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いきるいろ―blue―

即興小説トレーニングより。

お題:戦争と娼婦


「いきるいろ」の前振りに丁度よかっただけの240分とお題だったので乗っからせてもらいました。時間制限付き&深夜クオリティ…


皆して名前が無いのは仕様です。好きなキャラで置き換えできて楽しくならないかなあってゆー(自分の中にはぼんやりあるらしい




 おちる前の話をしよう。



 英雄色を好むとはいうものの果たしてこの現状は如何なものか。店を貸しきり周りに女性をはべらせどんちゃん騒ぎである。戦果を得た後にありがちな風景。酒や料理は馬鹿みたいな量で、しかし一般人まで混ざってしまったここではそれでも追っつかないといった感じだ。――我が上官ながら、阿呆どもか。

 この場で眉を顰めているのは多分自分と、もう一人。


「やーえらいこっちゃのお。コレ誰が片すねん?」

「……知らん」

「知らんてそんなん。言いながらオマエいっつも片す子ぉやんけ」


 にやにやしながらグラスを傾ける。琥珀色の酒。喉がちりりと焼ける感覚にきゅっと顔を顰めて「うまあっ、」なんて。隣の男は気がしれないと言いたげにちらりと一瞥くれた。この、呑んだ感覚が好きなのだから勝手にさせろよと思う。


「オマエ、飲まんのか」

「ああ」


 この男、酒は飲めるが好きなわけではない。それより水や茶がいい。食べる物の味がきちんとしていないと食べた気がしないのだといつだったか話していた。酒があってこそ旨くなる物もあるのになと同期らと笑っていたものだ。



 正直、これまでの戦況を思えば今日の戦果は奇跡的なものであった。様々な事が重なっての結果が自軍には好機となっただけで、今後この波に乗れるか否かは自分らにはわからない。上官に従うしかない立場なのだからそれもそうかなと思う。

 やあやあと賑やかな中で自分とこの同期の男とはやけに冷静だった。 


「……なあ、どういう気分なんや?」

「何を」

「上官様に、手柄持ってかれるようにうまいことやって身ぃ引いたんちゃうんけオマエ。あんだけやったら褒章もんちゃうん?」


 何でや、と目で訊く。


「俺は何もしてないぞ。…してたら、今頃こんな所にいないでさっさと寝てる」

「うををを……さらっと【馬鹿騒ぎに付き合わされんのめんどい、はよ寝かせんかいボケェ】って言いよるコイツ! 怖いもん知らずな……!」

「お前、そのヘンテコな代弁やめろ」

「何でや。当たっとんちゃうん」


 ふ、と嗤う気配。――ほれ見い。当たっとる。

 ついでに、褒章云々の話ははぐらかされた。この男は本当に出世欲というものに欠けている。何のために隊にいるのか、長い付き合いになるが未だによくわからない奴なのだ。


「まーなあ、ええんやけどさぁ…」ゴクリ。「しっかし勿体ないな。オマエ士官時代からめっちゃ出来る子ぉやのに大人しぃしよるのはわざとなんか」

「それ、そっくりそのまま返す」

「返されても。オレはいつもいっぱいいっぱいやでマジで」

「白々しい、」


 相手はにっと口元を吊り上げる。

 上に行くと今の【自由】が無くなるから。それは自分の理由であって、相手は違う。さてこの冷徹男がアツくなるのは一体いつなのか?


「オレばっか喋らされるんは狡いやんけ」

「勝手に喋ってるだけだろ」

「そんでもよ。――あーそうか。いらん事言いそうになるから飲まんのかオマエは」

「さあな、」


 かわいくないしつまらない男だまったく。


「――ところで。ぼちぼち抜けんか。もうちょい落ち着いて飲みたいわ、オレ」

「抜けるのはいいけど帰らせろ」

「なんでよーーー付き合えよー」

「…………」


 全力でウザい。そんな沈黙と厳しい目つきだったがそんなもの慣れっこである。



 うまいことやったるから、と相手をせっついてまだまだ終わりそうにない酒宴から抜け出した。空を仰げば夜のくせに、地べたは照明で煌々と照らされて眩しいくらいだ。これだから都会は。

 道中も話を繋いでどうにか引っ張ってきた店の前で、相手は「……帰る」とぽつり。


「待てって。馴染のおるとこなんやここ。頼むわ、一人で顔出すんはちいっと気恥ずかしいもんでさ」


 嘘ではない。昔世話になった商家の娘がここを営んでいる。娘といっても自分からすれば叔母のような人で、快活で多分口では一生敵わない相手だ。


「こういうのは、いい」

「だから! フツーに飲んでけばええだけやから! 何もなくていいから!」


 本当かよ、と痛い視線。


「とにかく。なっ。なっ! フツーの飲み屋やから!」

「…………はー……」


 愛想の欠片も出さないぞという態だが、折れたならよし。店の扉を引くとカランと小さな鐘が音を立て、続いて「いらっしゃいませ」と涼やかな声。カウンターの中の女がひゅっと器用に眉を持ち上げる。


「おやまあ、」

「どうも。姐さんご無沙汰」


 この人には【おばさん】ではなく【姐さん】と呼ぶように仕込まれた。大分顔を見せていなくとも分かるものなのだろう。彼女は「ホントだよ」と相好を崩す。昔と変わらず姿勢のいい女だ。


「どうしたの」

「んー仕事で来たから姐さんの顔拝みになあ。相変わらず別嬪さんやわ、うん」

「そりゃあどうも。…そちらさんは? お友達かい」

「そ、」


 ちらっと振り返ってみたが、彼は礼儀としての会釈のみ。マジで愛想無しかい! とツッコミたかったが無理矢理連れてきた手前それは我慢。


「繁盛しとん?」

「おかげさまでね。ほどほどに。あんたはちゃんとやってるの」

「死なん・怒られん程度にな、」


 生来【適当に】やってきているのがバレているので彼女にはいつもこんな調子だ。冗談の通じない身内とは違って「あんたはそれでいいんじゃあないの?」と笑ってくれるのでほっとする。

 ふと店内に視線をやると、先客が何組かいるようで。それでも先刻の馬鹿騒ぎと比べれば大人しいものだ。ゆったり落ち着いて飲めそうだ。


「飲んでくわよね勿論」

「まさか挨拶だけで帰るわけないやん。姐さんにお任せするしえぇのんよろしくー」

「オッケー任せなさい」笑い。「折角だからたんまりふんだくってやろうかしら」

「おおいちょっとー! そこはおまけとかしてくれるとこちゃうん」

「ははははは、さーどうしようかしらね」

「怖いなぁ、もー…」


 とりあえず座りなさいなと勧められた席に腰を落ち着ける。テーブルを挟んで向かいにはさっきから本当に無言のままの相手。ご機嫌斜めでも仕方がないかと思って見ていたが、彼がどこかをじっと見ているらしいのに気が付いた。そして、それを追って自分も同じ方に目をやる。


――……うん……?


 そこにあったのは絵だった。壁にかけられた小さな額縁のそれは海の青らしい。


「……あーそっか。オマエ、海育ち――」

「こんばんは、いらっしゃいませ」


 若い女の声に阻まれたのか自分の独り言のようなそれは彼の耳には届かなかったようだった。そしてこちらも女に意識が移る。


「お兄さんのお隣いいですか?」

「もっちろん」

「あそこにいる女は?」


 うん? と自分と若い女と同時に目を剥いた。どの娘だろうと視線を彷徨わせてみたら、例の絵の傍でぽつんと椅子に座っている女がいた。装いや化粧は店の中にいる女達と同じような雰囲気だが、何というか、慣れていない風。瞳は不安げに揺れている。


「ああ、あの子はお話ができなくて――ここに来たばっかりで喋れないんですって。姐さんが旅先から連れて帰ってきちゃったとか何とかで、お勉強中なんです」

「へえ、そらまた……」


 あの人らしいなと思った。身寄りのない娘に弱くて、うちに来れば食べていけるように仕込んでやるとかいってこれまでも何人か引っ張ってきたと話だけは聞いている。もしかしたら店にいる女の何人かはそうなのかもしれない。


「何や、あの娘気になるんか」

「……」

「おーい、もしもーし? 戻ってこーい」


 言って戻ってくればよかったのだが、どうやら難しそうだ。反応がない。――おいおいまさかの一目惚れ? まさかこの男に限って?

 こんな事は今までなかったなと驚き半分面白半分で再び例の女を見やる。先ほどと変わらずただじっと座っているだけで――どちらかというとかわいらしい顔立ちではあるがこういう店にいる女らしくはない。

 言葉が通じないらしいとあっては客の相手もさせられまい。いやでも余計なことを喋らない・喋らなくていい女の方が無愛想なこの男にはいいのか。



 珍しく興味があるらしいのを、面白く思っての事だった。


「なあ姐さん。あの娘にコイツの酌だけさせたってみたら。コイツ、だんまりやし喋らんでも気にせんし、お固いから無体も働かんしさ。座っとるだけよりお酌だけでも出来たら、はよ慣れるかもしらんやん?」


 恐ろしい事に、最初の引き金を引いたのは自分だった。




(20140617)


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