管理職は暇を創るためにある?
そして、
私は再び暇になった。
山積みの書類は一気に減った。
新しい訴状も届いているが、
先日と同じ地域のもので、
盗賊対策施行前のもの。
意味不明なものに関しては、
わかりやすく書くように指示をした。
簡単なものは、部下に指示をし、
残ったのは、複雑な案件ばかりになった。
私は主任という立場だった。
部下の仕事を、
かなり引き受けていたと思っている。
しかし、
よくよく考えてみると、
ただ抱え込んでいただけだった。
それで疲弊し、運命を呪った。
フールプルーフという言葉がある。
人のミスを前提にし、そもそも間違えない、間違えても安全であることを目指す設計手法。
私は、
恐らく部下を低く見積もっていたのだろう。
ミスをすると傷つく。
すると離職する。
そんな風に思っていたと思う。
だからフールプルーフで、
部下が失敗しにくくした。
でも、
それはフールプルーフではなく、
フールウォール。
ただ壁を作っただけなのだろう。
もっと信じれば良かった。
うん……、
本当にそうか?
信じるに値する部下などいたのか?
アルフォートの記憶が入り込んでくる。
これは、
アルフォートが、
部下に相談している姿だ。
部下に相談?
ありえない。
いや待て……、
私はこの世界に来て、
相談をよくしている。
もう一度、
アルフォートの記憶が入り込んでくる。
これは、
アルフォートが、
一人で悩んでいる姿だ。
部下は無能だ……、
そんな風に感じているのがわかる。
あぁ、そうか……、
さすがソウルメイトだ。
まるで同じだ。
ちょっと待て。
そもそも……
私はなぜ管理職になった?
管理職とは何なんだ?
管理する職業だよな。
私は管理していたのか?
『名ばかりの管理職で、実体は部下の仕事を丸抱え』
そんな風に思っていた。
もしかしたら、
今のスタンスが本来の管理職なのではないか?
仕事が自分にだけ集中しない仕組み。
これを作るのが管理職なのでは?
オブジェクト指向。
その言葉が頭をよぎる。
責任を分ける。
必要なもの同士だけをつなげる。
一度作った仕組みは再利用する。
頭でわかっていても、
現実の仕事では使えていなかったのでは?
人も仕事も、全部自分の中に抱える必要はない。
それぞれに役割を持たせ、
必要な時に必要な仕事を渡す。
中でどう処理するかまで、
私が全部抱える必要はない。
仕事をモジュール化し、それぞれの責任者に任せる。
自分がどれだけ働いたかではなく。
全体を暇にする為の仕組み作り。
最終的には、
自分がいなくても回る状態を作る。
つまり完全な自動化。
自分がいなくても回る仕組みを作る。それは管理というより、ある種の自動化ではないか。
それがエンジニアとして管理職がやることなのでは?
「いやいや。それは理想論だ。あんなに無駄な仕事が山積みの職場で、そんな事できる訳がない」
私は呟く。
しかし、本当か?
アルフォートは、
受注先に問い合わせまで行ったじゃないか。
私にはできなかったのか?
権限は変わってないからできる。
そうか、
やれば出来たんだ。
本当に……、
やれたのか?
私に?
いや……。
人間は機械じゃない。
私もそうだ。
だから、
あの時の私にはやはり……、
無理だったのだ。
そうか……、
人間は機械じゃない。
だから自動化も無理なのだ。
でも、
エンジニアが自動化を諦めた瞬間。
それは、
離職したも同然なのではないか。
駄目だ。駄目だ。
思考が極端に振れている。
あぁ、こういう経験は前にもあった。
暇になると、
思考が乱れる。
空白がやはり怖いのだ。
空白が怖い……、
私はエンジニアだよな。
エンジニアは……、
利用者に空白の時間をつくるのが、究極の目的ではないのか?
今まで1時間かかっていた作業を1分で終わらせる。
すると59分の空白が生まれる。
そうだった、
私達は世界を便利に速くしてきた。
結果どうなった。
人々は楽になったのか?
楽になったと思うし、
生産性も上がっただろう。
しかし、
昔より忙しくなってないか?
会社からの帰り道、
夕日がきれいだと思ったことはあったか?
しんしんと積もる雪を見て、
風情を感じたことがあったか?
秋の虫の音を聞いて、
心が安らぐことがあったか?
私達が空白を作れば作るほど、
世界の時間は埋まっていってはしないか?
完全なシステムができ、空白が生まれたら。
私達エンジニアは、どうなってしまうのだろうか?
仕事は?
果たしてあるのだろうか。
そして、
その状態をエンジニアは望むのだろうか?
エンジニアの究極目的と、
エンジニアの生存は両立できるのだろうか。
(こんこんこん)
「セコイアです」
「どうぞ」
「アルフォート様。孤児院が了承いたしました。
後日お礼に伺いたいとの事。
倉庫も確認してまいりました。
多少補修が必要な個所もありますが、使用には問題がありません」
「そうか。ありがとう」
「アルフォート様。どうかされました?お顔の色が……」
「あぁ少し考えこんでしまってね。暇になるとつい……」
「お気持ちわかります。私もいらぬ事を考えてしまいます」
「セコイア。君もかい」
「はい。だから今はとても楽しいです」
「なるほど」
「お暇なのでしたら、お供致しますので、お屋敷を回られては。
色々確認して、不備があれば、使用人に申しつけてください」
「そうだね。使用人に暇を持たせるのも申し訳ない」
「そうです。仕事のない時の暇さときたら、何度あくびをすることか」
セコイアは笑った。
「私もそうだが、忙しいというのは、割と良いものだ」
「はい」
私達はセコイアと、
屋敷を回ることにする。
途中あくびをしている使用人を何度か見た。
「君の言う通り、たしかにあくびをしているね」
「はい。ご主人様がお忙しい中、あくびをするとは、と思いながら、やはりあくびは出てしまいます」
私は考える。
暇な時間があるというのは、
それはシステムが効率よく動いているという事であり、
究極はやはり退屈なシステムが望ましい。
それは間違いないだろう。
ただ、
そこにいる人間には、退屈なシステムは拙い。
では完璧なシステムを稼働させながら、
そこにいる人間を飽きさせない事はできるのか?




