第16話
先王たちがいるところはドワーフ王国国内ではあるものの、王都からは遠い山の山頂。そのため、ベルーゼたちは近くまで馬車で向かうこととなった。
留守番をするロシンへ手を振り、馬車へ乗り込んだベルーゼは、馬車の中では叔父の膝の上に乗せて貰おうと、先に乗り込んでいたフォレストへと近づく。
せっかく人柄が分かってきたので、この機会に仲良くなっておこうと考えたのだ。
「叔父上、抱っこして貰ってもいいですか?」
「えっ?」
ベルーゼの言葉に、ダスターが信じられないというような顔をする横で、フォレストも驚いたようにきょとんと目を丸くする。
どうやら、先程までの甘え具合から、フォレストもベルーゼはダスターの膝に乗ると思っていたようだ。
彼等の態度から、自分はやはり周りから見てもファザコンなのだなと感じ取り、ベルーゼは苦笑する。
「叔父上には滅多にお会い出来ないので、今の内に沢山触れ合いたいんです。・・・だめ、ですか?」
「・・・・・・・・・問題ない」
「わーい!ありがとうございます」
駄目押しに上目遣いでお願いしたところ、どうにか了承を得ることが出来た。フォレストの沈黙が些か長かった気もするが、ベルーゼは遠慮なく膝の上にお邪魔する。
そんなベルーゼに、どう接したらいいのか分からないのだろう、フォレストはうろうろと手を彷徨わせた。
(叔父上ったら可愛い)
ベルーゼはそんな叔父の様子にくすりと笑うと、その手を当然のように自分の腰へと回すように誘導する。
何時もだったらそんなことまでは流石にしないのだが、このコミュニケーションが苦手な叔父に任せていては何時まで経っても仲良くなれなさそうなため、ベルーゼは何時もより積極的に行動することにした。
そんな二人を、ダスターとペルが凄い形相で見ていたが、そこには気づかないふりだ。
(ああいう時の二人は、まともに相手にすると疲れるんだよね)
無邪気にご満悦な笑顔を浮かべておけば、ベルーゼに甘い二人のことだから割り込んだりはしないだろう。
そんなベルーゼの推察は見事に当たり、馬車での移動の間。ベルーゼは誰にも邪魔されることなくフォレストと話をすることが出来た。
フォレストが弟子入りしている鍛冶屋の話に始まり、その鍛冶屋がある国の話、果ては昔のダスターの話など、ベルーゼは興味の赴くままに質問する。
それにフォレストが言葉少なに答え、補足する情報をダスターが教えてくれる。
それを、ベルーゼとペルは楽しく聞いた。
初めの内はフォレストにベルーゼを取られて拗ねていたペルだが、知識を吸収するのは大好きなので、最終的にはベルーゼよりも熱心に質問をするようになっていた。
因みに、ケインはじっとしていることが出来ずに暴れたため、ベルーゼが最近覚えた『睡魔の誘い』という闇魔法で眠らせている。
ベルーゼの言うことすら聞かずに暴れ回ったケインには、流石のベルーゼも困惑した。やはり彼には躾が必要なようだ。
これはどうやら、フォレストが言っていた通り、ベルグマンに良い方法が無いか聞くべきなのだろう。
しかし、初めて会う相手に、いきなり躾のコツなど教えてくれるものだろうか?
そんな不安が頭を過ぎり、どうやって話を切り出そうかとベルーゼは頭を抱えた。
そうして時は過ぎ、夜になってからようやく山の近くへとたどり着いた。
しかし、ここから先は馬車が通ることが出来ないため徒歩になるが、夜の山は魔物が多く活動していて危険だ。
そのため、一旦ここで野宿をし、早朝に山へ登ることになった。
人数が少ないため、テントなどは用意していないが、馬車は魔除けの魔法が込めてあるので、弱い魔物は寄せ付けない。
更に、魔物が近づけば気配察知の魔法具がけたたましい音を立て、少数ながら連れてきた精鋭の兵士たちが片付ける手筈となっている。
Cランク以上の魔物が群れでやって来れば流石に彼等でもきついが、ダスターが加わればAランク以上の魔物でも出ない限り問題はない。
そう説明されたものの、ベルーゼは心配を拭いきれなかった。
以前出掛けた時には今回の倍以上の兵士たちが居たため、よほどのことがなければ大丈夫だと思えたが、今回は片手で数えられる人数しかいない。
もし、気配察知の魔法具が発動するのが遅れて彼らが全滅したら。
そう想像すると身体が震えた。
ダスターが強いことは知っているし、信頼もしているが、彼だって無敵では無い。
リリスの時のようなもしもがいつ起こっても可笑しくないのだ。
そんな不安が急に込み上げてきてしまい、ベルーゼは膝を抱えた。
その時に見えた不安で強張る指に、ベルーゼは、こんな状態でよくも実戦練習がしてみたいなどと言えたものだと自分を嘲笑う。
あまりの不安に、眠るに眠れなくなった彼は、仕方なく、自分へ睡魔の誘いをかけることにした。
勿論、爆睡して足手まといになるのは嫌なので、ケインにかけたような強力なものではない。
精々、大きな音がすれば起きれる程度の浅い眠りへ誘うものだ。
だが、その心配は結局杞憂に終わった。
どうやら、朝まで強力な魔物が近づくことはなかったらしく、一度も起こされることがなかったのだ。ダスターなど、ベルーゼの横で高いびきをかいている。
そんな父の姿に脱力したベルーゼは、少し強めに彼を叩いて起こすと、そのまま彼を伴って馬車の外へ出た。
「うーん、空気がおいしい」
「そうだな。ケインではないが、やはりずっと座りっぱなしというのはキツい」
「ガウッ!」
ダスターの言葉に同意するように嬉しそうに鳴いたかと思うと、ケインは起き抜けだというのに、元気一杯に駆けて行った。
(駄目だ、全然反省してない)
暴れた時にあれだけきつく叱ったというのに、ケインはいっこうに分かっていなかったらしい。
尻尾を千切れんばかりに振り回しながら、先に起きて散歩をしていたらしいペルへ突撃している。
そんな愛犬の様子に、ベルーゼは深いため息をつく。
しかし、すぐに思い直し、暗くなりそうな気分を吹き飛ばすように強く頭を振る。
(いや、こんなことじゃ駄目だ。飼い主である俺がしっかりしなくちゃ!ようやく手にした自分だけの従魔なんだ。こんなことで挫折してどうする)
ベルーゼはネガティブになりがちな思考を振り払い、自分を無理やり鼓舞すると、気合いを入れ直した。
「おーい、ベルーゼ!そろそろ出発するぞ」
「はい!」
そこへちょうどダスターに声をかけられ、自分の世界から帰ってきたベルーゼは、父親たちとだいぶ距離が出来てしまっていることに気がつき、慌てて駆け出した。
朝食後、さっそく山の中へ入ってみると、そこは思いの外薄暗かった。
どうやら、周りの木が太陽を遮っているのが原因らしい。
この山は魔物が多いことで有名なため、滅多に人が訪れない。
精々ギルドからの依頼を受けた冒険者が偶に訪れる程度だ。そのせいでほとんど道が整備されていないため、木も生い茂り放題というわけだ。
ギルドがもっと盛んだったならば、もう少し訪れる人も多いのだろうが、ギルドの大半を占めているのは人間である。
その点、この大陸に住んでいる人型の生き物はドワーフとホビットが大半を占めているし、彼らはギルドをあまり利用しない。
そのため、この大陸ではギルドはあまり盛んではないのだ。
盛んと言えるのは、精々特産品を買い付けにやってくる商人ギルドくらいのものであるが、珍しい特産品が有るわけでもない場所に、彼等はわざわざ潜ってなど行かない。
そのため、この山を訪れる人は少なく、静かに試作に耽るにはうってつけの場所であった。
(だからお祖父様たちはこんなところに移り住んだんだろうな。ここだったら国の行事に出て下さいって言い来るのも大変だろうし。ああ、いきなり物陰とかから魔物が出てきたらどうしよう。とりあえず土壁で戦いが苦手だって言ってた叔父上も一緒に守った方が良いのかな?)
そんなことを取り留めもなく考えつつ、ほぼ未開拓な山の中をベルーゼはダスターたちと共にテクテクと登って行く。
だが、ベルーゼの予想に反して、魔物は一切現れなかった。初めはいつ魔物が現れるかと緊張していたのだが、山の中腹まで歩いても何も現れないため、ベルーゼは拍子抜けした。
そんな彼にダスターが説明してくれたところによると、これだけ人が多く、そのうえほとんどがAランクのドワーフで、Sランクのベルーゼまでいるような集団を襲うような魔物はそうそういないらしい。
そう言われてみると確かに、このパーティーを襲うようなやつはAランク級に強いか、ランクの違いも分からないくらい馬鹿なモノくらいだろう。
(そんなことにも気付かないなんて)
「・・・強い魔物は、ベルグマン叔父上が全部調教してるだろうけど」
珍しくベルーゼから目をそらしながら、ダスターが小さな声で呟いた。
しかし、ちょうど自己嫌悪に陥っていたベルーゼは、ダスターがボソッと呟いた不穏な言葉に気づくことはなかった。
ここまで閲覧していただきありがとうございます。
今回は元々書いていた話がやたら長くなってしまったので、今回と次回投稿分の二つに分けたのですが、その結果中途半端なところで終わってしまいました(汗)
あと、割と気に入っているキャラなので、早くベルグマン叔父上を出したいんですが、筆が思うように進まないですorz
一応彼はモブキャラなんですが、登場したら可愛がってあげていただけると嬉しいです。
作者も早く彼を登場させられるように頑張ります




