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セコイアの憂鬱

「セコイア。仕事はどうだ?」


「どうとおっしゃいますと?」


「そうだね。楽しいかとか、困ったことはないかとか……」


「そうですね。楽しい時もありますし、退屈な時もあります」


「そうか。それは一緒だな。困ったことは?」


「困ったこと……、

お食事も毎日頂いてますし、

アルフォート様のお陰でスープも美味しくなりました。

特に困ったことは……、

特に思いつきません。

アルフォート様こそ、困ったことはないですか?」


「悩みがあってね。完璧なシステムというのは、どこか退屈なものだ。わかるかい?」


「まさにアルフォート家ですね……、すみません。失礼な事を」


「いや。

まさにそうなのだよ。

完璧なシステムだから、あくびが出る。

それは良い事なのだけど、退屈でもある」


「確かに……」


「その退屈なシステムでも、そこにいる者を、充実させるとか、楽しませることは出来ないだろうか?」


「退屈なシステムでも、楽しませるのですか……。たまに仕事場を交代させるとかは?」


「仕事場を交代させる?」


「はい。

使用人達は、基本それぞれの場所で完璧な仕事をしています。

それはそれで技術が向上して良いのですが、たしかに退屈です。

だから、たまに誰かと誰かを交代させる。

これをやれば良いのでは?」


「つまり、それは庭師が料理をするみたいな事?」


「はい」


「それで困らないかな」


「そうですね。基本的にそれぞれの職場に何人かいますし、協力しあってやるので、その日多少の仕事の出来が悪くはなるかもしれませんが、翌日には元の持ち場へ戻りますし、大きな影響はないと思います」


「なかなか大胆な案だね。球技大会とかそういうのを提案されるかと思ったよ」


「球技大会とは?」


あぁこの世界には球技という概念がないのかもしれないな。


「遊びの大会みたいなものだよ」


「なるほど。それも良いですが、他の職場の事を知れば、そこの苦労や大切さを知ることになるので、互いに尊重できるようになるかもしれないと」


「それは賢いな」


「あ、ありがとうございます」

セコイアは顔を真っ赤にした。


「では、それでやってみようか」


「はい。

では名目は?

まさか刺激になるようにとは言えませんよね」


「そうかな……、拙い?」


セコイアは首を傾げる。


「いや……、どうでしょうか。

皆が私のように、暇が嫌な訳でもないと思うので」


「うーん。

困ったな。

あぁそうだ。ビターにも聞いてみよう」


「そうですね。今ならこちらにいると思います」


私達は厨房から少し離れた倉庫に向かった。


「アルフォート様。どうかされましたか?」

ビターは駆け寄ってきた。


「いや。実は使用人達の仕事場をたまに交代させる事を考えていてね」


「仕事場を交代させるのですか……、それは技術に不満があるとか?」


「いや、そうじゃなくって、ずっと同じ仕事場だと、退屈に感じるだろうと思ってね」


「なるほど。それは確かに。いいじゃないですか。たしかに退屈ですし。おっと失礼」


「いや良いんだ。退屈なシステムはいいんだけどね。あくびが出るだろ」


「はい。今日なんかも5回くらいは出てますよ。内緒ですけどね」


「私に言ってたら、内緒じゃないだろ」


「はは」


「それで、これを他の使用人にどう言おうかなと思ってね」


「それなら、はっきりと、同じ仕事場だと退屈に感じる者もいるから、と言ったほうが良いです」


「理由を聞いても?」


「やはり仕事場を変えるとなると、腕が悪いからじゃないか?とかそういう不安を持つ者が出てきます」


「なるほどな。じゃあこの仕事場を変えるのも、少し遊戯のような感じでやるほうが良いかもしれないな」


「アルフォート様。それはどういう?」

セコイアは興味深そうに覗き込んだ。


「そうだね。週に1回。サイコロの目で決めるとか。そういうのだ」


「それは面白い。

私もシェフの仕事には文句はないのですが、たまに庭いじりとかどうかなとか、そういうのを思うのですよ。

週に1回。

違う仕事ができる可能性があるなら、それは良いと思います」


私はセコイアに使用人の皆を集めるように言った。


使用人が集ったので、私は経緯を説明した。


「アルフォート様。よろしいですか?」

執事が手をあげた。


「そのお話面白いと思いますが、一点問題があります」


「問題というと」


「私の仕事は、私にしか出来ません」


なるほど、

執事の仕事は采配。

確かに他に任せるのは困難だ。


「他にも、同じような意見の者はいるか?」


誰も手を上げない。


「ビター。君はどうだ?」


「お屋敷で何か会をする時に、私が別の所に行くわけにはまいりませんが、他の日であれば、逆に若いのも刺激があって良いでしょう。なぁお前ら」


「ビターさんがいないのは不安ですが、たしかに良い刺激かもしれません」

皆頷く。


「セコイア、君はどうだ?」


「アルフォート様が、どうしても私じゃないといけないという日は駄目ですが、それ以外なら」


「つまり、問題のない日であれば、構わないという事で良いかな?」


「はい」

一同頷く。


「アルフォート様。選び方はお決めなさいましたか?」

執事は尋ねる。


「いや決めてないんだ。サイコロとかにしようと」


「なるほど。

サイコロも良いですが、少々複雑になります。

ここは使用人分の紐などを用意して、その紐の先に当たりの何かをぶら下げるのはいかがでしょうか?」


「なるほどな。それは妙案だ。では当たりは二本。明日の交代要員ということにしよう」


「すぐにご用意いたします」


「では、早速明日からやろう。良いかな」


「はい」


「では、すぐに用意いたしますので、しばらくお待ちください」


執事は急ぎ部屋を出た。

十分ほど経ったあと。


「お待たせしました」


私は確認して、紐を束ねる。


「じゃあ順に引いていこう」


使用人達は、執事の持つ紐を引いていく。


「ハズレか」


「私もハズレ」


「残念」


そんな声が聞こえた。

皆意外と楽しみにしてるのだ。

そう思うと、

少しおかしくなってきた。


「当たった」

まず声を上げたのは、調理人の少年だった。


「お前が当たったのか。じゃあ明日は別の奴が来るんだな。できれば花が欲しいな」

ビターは楽しそうだ。


くじ引きが再開される。


「ハズレ」


「残念」


「厨房だったら、つまみ食いできそうなのに~」


「おぉ当たった!」

声を上げたのは、

年配の男の庭師だった。


「なんだ。花じゃねぇじゃないか」

ビターは悔しそうにする。


「そうだな。俺は花じゃねぇ。花を育てる者さ」

庭師は笑った。


使用人一同笑う。


「ははは。可笑しい。こんなに皆が笑ってるの初めて見ました」

セコイアは楽しそうに笑った。


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