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魔王陛下の目指せ!モフモフパラダイス  作者:
第1章 幼児期編
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第11話

 結婚式が終了すると、式場はそのまま宴会場へと変貌した。

 城の使用人たちが急いで運び込んだ大きな幾つかの机の上に、国民がそれぞれに持ち寄った料理に加え、城のシェフが作った豪華な料理や酒樽が並ぶ。

 国民は皆この時を待ちわびていたのか、シェフが登場した瞬間には大歓声が沸き起こった。その盛り上がりようは凄まじく、いっそ、ポルンの結婚式の方がおまけだったかのように感じる有り様だ。

 ポルンが慕われていない訳では無い。寧ろ親しみ易いとホビットたちには好評だ。

 それでも結婚式がついでだったかのような反応なのは、この世界のホビットたちがお祭り騒ぎが大好きだということと、結婚式で静かにしていた分の反動が出たことによるものなので、仕方がないと言えなくもない。

 早速酔っ払って管を巻いている者、数人で集まって歌や踊りを始める者、腹がはちきれんばかりに料理を食べる者と、会場は開始数分にして既に混沌とした様相を呈していた。


 そんな浮かれた空気の中、ベルーゼだけが自分へ送られる恐ろしい視線に怯えて縮こまっていた。

 その視線はあからさまなものではないのだが、粘っこく、いつまでもまとわりつくような不快なものだ。

 似た視線を、敵対している家臣たちから送られるのは日常茶飯事だが、これは似ているだけで種類が違う。

 なんと言えば良いのかベルーゼには分からないが、怨念と言う言葉がしっくりくるような禍々しくドロドロとしたものが混ざっているように感じられ、こちらの視線の方が彼にはよほど恐ろしい。

 たかが矢の一本如きでここまでの恨みを集めることになるとは想像もしていなかったベルーゼは、困惑するしかなかった。

 さらに、そんな視線を向けてくるのが女の人だということもベルーゼを戸惑わせる。

 ベルーゼには分からなくて当然なのだが、これについては視線を向けて来ている者たちがベルーゼを女の子と勘違いしていることがきっかけとなっていた。

 ようは、お前のような若い娘っ子にそれは必要ないだろう、という考えから生まれた嫉妬だ。そしてそれは彼の美しい容姿や、勇ましい英雄にチヤホヤされている様子などによって増幅されてしまい、現在のような状態が生まれてしまった。

 ベルーゼにとってみれば完全なる八つ当たりである。


 そんな理不尽な理由だとは知るよしも無いベルーゼは、兎に角現状を打破しなければと、頭を捻る。

 だが、打開策がそう簡単に思いつくわけもなく、考え疲れた彼は無意識の内に癒やしを求めてペルの方へと視線を移す。

 すると、普段ならば真っ先にベルーゼを守ろうとするお兄ちゃん気質のペルが、あまりに粘っこい視線に怒りよりも恐怖を感じたのか、怯えて震えているではないか。

 ベルーゼにはそれが親猫からはぐれてしまった子猫のような心許ない光景に見え、庇護欲をそそられた。


(ここで自分まで怖がっていては余計にペルを不安にさせる)


そう考えたベルーゼは恐怖で情けなくなっていた表情を慌てて繕うと、なんでも無い風を装ってペルの背中をそっと撫でた。


「らいろうふらよ、ぺりゅ。おれがちゅいてるからね」(大丈夫だよ、ペル。俺がついてるからね)


「ベウ、コアイ、ナイ?」(ベル、怖い、無い?)


「・・・・・・うん。こあくにゃい、こあくにゃいよ」(・・・・・・うん。怖くない、怖くないよ)


「全く、いい大人がこんな子供相手に大人げない。ベルーゼ、()()()だからって無理をせんでも良いんだぞ。怖いならば城に帰るか?」


 それまで相手が他国の国民ということと、女性ということがあり遠慮していたダスターが、見栄を張るベルーゼを見るに見かねて声をかける。

 その内容は、ベルーゼへ向けてのものと見せかけて、実はベルーゼを女の子と勘違いしている女性たちへ向けた言葉だった。

 彼の言葉を聞いて自分たちの勘違いに気づいた女性たちが気まずそうな表情をする。

 そのことに気づかないまま、ベルーゼは父親からの優しい言葉に、久しぶりに感情が暴走するのを感じ、抑える暇もなく涙を流した。


「う、ウエエエン、お、おりぇ、わりゃとらにゃいの、に」(う、ウエエエン、お、俺、わざとじゃないの、に)


「うん、うん。そうだな、お前は寧ろみんなの邪魔をしないように後ろに避けていただけなのになあ」


 泣き出した息子を抱き上げ、ダスターが優しく背中を摩る。その優しさにベルーゼの涙は止まるどころか次から次へと溢れてくる。

 そんな彼の様子と、ダスターから向けられる「家の子泣かせてただで済むと思ってんのか?」という殺気を込めた笑みに女性たちは縮みあがった。

 いくら恨み辛みで見境がなくなっていても、百戦錬磨の戦士からの殺気に一般人が耐えられるわけはない。

 更に、周りのホビットたちからも「そうよね、あんな赤ん坊相手に大人げない」だとか、「そんなんだから結婚できないんだ」という声が上がり始めた。

 一転して自分たちへ向けられ始めた冷たい視線に、女性たちは青い顔をしながらそそくさと会場を後にしていく。

 その後ろ姿に、流石に自分が殺気を放つのはやり過ぎだったかと反省しつつ、ダスターはそのことをおくびにも出さない明るい声色でベルーゼへと声をかける。


「ほら、怖い人たちはいなくなったぞ?そろそろ泣き止んでくれ」


「そうだね、せっかくの宴会で泣いていたらもったいないよ?」


「ごめんなさい。私が調子に乗って遠くに放ったから」


 ダスターの言葉に促され、ベルーゼが泣き止もうと努力していたところへ、それまで主賓であるがために下手に介入するわけにはいかず成り行きを見守ることしか出来ていなかったポルンたちが声をかけてきた。

 そのセレーナの声があまりに悲しそうだったため、ベルーゼが慌ててそちらへ目線を向けると、二人とも衣装を黒い礼服からこの国をイメージしたのだろう緑の衣装へと着替え、雰囲気は結婚式の時よりも明るくなっていた。

 しかし、服の印象とは裏腹に、セレーナの表情は声色と同様に悲しげで暗い。恐らく、自分の射った矢でベルーゼが泣くことになったことに責任を感じ、落ち込んでいるのだろう。


(これはいけない。折角の結婚式なのに、新婦さんを落ち込ませるなんて最悪だ)


 一番楽しそうにしていなければならないセレーナが悲しんでいることに慌てたベルーゼは、早く泣き止まなければと、グイッと涙を拭い、無理やり涙を止めた。

 そして、必殺技となっている満面の笑みを浮かべると、セレーナへ出来るだけ明るい声で答える。


「セレーナしゃんのせいらにゃいれすから、きにしないれくらしゃい。おれはもうらいしょうふれす」(セレーナさんのせいじゃないですから、気にしないでください。俺はもう大丈夫です)


「けど…」


「ほんとうにらいしょうふれしゆから。それに、せかくのけこんしきのひにしゅやくあかにゃしいかおをしてちゃらめれしゅよ?」(本当に大丈夫ですから。それに、せっかくの結婚式の日に主役が悲しい顔をしてちゃ駄目ですよ?)


「そうだぞ、セレーナ。そんなんじゃポルンと結婚するのはやっぱり嫌なんじゃないかって思われるぞ?」


「えっ!そんなわけないでしょ、好きでもない相手と結婚なんてするわけないじゃない!」


「ほお、そうらしいぞ」


「いやあ、こりゃまいったな」


 セレーナの言葉に、ダスターはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてポルンを軽く肘で小突く。それにポルンは、照れながらもあはははと、幸せそうに笑って返した。

 そんなダスターたちの様子から、自分がからかわれたことを悟ったセレーナは、まるで瞬間湯沸かし器のように一気に湯気を立てそうなほど赤くなった。


「ちょっと、からかわないでよ!」


「いやいや、お熱いことで。なあ、ベルーゼ?」


「そうれしゅね、ちーうえ。ふうふのなかあいーのはいーことれしゅ」(そうですね、父上。夫婦の仲が良いのは良いことです)


「もうっ!ベルーゼまでそんなこと言うなんて。心配して損しちゃったわ」


 ベルーゼにまでからかわれたセレーナは、拗ねたように顔を背ける。

 しかし、すぐに堪えきれないというように肩を震わせ始め、ふふふと笑い始めた。

 そんな彼女の様子に安心したベルーゼも、今度こそ心からの笑顔を浮かべ、宴会が始まった時とは打って変わった晴れやかな気持ちで宴会の楽しげな空気を心ゆくまで楽しむことにした。

ここまで閲覧していただきありがとうございます


今回の話は前回あげた話に入りきらなかった部分を少し膨らませただけなので短めになってしまいました。

お待たせしているのに申し訳ないです。

ちょうど良い長さの文章を書くのは難しいですね・・・。

精進します。

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