても、ベルーゼは俺とリリスの子供だ」
きっぱりと言い切るダスターに、嘘は言っていないようだと感じ取り、フォレストは無言で頷く。
そんな二人の会話をちゃっかり聞いていたベルーゼは、自分に似ていると言うベルグマンとはどんな人物なのだろうかと、まだ見ぬ叔父へ思いを馳せた。
ここまで閲覧していただきありがとうございます。
また新たに動物が増えました。これの下書きを書いている頃に丁度テレビで兎特集をやっていて、あ、これ丁度良いじゃん!という軽いノリで作られたキャラですが可愛いがってあげてください。




