第15話
魔法の訓練を初めて一年。ベルーゼたちはだいぶ魔法の扱いが上手くなり、初級魔法ならば使いこなせるくらいにはなっていた。
そうなってくると、暗殺に怯えているくせに実戦で試してみたいという気持ちがふつふつと湧いてくるのだから不思議なものだ。
しかし、相変わらず過保護な周りの様子を鑑みるに、それはまだまだ無理そうである。
最近は、このままだと大人になっても独り立ち出来そうに無いなあ、とベルーゼは少々諦め気味だ。
ベルーゼとしてはせめて一人で外出くらいさせて欲しいのだが、かと言って良い案が浮かぶわけでも無い。
そんな中、長年音信不通だった祖父たちからいきなり手紙が届いた。
『よう、ダスター久しぶりだな。お前の息子はデカくなったか?とんでもないものが出来たから、ついでに孫の顔見せに来い』
(俺はついでですか)
手紙の内容に、ベルーゼはついついじと目になる。
見たことも無い孫よりも趣味で作った作品の方が重要度が高いと言う気持ちは理解出来なくはない。
しかし、それでも普段蔑ろにされることが少ないベルーゼには少々ショックな出来事だった。
そんな息子の様子をいち早く察知したダスターが慌てて声をかける。
「気にするな、ベルーゼ。父上たちはお前の愛らしさを知らないからこんなことが言えるのだ。お前がリリスそっくりだと知ればワシ同様に溺愛するようになるさ」
「そうですね。なにせ、リリス様を妻だと紹介したダスター様へ『でかした!』と褒め称えた方々ですから」
ダスターの言葉に、ロシンもフォローらしき言葉を紡ぐが、その目はどこか遠い。周りを見ると、他の家臣たちも同じような『あの頃は大変だった』という表情をしている。
どうやら、ベルーゼの祖父たちは相当な難物のようだ。
家臣たちの反応からそう判断したベルーゼは、会う時には心の準備をしておかなければと胸に刻んだ。
また、祖父たちへ会いに行くにあたり、ついでに叔父のフォレストも呼ぶこととなった。
「アイツもこんな機会でも無い限り帰って来んからな」
というのがダスターの言い分である。だが、ベルーゼは知っている、実はダスターが結構なブラコンであるということを。
ポルンたちどころか、祖父たちにすら手紙を送らないような筆無精のダスターだが、フォレストにだけは頻繁に手紙を出しているのだ。
しかも、フォレストから手紙の返事が来なかったら何かあったんじゃないかと会いに行こうとする。
だが、王様がそう易々と城を留守に出来るはずも無く、兵士が変わりに様子を見に行って、『兄上、ウザイ』という趣旨の手紙を持って帰って来るのが常だ。
その手紙を見て意気消沈しているダスターを宥めるのはいつもベルーゼの役目である。
ダスターにあれだけ大切にされているフォレストには少し嫉妬心が疼く。
だが、その反面ダスターに構われ過ぎて『ウザイ』と思う気持ちも分からないでも無いので、共感もしている。
そんな相手なため、ベルーゼは叔父に会うことへ複雑な感情を抱いた。
(きっと父上は普段会えない分、叔父上を構い倒すはずだ。それをいかに邪魔しつつ、父上に嫌われないようにするかが問題だ)
息子がそんなことに頭を悩ませているとも知らず、ダスターはたいへんご機嫌である。
そんな父の様子を見てため息をつく。そんなベルーゼへ、ペルが気遣うようにすり寄ってきた。
「アイショウフ?」(大丈夫?)
「・・・うん。大丈夫だよありがとうね」
「グルルルル」
「ガウッ!」
心配そうな表情のペルを安心させようと、背中をゆっくりと撫で上げる。すると、ケインが僕も!というようにもう片方の手へ自ら身体を擦り付けた。
ケインはペルのように話せる訳では無いが、思考がとても単純なため何を考えているのか直ぐに分かる。
ペルたちの様子に、ベルーゼは今落ち込んでいても仕方がないと気分を切り替えた。
(とりあえず今は、二人の毛並みを堪能しよう)
「お久しぶりです、叔父上」
「ん。久しぶり」
愛する従魔たちを思う存分愛でることで気分を盛り返したベルーゼは、やって来たフォレストへもきちんと挨拶が出来た。
だが、フォレストは相変わらず口数が少なく、表情も殆ど動かないため、今までに一度しか会ったことの無いベルーゼには何を考えているのか全く分からない。
しかし、ダスターには少しの表情の変化で読み取れるらしく。
「機嫌が良さそうだな。やはり父上たちの作ったモノが気になるのか?」
「ああ」
「そう逸るな、せっかく外へ出るのだからベルーゼに城外の空気を堪能させてやってくれ」
「そうか」
「落ち込むなよ。出来るだけ急いでやるから、な?」
と、そんな会話を繰り広げている。
そんな光景は、ベルーゼには完全に二人の世界を構築しているように見えた。
とんでもなく強力な敵の出現に、ベルーゼは戦慄する。
このままではダスターの膝の上すら取られかねない。
そんな焦燥を抱いたベルーゼは早急に対処するべく、必殺技を繰り出すことにした。
「父上、抱っこ!」
「お?どうしたベルーゼ」
「抱っこして欲しいの。だめ?」
「そんなわけないだろう!ほら、おいで」
「わーい!」
半ば本気のベルーゼの涙目がダスターに効果が無いわけがなく、ベルーゼはすぐさまダスターに抱き上げられた。
その様子を、フォレストは呆れたような目で見ていた。
「兄上。親バカ丸出し」
「何時ものことです。早く慣れた方が楽ですよ?」
「そう」
「おい、お前たち聞こえているぞ!」
ロシンとフォレストの酷い言いぐさに、ダスターが怒る。しかし、二人はそれにこたえた様子は微塵も無い。
飄々と受け流す二人へ、更に怒るダスターはまるで子供のようだった。
やはり、幼なじみである三人の間に割り込む隙は無さそうだ。
(むう、なんて手ごわいんだ)
必殺技を流され、どうしようもなくなったベルーゼは、ダスターの胸元へと顔をグリグリ押し付けた。
暫くして三人の話に区切りがついたようで、ようやく外出することとなった。
ベルーゼはダスターの腕からペルの背中へと移る。
ケインも乗せたがっていたのだが、ケインは乗っている方のことを気遣えないため、乗り心地が非常に悪い。
なにせ、ベルーゼが乗っていてもお構いなしで飛び跳ねるのだ。
何度か乗せて貰ったことがあるベルーゼだが、舌を噛んだり振り落とされたりしたため、今ではどんなにケインが乗せたがっても何だかんだ理由を付けて回避している。
断ると初めはしょぼんとするケインだが、切り替えが早いので、ちょっと頭を撫でてやれば忘れてしまう。本当に単純だ。
こんなにお馬鹿でこの子は大丈夫なのかとベルーゼが心配になるくらいである。
大人しくしてれば美しい色合いと立派な体躯が相まって神々しさすら漂っているのだが、少しでも興味があるモノを見つけると途端に尻尾を千切れんばかりに振りまくってじゃれつくのだ。
ベルーゼとしてはそんなギャップがまた可愛いのだが、ロシンからはきちんと躾をした方が良いのでは?と進言されている。
ただ甘やかすだけでは飼い主として失格ですよとまで言われてはベルーゼも反論出来ない。
確かに、全く躾をしないままではいつか人を襲うなんてことにもなりかねない。
ここは頑張ってケインを馬鹿犬から躾の行き届いた凛々しい犬にジョブチェンジしなくては。
そう決意を固め、ひとまず基本の待てから練習中だ。
しかし、これがまた難しい。一応ベルーゼの命令は聞くのだが、集中力が続かないらしく、ケインはすぐに動いてしまうのだ。
現在の最高記録は10秒である。せめて1分はいきたいと思っているため、先は長い。
どうしたものか、とチョウチョを見つけてじゃれているケインを見つめつつ、ベルーゼはため息をつく。
「どうした」
「へ?」
「ため息」
「あ、いえ。・・・実は今ケイン、あそこで遊んでいる犬の躾をしているのですが、中々上手くいかなくて」
「そうか」
「はい」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
(き、気まずい!なんなの?なんでいきなり黙るの?何かアドバイスとか感想を言うとかしてくれると思ったのに、いきなり黙られたらこっちも黙るしかないじゃないですか!)
叔父と話す機会かと期待したのもつかの間、ベルーゼはあまりの気まずさに冷や汗をかく。
そんな彼らを何故かダスターとロシンが微笑ましそうに見ている。
(いや、父上。そんな付き合いたてのカップル見守る人みたいな顔しないでください。寧ろここはあなたが率先して俺たちの間を取り持つべきでしょう!)
そんな息子の心の叫びは届かず、暫しの間沈黙が流れたが、唐突にフォレストが再び口を開いた。
「躾なら、ベルグマン叔父上が得意」
「えっ?」
「そうだな、ベルグマン叔父上は魔物使いだ。躾の事なら彼に聞くのが一番だろう」
「ん。叔父上は父上と一緒にいる」
(あ、これってつまりお祖父様へ会いに行くついでに聞けば良いってアドバイスしてくれてる、のかな?)
「あ、ありがとうございます叔父上。向こうへついたら相談してみます」
「・・・・・・・・・」
とりあえずベルーゼがお礼を言ってみると、フォレストの表情が少し緩んだ、気がする。
相変わらず無言ではあったが、先程のやりとりで、ベルーゼはフォレストが悪い人では無いことがなんとなく分かった。
とりあえず、叔父と話す時には足りない言葉を補って、叔父が話すまで待つ必要があるらしい。なんとも分かり難い人だ。
(でも、嫌いじゃない)
ベルーゼはそれが伝われば良いなあという意味を込め、とびきりの笑顔を浮かべた。
「・・・っ!」
(ああ、これは落ちたな)
(ヴー、ライバル、フエタ。ベルーゼ、ウワキモノ!)
笑顔を向けると、突然真っ赤になったフォレストの様子にベルーゼは首を傾げる。
それに伴って機嫌の悪くなったペルが唸り、ダスターが呆れたような感心したような微妙な顔をする。
そんな周りの視線を受け、フォレストは更に恥ずかしそうに頬を染めた。
空気が変わったことに気づいたらしいケインがどうしたの?と不思議そうな顔で寄ってくる。
それを撫でながら、ベルーゼは突然ぎこちなくなった空気に一人首を傾げるのだった。
ここまで閲覧していただきありがとうございます。
無口無表情男子攻めが大好物なため、少し趣味に走りかけました。
その割に無口男子の良さを表現しきれなくて無念だったので、フォレストが登場している間色々と試行錯誤してみようと思います。




