なかよくしましょう!
【僕とその他大勢と君と】のメイン二人の恋愛期間・成人後の話なります。最早ネタバレどうこうの域ではありませんが、甘ったるいのが苦手な方は回避して下さい。
特に何か致しているとかはないです。(そこは大事なのか???
特別待遇とは。
年明け早々大寒波で、雪なんか馬鹿みたいに積もって交通機関がすっかり乱れていた。外に出る予定がある人は大変だななんて言い合いながら、端からお籠もりコースだった自分達は撮り溜めておいた番組を消化して。幸い年末年始の休暇の後半には通常運行となったダイヤに安堵し、でも明日から仕事だなやだなと若干ブルーになったり。温かい鍋をつついて、シメのチーズリゾットも熱さにはくはくしながら腹に収めた。
おやすみなさい。おやすみ。休暇の間にちょくちょくあった、甘ったるい空気は翌日の事を考えていたせいか皆無。やっぱり仕事始めの日きちんと起きることを第一に考える者同士だからそんなものだろう。でもちゃんと知っている。朝、彼女がぎゅうっとこちらを抱き締めてからベッドを抜け出したのを。(寝坊しまいと気が張っていた所為かぼんやり目が覚めていたのだ。偶にこっそりかわいいことするよなホント。)
長年の付き合いになるがずっと変わらず大事な相手だ。だがしかし。年明けからそう経たないうちにやらかしてしまった。
――あー……最悪、
つまらない喧嘩なんかしてしまってテンションはだだ下がりだ。ようやく婚約まで漕ぎ着けて式の準備も滞りなく進んでいるところなのに。他人が聞けば実に下らなくて、ほんの些細な事だったと思う。けど、やってしまったものはどうしようもない。
好きな物でも手土産にして帰ろうか。メールで謝ろうか。やはり直接顔を合わせて謝るべきか。彼女の方からメールが来ないか。そうしたら様子を見て返せるのに。――何となく気になりつつも結局こちらからメールの文章も作れず、スマホが震えてもいない。
――こーゆー時ってどうしてんだっけな……
もしかしたらもう機嫌を直してくれているかもしれない。口喧嘩なんか昔から日常的にあった。だが、今回は【本気】な感じで怒っていたような。――ダメだ。考え出したら悪い方向にしか進んでいかない。「弥坂センセー。ここ、いつもより深いよ」と先輩教師――仲川に眉間の皺の深さまで指摘されてしまった。彼は年末に気力体力共に回復したらしい。しばしば雑談の中に出てくる彼女と充実した年末年始を過ごしたのだろうなとは容易に推察できる。……おかしいな。こっちも充実していたはずなのに何故今、喧嘩中なのか。
「何。その溜め息」
「……いえ、別に」
「なになに? 喧嘩でもした?」
言い当てられてしまった。しかも何でそんなにうきうきしているんだこの人は。
「珍しいなあ。弥坂センセーが怒らせたわけ?」
完全に【彼女と喧嘩している最中】という前提で話が進んでいる。仲川もだが、自分の周りの人間はどうしてこう、すれ違いが起きるとちょっと面白そうに経緯を聞き出そうとするのかまったく。
「……いつもならけろっとしてるのになっていう程度の口喧嘩ですし。つまんない話ですから放っといて下さい」
「おーっとお。そう思ってんのは男の方だけかもよ」
「あんたも男の側でしょうが」
「だけども! 油断大敵だよ。付き合い長いからってなあなあにしてマリッジブルーまでいっちゃったらもー女の人は大変なんだからさ」
冗談じゃなくて、実際間際になって何か違うなってなって別れた奴もいるんだよね。
結婚ラッシュの世代である。そして仲川は不思議と友人代表スピーチや二次会の幹事など頼まれるタイプの人間らしく「また頼まれてんだよなー何喋ろうかなー」とうんうん唸っており――かと思ったら案外するするまとめている。そんな中であれやこれやと小耳に挟むのだろう。良いことも悪い事も。
「一時大変でね〜新婦がヤバイかもって新郎がもっそい落ち込んでさ。でもまあ、ちゃんと聞いてみたらサプライズすんのにこそこそしてただけなんだけど。……そんでも、怖いよなあ。これから結婚して一緒に暮らそうってゆー相手とギクシャクしたら」
そのカップルは結果的に丸く収まって今は二人目の子どもを授かっている、と仲川は補足までしてはははと軽く笑った。
「とにかくさあ、早いとこ仲直りするに限るよ?」
言われずともそれは充分理解している。だからこれから謝罪メールの一通でも送って反応を待とうとしているのだ。
「えー? 電話のがよくない?」
「あっちも仕事してるんですよ」
「昼休みにでも電話した方がいいよ。メールとか返事待つのが焦れったいじゃん! LINEでも既読スルーとかあるじゃん! そんなのでもやっとすんのヤだろー? 仕事フツーにあるのにさあ、テンション上がんないよそれじゃあ」
女 子 か 。
「あーもー……わかりましたよ。電話。電話します」
「うん。ならよろしい」
自分の事でもないのにまあ親身なことで。ほっとけばいいじゃないですか人事なんだし、と呟いてしまった。
「だってさあ、皆幸せな方がいいじゃん」
「…………そうですか」
知ってるぞ。婚約したという話をした時に「ちぇー、弥坂センセーったら先に幸せ掴んでやんの〜いーなー」と面白くなさそうにしてたの。僻みというか何というか……まあ、仲川の事情は知っているからその反応でも別にいいけれど。
* * *
昼休みになって普段なら自席で昼食を摂るところを、今日は外に出ている。勤務先の学校と自宅が近いとはいえ帰るわけにはいかないので人目がなさそうな駐車場で電話をしようという次第だ。(帰っても小龍はいないし。)
スマホには相変わらず着信無し。はあ、と溜め息を吐きながら画面を切り替える。対策? 出たとこ勝負だ。悪いか。
喧嘩が起きるのにはいくつか原因があるもので、今回は多分受け答えの仕方が悪かったと思う。こちらが話半分に聞いて生返事してしまったのがまず一つ。彼女の機嫌がよろしくなかったのがもう一つ。ーー多分ブルーデーだったのだあれはーーそして油断があった。これくらいいつもの事だし、なんて。繋がるまでの間に反省点をさらっていたがまだ繋がらず。……忙しいのか。出たくないのか。メールにせよ電話にせよ相手の反応が無ければどちらも焦れったいには変わりないじゃないか、まったくもう。
「……出ねえな……」
しかししつこく粘ってみる。ふうん、とまた溜め息が漏れて、その分憂鬱になってきた。着信履歴だけ見てあちらから折り返してこなかったら? 帰ってからも雰囲気がよくなかったら? このまま長期戦に雪崩込んでしまったら?
ごめん、ちょっと距離置きたいんだけど。そんな言葉が彼女の口から出てしまったら?ーーぞっとしたところで、ぷつ、と回線が繋がった音。
『ごめん、気付かなくて』
おいお前初っ端から中国語でとか何だそれ。喧嘩上等、やる気満々か。曲解かもしれないが妙に意地になって、負けるかよとこちらも拙いながら同じく中国語で返す。
『今大丈夫か?』
『うえ、……うん。大丈夫。どうしたの?』
うえ、だけうっかり呻きやがった。(そう簡単にやられるかよ。)歩きながら話しているのか息が少し弾んでいるような気がする。移動中なのだろうか。
『その、謝ろうと思って。メールじゃなんだし電話した』
『……そお、』
その、そお、すらそっけない気がしてならないがめげてはいけない。めげてはならぬのだ、ここで。
『俺も言い方が悪かった。帰ってからちゃんと話せないかなとーー……とにかく、ごめん』
ええと、とか、あー、とか、言葉を手繰りながらだから実際はこんなにすっとは話せていない。でも彼女は聞いているようだし、伝わってはいると思いたい。
「……普通に言って?」
向こうからの言葉が日本語に戻った。……普通って何だ。
「ーーって、……どう……?」
「こーきのいつものがいい」
つまり、日本語でって事か? 自分から外国語を吹っかけてきておいてこれはーーちょっと機嫌が戻ったのか? ほんの少しだけめんどくさい……いやいや待て。ここでそんな感想を口に出してしまったらおしまいだろう。
「…………ごめん。帰ってから埋め合わせするから。お前今日は普通に帰れるのか?」
「……そっち、行こうかなって思ってたんだよね。私も、駄目だったなって……ええと、今外でさ。ーーっていうか、着いたっていうか……浩貴、外にいない? アレ、そう?」
…………おかしい。声が二回する気がする。何気なく視線を彷徨わせると、はたと遠目に彼女の姿が見えてぎょっとした。おい待て! お前仕事はどうした。
「シャオ!」
「あ、」
その後だ。外でなんちゅー顔をするんだあいつは。
ぱあっと笑顔が零れて、こちらに駆け寄ってくるのが何ともーー犬か。というかここまで来てどうやって落ち合う気だったのか一体。通話を切ってスマホをポケットに戻す。
「おま、何でこんなとこにーー」
「えっ。仕事外でだったし、お昼からはゆっくりだったから寄ってみようかと……」
行動力があって素晴らしいと言いたいところだが、これは……偶々外にいたからよかったものの、こちらが校舎内にいたら呼び出す気だったのか恐ろしい。ーー弥坂先生、来客です。そんな放送が流れたらたちまち同僚が「彼女じゃない?」なんてにやにやするに決まっている。
「よかったあ、会えて」
「そりゃあよかった。……お前なあ……ホント、偶におっそろしい事するな……」
「え、あー……いや、出たとこ勝負だったんだけど結果オーライ?」
お前もかよ。いやでもまあ、今回はそれで上手くいったのだから結果オーライ?
お疲れ、とよしよししてやるとまた何とも言い難くなった。今度は猫かこいつ。本当にもうーー……参った。これぐらいでそんな嬉しそうな顔をされると困る。
「ごめんって、メールしようと思ったんだけどね。やっぱりちゃんと言わなきゃなって」
「あー……でもお前、何で中国語喋ったんだ最初」
「や。何か後ろからつけられてるっぽかったんだよね。男の人。私が外国人だって思ったらいなくなってくれたみたい」
そんな話を聞いて平気な顔をしていられる奴がいたら説教してやりたい。思わず眉間に皺が寄ったのを小龍はびくっとしていた。どこのどいつだそれぶん殴るぞ。撃退法として有効だったからよかったものの、世の中物騒なのだから気を付けてほしいものだ。
「怒ってると思った?」
「ああ、まあ。……違ったならいいけど……」
帰りが心配だなというのは表情で伝わったらしく、彼女が「帰りは平気。ちょっと走って大通りまで出ちゃえば」なんて言う。……今日はヒールがぺたんこの靴だし彼女の足ならそう辛くもなかろうからまあ、いいか。
「気を付けろよ。ホントに」
「うん、大丈夫。……ちょっと怖かったんだけど、丁度電話掛かってきたから助かっーー……」
「弥坂センセー、よかったね~」
頭上から降ってきた声にばっと顔を上げる。仲川と他の教職員が何人かひらひら手を振っていて、うわあ最悪、としか思えなかった。何もよくない。良くないんだあんたら何してんだそんな所で!
「ゆっくりどうぞーって言いたいけど、ごめーん。外線だよー折り返してくれってさー!」
他校の某か。それとも教材を相談していた会社の某か。誰にせよままある事だ。しかしこのタイミングは何なのだろう。おかげで彼女といる所をバッチリ見られてしまったじゃないか。
「わかりましたどうもご親切にっ!」
ヤケクソになって声が荒くなったのは仕方がなかったと思う。
「はいはーい。こちらこそいいもん見せてもらいましたごちそうさまー」
仲川のあのにやにや顔が腹立たしい。本当にもう。今日は悪い日なんだか良い日なんだかわからなくなる。
「あー……じゃあ、悪い。戻らねえと。帰ってからちゃんと。な」
「んーん、ごめんね。ありがと。会えてよかった。仕事頑張ってね」
帰ってから改めて、と彼女がにこにこしながら去ってゆくのだけは見送って急いで職員室に戻る。ーー仕事だ。仕事に戻るのであって冷やかしはスルー。それに限る。
「弥坂センセーの奥さんはすごいね。仕事してるんだよね? 昼間わざわざ出てくるなんてなかなか出来ることじゃないよ」
「ねー、愛だね愛。旦那さん冥利に尽きるね!」
「尻に敷かれそうだなー弥坂先生。見た事ないもんなあんなデレッとしてたの」
仲川を始め、野次馬に出ていた面々が感心しきりなのに耐えるのが午後イチの仕事になってしまった。ーー頼むから放っておいてほしい。まだ嫁でも旦那でもないし。デレッとなんかしてないぞ俺は。外線からのメモを手に仏頂面で電話。遣り取りの声に微妙に不機嫌さが滲んでしまったのは仕方が無いと思ってもらいたい。
仲直りなんてものはお互いの歩み寄りの気持ちでどうとでもなるものらしい。その日は帰ってからたんまり甘やかして、こちらも甘やかされたのは、絶対に、絶対に言わない。顔にもどこにも出すものかこんなの。
「浩貴が外国語話すのってそんなにないから、ちょっと面白かったなあ」
偶にはいいなあ、とくすくす笑う。こっちは必死で喋ったのに全くーーああもう、彼女(もうすぐ嫁さん)がかわいくてツライ。
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個人サイトには掲載したやつ…だったかどうかはあやふやですが、加筆修正もしたのでよしとしました。(ぇ…
デレッとする時はとことんなんだうちの男連中は!ね!!
ちっとでも楽しんでもらえたら嬉しいです。




