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9/12

管理職は暇を創るためにある?

そして、

私は再び暇になった。


山積みの書類は一気に減った。

新しい訴状も届いているが、

先日と同じ地域のもので、

盗賊対策施行前のもの。


意味不明なものに関しては、

わかりやすく書くように指示をした。


簡単なものは、部下に指示をし、

残ったのは、複雑な案件ばかりになった。


私は主任という立場だった。

部下の仕事を、

かなり引き受けていたと思っている。


しかし、

よくよく考えてみると、

ただ抱え込んでいただけだった。


それで疲弊し、運命を呪った。


フールプルーフという言葉がある。

人のミスを前提にし、そもそも間違えない、間違えても安全であることを目指す設計手法。


私は、

恐らく部下を低く見積もっていたのだろう。

ミスをすると傷つく。

すると離職する。

そんな風に思っていたと思う。


だからフールプルーフで、

部下が失敗しにくくした。


でも、

それはフールプルーフではなく、

フールウォール。

ただ壁を作っただけなのだろう。


もっと信じれば良かった。


うん……、

本当にそうか?

信じるに値する部下などいたのか?


アルフォートの記憶が入り込んでくる。

これは、

アルフォートが、

部下に相談している姿だ。


部下に相談?

ありえない。


いや待て……、

私はこの世界に来て、

相談をよくしている。


もう一度、

アルフォートの記憶が入り込んでくる。

これは、

アルフォートが、

一人で悩んでいる姿だ。

部下は無能だ……、

そんな風に感じているのがわかる。


あぁ、そうか……、

さすがソウルメイトだ。


まるで同じだ。


ちょっと待て。

そもそも……

私はなぜ管理職になった?


管理職とは何なんだ?


管理する職業だよな。


私は管理していたのか?

『名ばかりの管理職で、実体は部下の仕事を丸抱え』

そんな風に思っていた。


もしかしたら、

今のスタンスが本来の管理職なのではないか?


仕事が自分にだけ集中しない仕組み。

これを作るのが管理職なのでは?


オブジェクト指向。


その言葉が頭をよぎる。


責任を分ける。

必要なもの同士だけをつなげる。

一度作った仕組みは再利用する。


頭でわかっていても、

現実の仕事では使えていなかったのでは?


人も仕事も、全部自分の中に抱える必要はない。


それぞれに役割を持たせ、

必要な時に必要な仕事を渡す。


中でどう処理するかまで、

私が全部抱える必要はない。


仕事をモジュール化し、それぞれの責任者に任せる。


自分がどれだけ働いたかではなく。

全体を暇にする為の仕組み作り。


最終的には、

自分がいなくても回る状態を作る。

つまり完全な自動化。


自分がいなくても回る仕組みを作る。それは管理というより、ある種の自動化ではないか。


それがエンジニアとして管理職がやることなのでは?


「いやいや。それは理想論だ。あんなに無駄な仕事が山積みの職場で、そんな事できる訳がない」

私は呟く。


しかし、本当か?

アルフォートは、

受注先に問い合わせまで行ったじゃないか。

私にはできなかったのか?

権限は変わってないからできる。


そうか、

やれば出来たんだ。


本当に……、

やれたのか?


私に?


いや……。


人間は機械じゃない。


私もそうだ。

だから、

あの時の私にはやはり……、

無理だったのだ。


そうか……、

人間は機械じゃない。

だから自動化も無理なのだ。


でも、

エンジニアが自動化を諦めた瞬間。

それは、

離職したも同然なのではないか。


駄目だ。駄目だ。

思考が極端に振れている。


あぁ、こういう経験は前にもあった。

暇になると、

思考が乱れる。


空白がやはり怖いのだ。


空白が怖い……、

私はエンジニアだよな。

エンジニアは……、

利用者に空白の時間をつくるのが、究極の目的ではないのか?

今まで1時間かかっていた作業を1分で終わらせる。

すると59分の空白が生まれる。


そうだった、

私達は世界を便利に速くしてきた。


結果どうなった。

人々は楽になったのか?


楽になったと思うし、

生産性も上がっただろう。


しかし、

昔より忙しくなってないか?


会社からの帰り道、

夕日がきれいだと思ったことはあったか?

しんしんと積もる雪を見て、

風情を感じたことがあったか?

秋の虫の音を聞いて、

心が安らぐことがあったか?


私達が空白を作れば作るほど、

世界の時間は埋まっていってはしないか?


完全なシステムができ、空白が生まれたら。

私達エンジニアは、どうなってしまうのだろうか?

仕事は?

果たしてあるのだろうか。


そして、

その状態をエンジニアは望むのだろうか?


エンジニアの究極目的と、

エンジニアの生存は両立できるのだろうか。


(こんこんこん)


「セコイアです」


「どうぞ」


「アルフォート様。孤児院が了承いたしました。

後日お礼に伺いたいとの事。

倉庫も確認してまいりました。

多少補修が必要な個所もありますが、使用には問題がありません」


「そうか。ありがとう」


「アルフォート様。どうかされました?お顔の色が……」


「あぁ少し考えこんでしまってね。暇になるとつい……」


「お気持ちわかります。私もいらぬ事を考えてしまいます」


「セコイア。君もかい」


「はい。だから今はとても楽しいです」


「なるほど」


「お暇なのでしたら、お供致しますので、お屋敷を回られては。

色々確認して、不備があれば、使用人に申しつけてください」


「そうだね。使用人に暇を持たせるのも申し訳ない」


「そうです。仕事のない時の暇さときたら、何度あくびをすることか」

セコイアは笑った。


「私もそうだが、忙しいというのは、割と良いものだ」


「はい」


私達はセコイアと、

屋敷を回ることにする。


途中あくびをしている使用人を何度か見た。


「君の言う通り、たしかにあくびをしているね」


「はい。ご主人様がお忙しい中、あくびをするとは、と思いながら、やはりあくびは出てしまいます」


私は考える。

暇な時間があるというのは、

それはシステムが効率よく動いているという事であり、

究極はやはり退屈なシステムが望ましい。

それは間違いないだろう。


ただ、

そこにいる人間には、退屈なシステムは拙い。


では完璧なシステムを稼働させながら、

そこにいる人間を飽きさせない事はできるのか?


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